インターネット上で画像の売買ができる「オンライン画像マーケットサイト」に、福島への差別や偏見を助長するイメージ画像が出回っている問題で、サイトからダウンロードした同種画像を記事に使用したメディアが複数あることがわかった。
大半は、東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出に関連した記事に使用していたが、なかには「EUなどが原発事故後から続いていた福島県産品などの輸入規制を撤廃する」という記事にもかかわらず、魚が放射能汚染されているかのような画像を使ったメディアもあった。
このような画像を使った経緯について、一部のメディアがハフポスト日本版の取材に答えた。
画像マーケットサイトとは?経緯を振り返る
オンライン画像マーケットサイトでは、個人のクリエイターらが撮影・作成した画像などを購入することができる。
その大半は、メディアの記事、Webサイト、ブログ、ソーシャルメディア広告、プレゼンテーションなどで使用できるため、世界中の企業や個人が利用している。
サイトの検索欄にキーワードを入力すると、イメージに近い画像が一覧で表示される仕組みで、例えば「Tokyo」と検索した場合、東京タワーや高層ビル、大勢の人々が歩く様子の写真などがヒットする。
しかし、記者が2月上旬、米ストックフォト大手「Getty images」の「iStock by Getty images」と、米ソフトウェア大手「Adobe Inc.」の「Adobe Stock」の2サイトで「Fukushima」と検索したところ、海や魚、寿司に放射能標識を重ねたり、放射能標識を重ねた水を海に注いだりするような画像が多数表示された。
米ストックフォト大手「Shutterstock」のサイト「Shutterstock」でも2月26日、「Fukushima」や「Fukushima fish」と検索すると、魚に放射能標識を重ねた画像や、「STOP FUKUSHIMA RADIOACTIVE WASTEWATER」と書かれたイラストが次々に出てきた。
なぜ海や水産物が放射能汚染されているかのような画像と「Fukushima」が関連付けて表示されるのか。
AdobeとGettyは取材に「画像の審査を徹底する」とした上で、「不適切な画像も意図せず掲載され、遺憾に感じている」(Adobe)や、「不適切なキャプションやタイトル、検索キーワードについては更新し、福島や日本に関する記述を削除した」(Getty)などと回答した。
なお、現在は大半の画像が表示されなくなっている。
「魚に放射能標識」Japan Todayなどが画像を使用
しかし、一連の問題はこれで終わりではない。
ハフポストが画像検索した結果、オンライン画像マーケットサイトから水産物の危険を煽るような画像をダウンロードし、福島第一原発の処理水に絡む記事に使用していたメディアが複数あることがわかった。
日本のニュースを専門とする英字メディア「Japan Today(ジャパントゥデイ)」は2023年8月3日、「EU, Norway, Iceland lift post-Fukushima import curbs on Japanese food(EU、ノルウェー、アイスランド、福島後の日本食品輸入規制を解除)」という見出しの記事を発信(記事は有効期限切れ)。
EUなどが8月3日、原発事故後から続けてきた福島県産を含む食品の輸入規制を完全に撤廃したことを伝えたものだが、魚に放射能標識を重ねたような画像を記事に使用していた。福島の水産物が汚染されていると、ニュースの内容とは反対の印象を与える恐れがある。
なお、この画像のクレジット表記は「Huang Evan /iStock」。これまでの取材で、画像は22年2月5日にiStockにアップロードされ、説明欄に「写真素材 | 福島市、各放射線に関する警告を伴うシーフードと遠くの海魚のバスケット.核の脅威に対する放射性土壌.比喩。核漏れ、環境被害.白い背景」と記載されていたことがわかっている。
画像を使用した経緯について、ハフポストは2月19日と24日の2回にわたってJapan Todayに問い合わせているが、28日午後3時時点で返信はない。
この画像を使用していたのはJapan Todayだけではない。
日本版ウェブサイトも展開する米デジタルメディア「WIRED」のスペイン語版や、香港の生活情報サイト「U Lifestyle」なども処理水に関する記事の中で使っていた。
特に「U Lifestyle」は2023年7月7日、「中国税関総署が放射能汚染された日本食品の中国への輸出を防止するため、福島県を含む10県(市)からの食品の輸入を禁止し、日本産食品の監督を強化すると発表した」という中国語の記事に同画像を使用。
「処理水の海洋放出によって日本の食品が放射能汚染される」という中国側の発信を一方的に報じた記事に、魚に放射能標識を重ねた画像を使ったということだ。
放射能標識を重ねた水を海に注ぐような画像
また、ニューズウィーク日本版は2023年8月25日、「日本から123トンの魚を輸入しているイタリアが報じた福島のALPS処理水海洋放出について」という記事の中で、放射能標識を重ねた水を海に注ぐような画像を使用した。
処理水の海洋放出が始まったことを受け、イタリアのメディアがどのように報じたのかをまとめた記事で、国際原子力機関(IAEA)や日本政府が安全だとする根拠も十分記載していたが、「核汚染水に関するデータの信頼性と正確性を証明できなかった」と一方的に非難した中国の言い分も掲載した。
また、イタリアの「日本は国際社会の前で自らを被告席に置き、今後、何年にもわたって国際的な非難に直面することになる」「彼らは”生態系の破壊者であり、地球規模の海洋環境の汚染者”として非難されている」という反応も記事に盛り込んだ。
イタリアの雑誌が「日本近海で獲れた魚を見分ける方法」という記事を発信したことにも触れていた。
ニューズウィークは画像を差し替え。取材に
この記事や画像を使用した経緯について、ニューズウィーク日本版ウェブ編集部が2月24日、取材に答えた。
まず、記事は各国在住の日本人ブロガーによる自由投稿型ブログプラットフォーム「World Voice」で配信されたもので、「原則として筆者が記事を書き、画像も自ら選んで投稿するシステムになっている」という。
現地生活者だからこそ触れられる情報や体験を日本の読者に発信し、様々な視点を提供することを目的としており、この記事はイタリア在住の筆者が「福島の処理水放出が海外でどのように報じられているのか」をまとめたものであることから、「(記事は)上記の前提(目的)に即したコンテンツだと編集部としては考えている」と回答した。
しかし、IAEAなどは処理水の海洋放出について、「国際安全基準に合致し、人や環境に対する放射線影響は無視できるほどである」と評価している。
科学的知見を根拠としていない国の見解や報道を「両論併記」として取り上げ、海が汚染されているかのような画像を使うことに、ニューズウィーク内で異論は出なかったのだろうか。
ニューズウィークによると、筆者は画像を使用した経緯について、「福島の処理水放出を批判し、『汚染水』と呼んだ近隣諸国の報道を、中立的な立場で本文に紹介しており、『近隣諸国の中国・韓国からはこの画像のように見られているようだ』という表現のサムネイル(画像)として効果的であると感じた」と説明しているという。
この画像で福島の海や魚介類が「放射能で汚染されて危ない」といったイメージを持たれかねないとハフポストが指摘したところ、ニューズウィークは「中国・韓国からの見方を表現する画像として使用されたもので、編集部としても、ご指摘のようなイメージを喚起させる意図はなかった」と回答した。
その上で、処理水の海洋放出が「科学的に危ない」「海や魚が汚染される」とは考えておらず、実際にそのような報道もしていないとしながらも、「風評被害につながるリスクを否定することはできないため、編集部で画像の変更を検討している」と答えた。
実際、24日夜に記事が更新され、「画像が福島県の風評被害につながる危険性があると判断した」という理由から、問題の画像は福島第一原発の写真に差し替えられた。