犯罪容疑者の身柄を中国本土にも送れるようにする「逃亡犯条例」改正案に反対する香港のデモで、空港でデモ隊に手足を縛られ殴打されるなどした中国メディアの記者が、本土で「英雄」として報じられている。
中国本土のメディアはデモの参加者を「暴徒」として報道していて、記者が暴行を受けたニュースを通じ、暴力的な印象をより強めさせる狙いがあるとみられる。
■結束バンドで手足を縛る
騒動があったのは8月13日。デモ隊が香港国際空港を占拠していた際、黒いTシャツを着てデモ隊に紛れていた男性に対し「中国本土の警察関係者ではないか」と疑いの目が向けられた。
デモ隊が男性の荷物を調べたところ「I❤️HK(香港)警察」と書かれたTシャツが見つかり、疑惑が一気に深まった。
男性は空港のカートに縛られ、手足も結束バンドで拘束された。
当時の様子を撮影した動画がTwitterや中国のSNS・ウェイボーなどで出回っている。動画には、男性がデモ隊から殴打され、頭の上から水をかけられる様子が捉えられている。
殴打された男性はのちに、中国メディア・環球時報の付国豪(ふー・ぐおはお)記者と判明。所属する環球時報の胡錫進(ふー・しーじん)編集長はTwitterで「彼は報道以外、何の任務も与えられていない」と主張。解放するように求めた。
胡編集長は、 自身のウェイボーでも「記者に対する不法な拘束と暴力に反対する」などとする声明を発表した。
■「男の中の男」英雄扱い
この出来事が発生して以降、中国メディアは付記者を一斉に“暴徒”に屈しなかった英雄として報道している。
付記者がデモ隊に拘束された際に「私は香港警察を支持する、殴りたくば殴れ」と叫んだとし「#付国豪真漢子(=付国豪は男の中の男)」とするハッシュタグを付けて報道を展開。
中国新聞網などは、付記者が退院する様子などを伝え、「民族英雄」などと書かれたプラカードを持つ人たちの映像を交えて「中国と香港を愛する多くの市民が、自発的に退院を祝いに病院を訪れた」などと報じている。
2ヶ月以上続く香港のデモ。中国本土や香港政府はデモ隊を「暴徒」と呼び、催涙ガスなどを使用する香港警察を正当化している。
一方、デモ参加者は自分たちの抗議活動が警察や香港政府によって「暴動」とされたことを撤回するよう求めている。
中国本土側にとっては、付記者が暴行を受けたニュースをメディアに繰り返し報道させることで、本土の住民に香港デモの参加者を「暴徒」と印象付けさせる狙いがあるとみられる。