今回のサミットを総括すると、目下人類が直面する、大変重要で普遍的なテーマを議題に選び、先進国だけでなく途上国にも利益をもたらす対策を提示するとした意気込みは、大胆かつ適切であったと評価できる。しかし、それらが投げかける問いの重さに比べ、今回G8が示した回答は、軽くて不十分なものに留まったと言わざるを得ない。

英国・北アイルランドで2日間にわたって開かれていた主要国首脳会議(G8サミット)が閉幕した。このサミットを巡る歴史的・今日的な文脈と意義づけについては、前回の投稿をご覧いただくとして、今回は、このサミットで何が中心的に議論されたのか、そして、それに対する、評価を示したい。

今回のサミットでは、議長国イギリスをはじめG8諸国で政治問題化しつつある、多国籍企業や大富豪による税逃れの問題と、途上国の土地に対する商社やアグリビジネスによる一部の投資活動が現地農民の強制立ち退きと貧困・飢餓の原因となっていることに焦点が当たった。

それぞれの問題について、簡単に解説すると、以下のようになる。

租税回避: 資本主義と国民国家を基本にした近代の体制が国民多数にとって繁栄をもたらすのか、それとも略奪と欠乏をもたらすのかを左右する問題。

  • 世界の富裕層がタックスヘイブンと呼ばれる極端に税率の低い国や地域に隠している資産は、少なくとも18兆5000億ドル(約1850兆円)に上り、これによって各国は合計1560億ドル(約15兆6000億円)の税収を失っている。
  • 18兆5000億ドルのうち40%は、G8の管轄下のタックスヘイブンに隠されており、これによる世界の税喪失額は660億ドル。
  • 税収に穴が開くことにより、(1)教育、保健医療、介護、社会保障、インフラ整備などの公共予算が削減され、サービスの廃止、値上げ、質の低下などで国民生活を圧迫する、(2)持てる者から持たざる者への再分配という、国家の中枢機能が損なわれる、(3)民主主義に対する国民の信頼が失われ、政治が荒れる、などの問題を引き起こす。

※上記の統計は、個人による隠し資産の規模を示すものであり、企業による租税回避は含まない。企業による移転価格操作によって途上国から不正流出する金額は、約1600億ドル。

土地収奪: 気候変動などを原因とする、土地や水などの資源を巡る競争の激化を前に、先進国途上国の食料安全保障の両立が可能かどうかを左右する問題。

  • 食料とバイオ燃料への需要の高まりを背景に、資産投資として農業投資を捉える動きが加速。毎週途上国で、カナダのオタワ市に匹敵する面積の土地が取引されている。
  • このような大規模な土地取引が秘密裏に行われるケースが多いため、対象地に住む人々が同意なしに突然土地を追われる事態が多発。そのような土地取引は、住民の土地に関する権利についてのガバナンスが弱い国や貧困率の高い国に集中しているため、被害者は極度の貧困や飢餓に陥りやすい。他方、不透明な取引の結果紛争に発展した際には、投資家も大きなリスクを被る。
  • 住民の権利を守る責任ある土地投資のための国連ガイドラインが2012年5月に合意され、世界銀行も今年の4月、土地取引を含む事業に関する世銀のセーフガードを強化する移行を発表。このような投資を行う企業の本社を多く抱える先進国の政策が問われている。

では、それぞれの議題が、今回のサミットでどのように議論され、どのような合意がなされたのかを見ていこう。

1)租税回避

サミットの2日前にロンドンで開催された、税、貿易、透明性について議論する政府間イベント「Open for Growth」にて、キャメロン英首相が、英国の管轄下にある10のタックスヘイブンが多国間の「税務行政共助条約」に参加することを発表した。この条約は、加盟国の税務当局間で要求に応じて、海外に資産を移して租税回避を行っている企業や個人の情報を相手国から取り寄せたり、当該国に代わって取り押さえを依頼できるようになるもの(日本では国会がサミットの初日に参加を承認した)だが、肝心の資産の隠し先であるタックスヘイブンがこれまでこの条約に加盟していなかったため、実効性に大きな限界があった。上述の通り、世界のタックスヘイブンに隠された資産のうち40%はG8の管轄下にあり、そのうちの多くは英国の下にあるので、この決定により、同条約加盟国が情報を追跡しやすくなった。

加えて、サミット本番に向けては、企業その他の法人を所有し、その活動から利益を受ける立場の人物(「受益所有者」)に関する情報を国家が把握できるようにすることで、幽霊会社や複雑な社内ネットワークを使って企業が各国の法の網をくぐりぬけて不当な節税するのを防ぐようにすることと、上記の条約よりも一歩進んで、国家間での要請がなくても自動的に課税対象に関する情報を交換できる、国家間の税情報自動交換制度の導入の是非が議論された。

その結果、受益所有者情報の把握についてはG8各国が国別に行動計画を作ることになったが、その情報を税務当局以外の市民や途上国に対して公開することについては否定的な姿勢を取った。税情報の自動交換制度については、これを二国間協定中心から多国間制度にすることを決め、途上国にも裨益するための方策をOECD(経済協力開発機構)に指示したが、具体的にいつどのように途上国がこれに関与できるようになるのかについての合意は皆無に終わった。

租税回避による被害は先進国・途上国の違いを超えて受けるものであるにもかかわらず、税の秘密主義がもたらす社会的害悪を乗り越えるために作ったはずの所有者リストを先進国間の秘密にし、情報の自動交換制度への途上国参加も目途が立たないのでは、この取り組みによる税収という利益が先進国だけに偏ってしまうという問題を引き起こす。

2)土地取引の透明性

この議題では、G8に拠点を持つような海外投資家が途上国の土地に投資しやすくすることだけを目的とせずに、現地に住む人々の権利や彼らへの裨益を損なわないようにできるかが問われた。その点で、途上国の農民運動なども、その内容や決定プロセスにおける民主性などの観点から高く評価している、国連の「農地、森林、漁業の権利の責任あるガバナンスに関するボランタリー・ガイドライン(VG)」を途上国で実施していくのを支えるための、複数のG8国と途上国の二国間パートナーシップがいくつか立ち上がることが決まった(日本は含まれず)。具体的には、VGで決められた土地取引に関する手続きなどについて、途上国の法整備やその運用に向けた政府の能力強化などを支援するものと思われる。

ただ、土地収奪を防止するためには、そのような環境整備に加え、そういった決まりを守るよう、企業の行いをしっかりと規制しなければならない。しかし今回のサミットでG8は、自国内の企業に対してそのような規制を行うことについては、話し合った形跡はない。

土地問題については、2015年に議長を務めるドイツが積極姿勢を示しているため、そのサミットまでに、今回合意したパイロット型とも言える一連の二国間パートナーシップをより多国間化、システム化したイニシアティブを立ち上げ、国内企業に対して土地取引案件に関する情報開示の義務付けや規制も導入できるかどうか、大きな宿題が残ったと言える。

今回のサミットを総括すると、目下人類が直面する、大変重要で普遍的なテーマを議題に選び、先進国だけでなく途上国にも利益をもたらす対策を提示するとした意気込みは、大胆かつ適切であったと評価できる。しかし、それらが投げかける問いの重さに比べ、今回G8が示した回答は、軽くて不十分なものに留まったと言わざるを得ない。特に、租税回避による予算不足で暮らしが苦しくなる人々や、今も外資による大規模投資で暮らしていく場所や手段を奪われかねない人たちの立場に立つと、サミットと前と後で何かが変わった、もしくは確実に変わるだろうとは言い切れない。

また、2つのテーマとも、実効性を持たせるには他の国際プロセスとの連携が欠かせない。各国が税による再分配機能を回復するには、タックスヘイブン対策のほかに、多国籍企業による国別収支報告の義務化や、国家間の法人下げ競争などをやめるための政策協調などが必要で、G20との連携が必要となる。土地収奪についても、そのプッシュ要因ともなっている食料価格の乱高下の構造的側面、例えば投機マネー対策はG20、気候変動は国連交渉での前進が不可欠だ。

地球規模課題の解決に向けたグローバル・ガバナンスが麻痺して久しい。今回のG8でせっかく重要問題を適切に分析し、対策を議論したからには、ぜひとも粘り強く継続的に取り組むとともに、上記のようなフォーラム間の連携なども強化してほしい。

G8首脳はサミットで世界の貧困解決に向けてホールインワンしたか?(@OxfamJapan)

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