「(処理水の)安全基準なんて満たされてないじゃん。トリチウム以外もいっぱいいろんなもの入ってんだからさ」
東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出を巡り、元参議院議員の田嶋陽子氏が出演した読売テレビの番組でこのように発言した。
しかし、処理水は多核種除去設備(ALPS)で安全基準を満たすまで浄化処理されており、ALPSで除去できないトリチウムも大幅に海水で薄められ、安全基準を満たした上で放出される。
つまり、田嶋氏の発言は「誤り」だ。ハフポスト日本版はファクトチェックした。
経緯を振り返る
田嶋氏は、9月24日放送の「そこまで言って委員会NP(読売テレビ)」に出演。
処理水の海洋放出について、元大阪市長で弁護士の橋下徹氏が「政治家は腹くくって、安全基準を満たしているんだから、『最後は政治の責任で放出します』と言い切るのが政治」と話した際、次のような発言をした。
「安全基準なんて満たされてないじゃん。トリチウム以外もいっぱいいろんなもの入ってんだからさ」(田嶋氏)
橋下氏が「トリチウムも基準があって、飲料水の基準よりももっと低い基準に抑えている」と話すと、「でも、ほかのものも入っているんだよ」と再び割って入った。
田嶋氏はこの前にも、「海が汚れるとか、魚の形態が変わってくるんじゃないのか、とか、私は個人的には無知も含めて気持ち悪いですよね」と発言。
アナウンサーが、処理水の海洋放出は「国際安全基準に合致している」と結論づけた国際原子力機関(IAEA)について触れると、「IAEAだって原発ありでやっていることだから。来た人だって顔色悪かったじゃん」と 述べた。
この際、画面上にIAEAのグロッシ事務局長の顔写真が差し込まれたため、田嶋氏の言う「来た人」はグロッシ事務局長のことを指しているとみられる。
田嶋氏の発言は「誤り」
福島第一原発では、原子炉建屋に雨水や地下水が流入し、放射性物質を含む汚染水が発生している。
これを「多核種除去設備(ALPS)」に通し、トリチウムを除く62種類の放射性物質を国の安全基準を満たすまで取り除いたものが「処理水」だ。
取り除くことが難しいトリチウムも、規制基準の40分の1、世界保健機関(WHO)飲料水基準の約7分の1(1リットルあたり1500ベクレル未満)まで薄められた上で放出される。
また、IAEAも7月、処理水の海洋放出を「人や環境に与える放射線の影響は無視できるもの」とする包括報告書を公表している。
つまり、田嶋氏の「安全基準なんて満たされてないじゃん。トリチウム以外もいっぱいいろんなもの入ってんだからさ」という発言は誤りだ。
告示濃度比総和「1」未満
詳しいデータも公表されている。
東京電力「ALPS処理水に関するサンプリング」を見てみると、9月21日に「測定・確認用タンク水の排水前分析結果」が発表されている。
告示濃度比総和とは、放射性物質ごとに規制基準(告示濃度)に対する実際の放射線濃度の割合を出し、その数値を合計した値。
告示濃度は、その濃度の水を毎日約2リットルずつ飲み続けた場合、1年間で1ミリシーベルトの被ばくとなる濃度として設定されている。
規制基準を満たすためには、告示濃度比総和が「1」を下回る必要があるが、9月21日の発表では「0.25」だったため、田嶋氏の言う「トリチウム以外のもの」も安全基準を満たしているといえる。
なお、処理水を海洋放出した際の1年間の放射線影響は、0.000002〜0.00003ミリシーベルトと言われている。
日本人が宇宙などから受ける自然放射線は年平均2.1ミリシーベルトのため、約100万分の1〜約7万分の1の値になる。
このほか、東京ーニューヨーク間の飛行機移動(往復)は0.11〜0.16ミリシーベルト、CT検査は2.4〜12.9ミリシーベルトだ。
つまり、放射性物質は存在そのものが問題なのではなく、人や環境に影響を与えない水準(規制基準以下)であることが重要ということだ。
水産物への風評被害を助長しかねない
このほか、環境省のウェブサイト「ALPS処理水に係る海域モニタリング情報」でも、トリチウムやガンマ線核種の海洋調査の結果を確認できる。
ちなみに、9月19日分の海水調査では、①11測点で海水のトリチウムは全て検出下限値未満②3測点で海水のγ線核種は全て検出下限値未満ーーだった。
また、処理水の海洋放出によって「海が汚れるとか、魚の形態が変わってくるんじゃないのか」という田嶋氏の発言は、福島県の水産物に対する風評被害を助長しかねない。
グロッシ事務局長に向けてとみられる「顔色悪かったじゃん」という発言も、場合によっては人の容姿に対する差別と受け取られる可能性もある。
元国会議員でテレビ出演の多い田嶋氏の発言。
番組は、民放公式テレビ配信サービス「TVer(ティーバー)」で1週間の視聴が可能だが、受け取り方には十分注意する必要がある。
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