子どもにはスマホより読書が良い? 情報収集に「終わり」があるということ

小学生の息子に教える「メディアとの付き合い方」
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子どもがなかなか読書をしてくれない——。小学生の子どもを持つ多くの保護者の悩みではないでしょうか。私の子どもは現在11歳の小学生。本を読む時間より、YouTubeを見たり、友達とオンラインゲームをしたりする方が長いです。宿題のレポートを書くときも、本を開くよりも先に、スマホやタブレットで調べています。

 読書の魅力はたくさんあります。面白い小説のページを開けば、わくわくするようなストーリーを楽しめますし、歴史や科学の本を読むと知識を身につけることができます。

でもよく考えると、ネットでも同じ「メリット」が期待できる。ネットより「本の方が優れている」という理由には、全くならない。

 ただ、本にしかないメリットを一つあげるとすれば、それは「終わり」があるということ。際限なく閲覧できるネットと違って、本は紙幅に制限があるので、楽しんだり調べたりすることを「ある程度のところ」でやめることができます。あとは、一人で考えるしかない。

みなさんは「本の魅力」について子どもにどう伝えてますか?

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 読書は「ハードル」が高い

 「読書」とは何でしょうか。私のiPhoneに入っている辞書アプリ「新明解国語辞典」を引いて意味を調べてみました(ちなみに紙の辞書より便利です)。

 《 一時(イツトキ)現実の世界を離れ、精神を未知の世界に遊ばせたり 人生観を確固不動のものたらしめたりするために、(時間の束縛を受けること無く)本を読むこと 》

 と書いてあります。しかも、「寝転がって漫画本を見たり 電車の中で週刊誌を読んだりすること」は「本来の読書には含まれない」とご丁寧に注釈まで

こう考えると、読書ってめちゃくちゃハードルが高いです。私の11歳の長男は気が散ってばかり。もちろん本も読みますがが、「精神を未知の世界に遊ばせる」前に、YouTubeやTik Tokを見ています。

 大人もそんなに変わらないのではないでしょうか?

少なくとも、私はそうです。友達とLINEをしている合間に、仕事のメールに答え、その合間にSlackで同僚と話し、その合間にYahoo!やSmartNewsでニュースを読んでいる。集中力が必要な「読書」のハードルがますます上がっています。 

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大学生の半数が読書時間「ゼロ」

本が少しでも「つまらないな」と思ったとき、10年前だったら粘って読書を続けたのでしょうが、今の時代ではスマホに手を伸ばせば楽しいコンテンツであふれています。「本」は時代遅れなのかもしれません。

 うちの子どもより少し「大きい」大学生はどうでしょう?全国大学生協連合会の調査では、1日の読書時間が「ゼロ」の大学生は、48%。半分近くが1日の中で、まったく本を読んでいません。スマホをいじっている時間が「読書の時間」を浸食しているのはあきらかです。

 私は、本のメリットは大きく二つあると考えています。冒頭で挙げたように、①小説などでストーリーや美しい文章など本そのものを楽しむ ②ビジネス書や専門書を通して知識を得る、という点です。

 それ以外にも、次のように様々な魅力があるのではないでしょうか。

 ・作者と対話をすることで、自分の悩みと向き合える。

 ・国語力が身につく。

 ・自分で考えるクセが身につく。

 ・順を追ってページをめくることで論理的思考を習得できる。

 しかし、です。これまた冒頭で書いたようにいずれもネットで身につけられます。うちの子どもは、Netflixを通して、感動的な物語と出会っていますし、ウィキペディアやニュースサイトを通して、結構な物知りになっています。

 オンラインゲームをやっていますが、プレイ中、音声マイクを使いながら友達とおしゃべりをしています。聞いているとその日の出来事について、語りあっています。

単に「遊んでいる」わけではないですし、今後e-sportsが流行することが予想されるので、こういうかたちでの人との交流にも慣れておいた方が良いなと思いながら彼の様子を見ています。

 そのほかにも、知らない単語があったら、ネットで調べていますし、もう少し大きくなったら、オンライン教育動画で、数学や歴史の勉強もするかもしれません。

たまにネット上でプログラミングを体験できるサイトを楽しんでいるので、「論理的思考」も自然と学んでいる可能性があります。ネットは本に劣らない魅力があるのは明白です。

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子どもの学校の先生に聞いた。「読書の魅力とは…」

「子どもにとって、読書のメリットって何ですか」。先日子どもの保護者会で、先生に聞いてみました。

「読書もネットも、両方使えばいいと思います」と先生。子どもの学校では、授業中にiPadを使って調べることもしてますし、レポートなどでネットの情報源を引用するのもOK。バランスが取れた答えだな、と思いました。

その後の言葉が、特に私の印象に残っています。

「ただ、あえて紙の本のメリットをあげるとすれば、動画やネットサーフィンを楽しんだり情報をどんどん調べられたり出来るネットと違って、『終わり』があることでしょうか。ネットは次から次へと見ることができてしまいますが、1冊の本はページに終わりがある」

もちろん本も、何冊も何冊も読み進めれば「終わりはない」のでしょうが、自宅や学校に「すべての本がそろっている」ことはあり得ないです。その点、インターネットは、まるで情報が「無限」に手に入るかのような空間が広がっています。

楽しむための読書も、何らかの知識を身につけるための読書も、どこか「終わり」があることが大切なのではないでしょうか。

小説だったら、「あ、この作者のこと気になるな」とか「他の作品を読んでみたいな」と思う。作者の経歴から噂話まですぐ調べられたり、関連作品や似たような作品を「オススメ」したりしてくるネットと違って、本は閉じたら「終わり」です。次に書店や図書館に行くまでの「宙ぶらりん」の時間ができます。そうやって何にも頼らない「一人で考える時間」が大事なのではないでしょうか。

あるいは、学校の社会のレポートを読むために、たくさんの歴史の本を読んでも、どこかでピタッとやめて、執筆に向かわないといけません。分からないことは分からないことなりに書くことが求められています。ネットなら、次から次へと情報が出てくるので、ウチの子どもを見ていてもなかなか書き始めません。

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 ネットで「終わり」を作る検索術

 この先生はネットでも「終わり」をつくることが出来る、とおっしゃっていました。ゲームやYouTubeなどを見るためのスマホを使える1日の時間を決める、が第一です。これは多くの家庭でもやっていると思います。

二つ目は、ネット検索をするときに、「すべてのページ」を見ないよう制限をかけることが大事だ、とおっしゃっていました。

 コツは、調べたいキーワードのあとの「関連ワード」を付けること。たとえば「地震」について調べたかったら、「スペース」を入れて、「学研」と入力するのがオススメだ、と教えてくれました。「地震 学研」「本能寺の変 学研」「政治家の仕事 学研」という風に、です。

 そうすると多くの情報が正確に分かりやすくまとまっている「学研キッズネット」のページにつながります。大事なのはそれ以上あまり調べないこと、だとおっしゃっていました。

1996年生まれのこのサイトは、記述がシンプルで分かりやすい。早速子どもに伝えたところ、ネット検索で右往左往する時間が減りました。

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 GAFAの都合で勝手に終わる?

 ところで「終わり」がないようにみえるインターネットですが、パソコンやスマホの調子が悪いとか、Wi-Fiが繋がらないとか、そんな理由で「終わって」しまうことはたまにあります。

 それに、インターネットといえば自由なイメージがありますが、実際は情報の流通の多くの部分は、GAFAと呼ばれているGoogleやFacebookがおさえています。

何かを調べるときはGoogleの検索エンジン経由ですし、ニュースもFacebookのタイムラインに出てくる頻度によって拡散に影響を与えます。彼らの「都合」で情報が閲覧できなくなったり、制限がかかってきたりする可能性だってある。

 コカインを使用したとして麻薬取締法違反の疑いで逮捕されたピエール瀧被告の楽曲について、Apple MusicやSpotifyなどで制限がかかったように、ネット企業の「考え」で手に入りにくくなる情報だってあります。

 無限に思えるネットにも「終わり」は存在し、ときには、利用者が自分の決められない、企業都合の「終わり方」をする。

そんな時代にこそ、読書もネットも、「終わり」を意識しながら使っていった方がいいのでは。そんなことを、子どもにこれから伝えていこうと思う今日この頃です。

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私は朝日新聞の記者として2002年にキャリアをスタートして、2016年にインターネットメディアのハフポスト日本版の編集長に就きました。

これまでたくさんの記事を書いてきましたし、今はテレビやイベントで大勢の人の前で話します。そのためのインプットとなる読書も続けてきました。

こうした「本棚術」など、自分なりの「知的生産術」を短い文章でハフポスト日本版で書いています。テーマは ①本棚術(読書術)②文章術 ③メモ術 ④スピーチ術 ⑤頭と心を休める術 ⑥イベント運営術などです。

もし良かったらちょっとした「スキマ時間」に読んでみてください。

<過去の記事>

第1回 知的生産のための本棚120%活用術

第2回 10連休明けの憂鬱な気分を解消する「過去の本」読書術

第3回 航空券を本にはさむと、読書の質がアップする

ちなみに上記6点以外の「人脈(仕事のチームづくり)術」は書いたばかりの本「内向的な人のための スタンフォード流ピンポイント人脈術」(ハフポストブックス/ディスカヴァー・トゥエンティワン)に書いています。こちらもぜひ手に取ってみてください。

名刺交換のあとの雑談が苦手、立食パーティーが苦手…そんな内向的な人こそ、これからの時代は活躍できるということをお伝えした本です。SNS時代の「つながり方」について真剣に考えぬいた一冊です。