9人の登山者が変死したディアトロフ峠事件は謎が多く、「世界一不気味な遭難事故」とも呼ばれている。
1959年にロシアのウラル山脈で起きたこの出来事の原因を、雪崩だと説明する研究結果をスイスの研究者らが発表した。
彼らが謎を解く手がかりの一つとなったのが、ディズニーの大ヒット映画『アナと雪の女王』だった。
謎の多い状態で9人のロシア人登山者が死亡した、1959年のディアトロフ峠事件。様々な陰謀論が唱えられてきましたが、珍しい雪崩が原因だとする新研究が発表されました
ディアトロフ峠事件とは
論文を発表したのは、スイス連邦工科大学ローザンヌ校のジョアン・ゴーム氏と、スイス連邦工科大学チューリッヒ校のアレクサンダー・プズリン氏。
両氏は1月28日に、「スラブ雪崩発生のメカニズムと1959年のディアトロフ峠事件への影響」という研究論文を発表した。
ディアトロフ峠事件とは、旧ソ連時代の1959年2月にスキーと登山を目的にウラル山脈に入ったロシアの大学生らが、謎の死を遂げた出来事だ。
一行は一夜を過ごすために山の斜面にテントを張ったが、真夜中に何かが発生してテントが内側から切り裂かれた。そしてー25度以下という極寒にも関わらず、登山者らは1キロ下にある森に避難し死亡した。
数カ月後に見つかった遺体はひどい状態だった。
数人の胸部や頭部には大きな損傷があり、目や舌が失われた遺体もあった。またほぼ裸の状態の遺体もあり、一部の衣服からは放射能が見つかった。
当初から原因は雪崩だと考えられきたが、当時雪崩を引き起こすような雪が降っていなかったことや、遺体の損傷が一般的な雪崩の死因である窒息と一致しないことなどから、雪崩を懐疑的に見る人たちも多かった。
雪崩を疑問視する人たちの間では、エイリアン誘拐説や雪男の攻撃などの様々な陰謀論が飛び交ってきた。
しかしロシア政府は2019年に実施した再調査でも、原因を雪崩と結論づけた。その一方で結論を裏付ける科学的な説明は提供しなかった。
アナ雪からヒント
今回このディアトロフ峠事件を調べたゴーム氏とプズリン氏は、原因を「スラブ雪崩」と呼ばれる雪崩ではないかと結論づけた。
スラブとは固まって板状になった雪の層のことで、スラブ雪崩は固まっていない雪の層の上に乗った雪の塊が、壊れて滑り落ちる雪崩だ。滑り始めて6秒後には時速130キロになることもあるという。
ゴーム氏とプズリン氏は、ディアトロフ峠事件のテントを襲ったのは、5メートル程の比較的規小規模の雪の塊だっただろうと考えている。
仮説を裏付けるために、ゴーム氏らはスラブ雪崩のコンピューターシミュレーションを作った。ヒントを得たのが『アナと雪の女王』だ。
ナショナルジオグラフィックによると、ゴーム氏は同映画の雪の描き方に感銘を受け、ハリウッドを訪れてアニメーターたちに雪の描き方を尋ねた。
そして、『アナと雪の女王』で使われたプログラムを修正して、ディアトロフ峠の登山者たちに襲いかかった雪崩をシミュレートするコンピューターモデルを作った。
さらに雪崩が人体に与える衝撃を推測するために、ゼネラル・モーターズがかつて自動車事故実験用に集めたデータを利用した。
雪崩は解明したけれど……
そしてゴーム氏とプズリン氏は、テントを建てるために山の斜面を削ったことや山のデコボコした地形、さらに斜面を降下する強風によって雪が積もったことによって雪崩が発生したと結論づけた。
頭蓋骨などの損傷は、雪崩による衝撃によるものではないかと考えている。
研究結果は眼球や舌の喪失、衣服を着ていなかったことについては説明していないが、ナショナルジオグラフィックは、服を着ていなかったのは死の危機を感じる低体温状態で衣服を脱いでしまう「矛盾脱衣」で、眼球や舌の喪失は動物に食べられたからではという説を展開している。
ゴーム氏とプズリン氏は研究結果について「この研究はディアトロフ峠事件の原因がスラブ雪崩で説明できると示すものだ」と述べる。
その一方で、「研究は被害者の衣服から発見された放射能や、登山者がテントを脱出した後の行動、遺体が発見された場所や状態など、様々な憶測を呼んできたそれ以外の点については説明しません」と綴っている。
これらの謎は今後もディアトロフ峠のミステリーとして残るだろう、とふたりは考えている。
ハフポストUS版の記事を翻訳・加筆しました。
(翻訳・加筆:安田聡子 @satokoysd)