いつもと同じ日曜日の朝。
紅茶を飲みながら携帯をチェックした。
フロリダのゲイクラブ銃撃のヘッドラインでニュースフィードが埋め尽くされていた。
「死者20人」という数字はどんどん増えて、午後には「死者50人」になっていた。
イスラム教徒であるオマル・マーティン容疑者がゲイを嫌悪していたという証言も出てきた。
そんな悲しいニュースと共に、ネット上は醜い言葉で溢れていた。
多くの人たちは怒りの矛先をイスラム教徒へと向けた。
携帯の電源を切った。
正直、あまりのショックに頭の中が真っ白だった。
6月、トロントはプライド月間を盛大に祝っている真っ只中である。
プライドが抗議デモから祝典に変わったのは、それだけ社会が変わったという証拠だ。
しかし、2016年にフロリダのゲイクラブで50人が銃殺されたというニュースはそれを揺るがすには十分だった。
その場にいた人たちのことを考えただけで胸が痛んだ。
時代が変わっても、ゲイだということで殺される。
その現実は残酷だ。
そして、今でも多くの人が差別や偏見のせいで命を落としている。
毎年、多くのトランスジェンダーの人たちがヘイトクライムで殺されている。
LGBTコミュニティの自殺率は相変わらずで、いじめ問題も深刻である。
ゲイクラブの帰りに夜道を歩く時、恐怖とは隣り合わせだ。
同性婚という華やかな権利で何もかも解決したわけではない。
今夜、世界各地で追悼イベントが行われた。
トロントも例外ではない。
ロウソクを手に握って、1000人以上の人たちがチャーチストリートに集まった。
トロント市長やオンタリオ州首相まで出席していたことに驚いた。
近くに立っていた男の子は声に出して大泣きしていた。
周りの人たちは彼を気にかけていた。
そこには笑顔や優しさや愛が溢れていた。
こうやって支え合うことで、このコミュニティは悲しい出来事を乗り越えてきた。
「暴力に対して、暴力で立ち向かってはいけない。このコミュニティは愛で暴力に打ち勝ってきた歴史がある。どうか、イスラムフォビアでホモフォビアに対抗しないでほしい。」
「ゲイを嫌う行為も、イスラム教徒を嫌う行為も、同じ差別である。別々の問題ではない。片方の差別を許さずに、もう片方の差別に手を貸してはいけない。」
「フロリダ州と同じように、トロントにも未だに問題がたくさんある。ホモフォビア。トランスフォビア。人種差別。性差別。そうした問題から目を背けてはいけない。」
数々のスピーチの末に、数え切れないロウソクに火が灯された。
暖かい光に照らされながら、手を繋いでみんなで祈った。
朝からずっとモヤモヤしていた気持ちが少し晴れた気がした。
「こんな悲しい事件があったからって、私たちがプライドを祝うことをやめるわけがない。暴力と恐怖で攻撃されるなら、私たちは愛で立ち向かうだけだ。自分を誇りに思う権利は誰にも奪えない。」
このスピーチの言葉がとてもしっくり来た。
今年のプライドは例年以上に盛り上がりそうだ。
All Photos Taken By キャシー
(2016年6月13日「トロントのハッテン車窓から」より転載)