お母さんが2人、子どもが2人。血縁のつながりもあるのに、法的な親子関係が認められていない――。
女性同士のカップルが、一方が過去に「男性」だった頃の凍結精子を用いて生まれた子どもの認知を求めている裁判の判決が2月28日、東京家庭裁判所であった。小河原寧裁判長は「現行法制度と整合しない」などとして請求を棄却し、親子関係を認めなかった。
いったい、どんな裁判なのか。
「2人のママ」が子どもの認知を求めている
子どもの認知を求めているのは、事実婚状態にあるレズビアンカップルのAさん(仮名、30代女性)とBさん(仮名、40代女性)。東京都内在住で、2人の娘を育てている。
2人の子どもを産んだのはAさんだ。Aさんは、Bさんが「男性」だった頃に凍結保存していた精子の提供を受け、子どもたちを授かった。
Bさんは、出生時に割り当てられた性別は男性だったが、自身の性自認は女性で、2018年に性別適合手術を受けた後、性同一性障害特例法に基づいて法律上の性別を女性に変更した。現在は、法的にも女性として生活している。Bさんは男性として生活をしていた時、自身の精子を凍結保存していたのだ。
つまり、AさんもBさんも、子どもたちと血縁関係にあり、実の親にあたる。
しかし、2人を出産したAさんは法律上も子どもたちと親子関係にあるものの、性別変更したBさんと子どもたちの間には、法律上の親子関係がない。
日本では同性同士の婚姻が認められておらず、同性カップルは、子どもの共同親権を持つことも認められていないためだ。
Bさんは子どもたちの認知を望んだが、自治体は認知届を受理しなかった。
AさんとBさんは、2021年6月、認知届が受理されなかったことは違法などとして、損害賠償などを求めて国を提訴。さらに、子ども2人を原告、Bさんを被告として、法的な親子関係の認知を求める訴訟を東京家裁に提起した。
「父とも母ともならない」と結論づける判決。なぜなのか?
東京家裁の判決は、Bさんと子どもたちに血縁上の親子関係があると認めながらも、「法律上の親子関係を認めるのは相当ではない」と結論づける内容だった。なぜなのか。
判決では、民法が規定する「父」は男性、「母」は女性を前提としている、と指摘。
その解釈をもとに、男性から女性に性別変更をしたBさんが「父」に当たるとすることは「現行法制度と整合しないというべき」として、父子関係を否定した。
さらに、「現行法制度と整合しない」として母子関係も否定した。東京家裁は、「現行民法の解釈としては、出生した子を懐胎し出産した女性をその子の母と解さざるを得ず、その子を懐胎、出産していない女性との間には、母子関係の成立を認めることはできない」と指摘。Bさんは原告である子ども2人を「懐胎、出産していない」ため、「民法が規定する『母』ともならない」と結論づけた。
40代女性「非常に悲しく思う」 弁護団は「最高裁まで行く心づもり」
Bさん(40代女性)は、判決を受けて、「認知が認められないんじゃないかというのは想像していたところはあった」としながらも、「裁判の場で認められないと実際に聞くと、非常に悲しく思う」と落胆の色を隠せなかった。
「判決文を見てもなんでそうなっているのか、おかしいんじゃないかと思う文章もある。マイノリティについて理解してくださっていないのかなと思う」とも指摘し、「子どもを実際に育てていて、生物学的にも親子関係なのに、法律上は認められないというのは矛盾していると感じる」と話した。
仲岡しゅんさんら弁護団は、「『日本の法律の前にはお前たちの親子関係は認めない』という不当判決」と厳しく批判。「控訴、上告、最高裁までいく心づもり」だと述べた。
【時系列】
2017年秋ごろ Aさん、Bさんの凍結精子を使って妊娠
2018年夏 長女が産まれる。Aさん、Bさんは婚姻していなかったため、長女は嫡出推定を受けなかった。戸籍上の「父」欄は空欄になっている。
同年秋 Bさんが、性同一性障害特例法に基づき、法定上の性別取扱変更の審判を申し立てる。※なお、性同一性障害特例法では、性別変更の際に「現に未成年の子がいないこと」という要件を満たすことを求めている(いわゆる「未成年子なし要件」)。長女とBさんとの間には法律上の親子関係が存在していなかったため、この要件に抵触することはなかった。
同年冬 Bさん、「男性」から「女性」に性別を変更。
2019年秋ごろ Aさん、Bさんの凍結精子を使って妊娠。
2020年3月2日 Bさん、本籍地を置いていた地方の自治体(東京都外)に、長女の認知届と次女の胎児認知届を提出。しかし、法務局が受理しない旨を指示し、認知届は不受理。
同年夏 次女が産まれる。Aさん、Bさんは婚姻していないため、次女も嫡出推定を受けず、戸籍上の「父」欄は空欄になっている。
2021年5月22日 Bさん、東京都内の自治体に、再度、長女と次女の認知届を提出。しかし、法務局に相談すると言われたまま保留状態。
6月4日 Aさんが長女と次女の代理人として、Bさんに認知を求める訴えを提起。またAさん、Bさん、長女、次女共に、国に対して法律上の地位確認と国家賠償請求を提訴。