2014年に出版された増田寛也氏の「地方消滅」以来、毎日のように人口減少が叫ばれ続ける昨今においても、私の暮らす千葉県船橋市は未だ住民が増え続ける東京の衛星都市=ベッドタウンです。2015年には転入超過自治体において政令市・特別区を除いて全国12位となり、2017年には人口が63万人を超えました。
戦後、船橋の発展は、JR総武線や新京成電鉄を中心とする鉄道網の充実に合わせ、昭和30年代からの高根台・習志野台・前原などの団地造成と共に、住宅商業都市として発展をしていきます。都心への交通アクセスも良く、生活に必要な物は十分揃い、適度な自然も残るまさに田園都市として開発されたまちです。当時新しく開かれたこのまちに引っ越してきた団塊世代の人々が70代となる現在、船橋では団塊ジュニア世代を中心とする40代が人口ピラミッドの中央を担っています。
たまたま移り住んで寝に帰るだけのベッドタウンだった船橋が、そこで生まれ育った世代を中心とするまちに変わりつつあるいま、団塊世代の市外通勤もなく昼間人口構成も変化している中においては、住宅・インフラなどの新しいものを作るハード的まちづくりではなく、すでにあるものを活かし、そこで暮らす人々のソフト的なパワーが地域にとっては重要になってるのではないでしょうか。
そうした視点で取り組んでいるのが、一人ひとりの持つ技術・知識・経験などの力を見える化し地域に還元する、すなわち地域力を可視化するプラットフォーム「船橋人物図鑑」です。
人物図鑑はもともと、自治体職員と民間事業者の交流会で生まれました。公務員としての仕事の仕方や中小企業の事業の取り組み方などをお互いにざっくばらんに語り合い、相互の理解を深めたうえでそれぞれの仕事に活かしていけたらという完全割り勘の飲み会です。
何度か会を重ねた2013年9月、個々の力を地域に活かし、これから生まれ育つであろう新たな事業や取組みなどへの後押しになれればという想いで、人物図鑑の構想が誕生しました。それから3年の準備期間を経て、2016年10月に32名の仲間で創刊。そして昨年11月には第3号を87名で3000部発行できるまでに広がってきました。
人物図鑑は、掲載者が印刷費を出しあい、それぞれが手渡しでのみ配布をする紙の冊子です。ページごとに1名ずつ、地域への想いや自らが提供する事ができる力などがコンパクトにまとめられています。
販売もされておらず、フリーペーパーの様に気軽に手に取れないこの本は、載っている人から直接受け取らなければ手に入りません。これは信頼のつながりを大切しているからです。
自分たちの持つ力を地域に還元したいという想いがベースにある一方、限られたリソースを誰彼かまわず提供し続ける事はできません。SNSの普及などにより誰とでも気軽に繋がる事ができる現代だからこそ、ずっとそのまま残る紙に印刷をし、ちゃんと手渡しで繋げ、紹介する事ができる掲載者は、信頼の度合いが違います。32名で創刊し掲載者の推薦で増えた87ページの第3号では、厚みも重さも格段に増えました。これこそが信頼の重さです。
我が国では人口減少が様々な面で影響を及ぼし、外国人の受入れ拡大に向けて入管法の改正が行われるところです。作家マックス・フリッシュは「スイス経済は労働力を呼んだが、やってきたのは人間であった」という言葉を50年前に残していますが、人口減少時代のまちづくりにおいては、マスとしての力ではなく、個々の人物の力が大切であると思います。