アメリカ・ニューヨークのホテルに5年間タダで宿泊した上に、ホテルの所有権を主張した人物が検察に訴追された。
この人物は法律の「抜け穴」を利用して、マンハッタンにある老舗ホテル「ザ・ニューヨーカー」にタダで宿泊していたという。
どうやってタダで宿泊し続けたのか
ザ・ニューヨーカーは1930年にオープンしたアール・デコ調のホテルで、ニューヨークのランドマークの一つとしても知られている。
AP通信によると、ミッキー・バレート被告はロサンゼルスからニューヨークに引っ越してきた直後に、ニューヨークでは「レント・スタビリゼーション法(家賃安定化法)」により、1969年以前に建てられた建物の居住者が、6カ月の賃貸契約を要求できると教えてもらった。
バレート被告は2018年6月にザ・ニューヨーカーに1晩200ドルで宿泊した後、「1泊分の料金を支払ったのだから、自分は借主である」と主張し、6カ月の賃貸契約を結ぶようホテルに要求したという。
しかし、ホテル側はこの求めを拒否。部屋に残されていたバレート被告の荷物を外に運び本人も追い出した。
バレート被告は、これを「違法な強制退去」として裁判を起こしたものの、訴えは却下された。しかし州の最高裁判所に上告した結果、ホテル側の弁護士が出廷しなかったこともあり勝訴した。
バレート被告の「居住権」が認められた後も、ホテル所有者が賃貸交渉を拒んだため、同被告は家賃を払わずに2023年7月までホテルで暮らし続けたという。
なぜ訴追された?
ただ、当局が問題視したのはこの無銭宿泊ではない。
マンハッタン地区検察によると、バレート被告は2019年にニューヨーク市のウェブサイトに偽の証書をアップロードして、ホテルの所有権が「世界基督教統一神霊協会(旧統一教会)」から、自分に譲渡されたと主張した。
さらに、テナントの一つから家賃を要求したり、上下水道の支払いのためにニューヨーク市環境保護局に自分の名前でホテルを登録したりと、オーナーのように振る舞ったという。
ホテル所有者である旧統一教会は2019年、虚偽の主張などでバレート被告を訴えた。裁判は現在も係争中だが、裁判所はバレート被告に、ホテルの所有者のように振る舞うことを禁じた。
しかしバレート被告はその後も自分はホテルの所有者だと主張し、2023年にはホテルの所有権が自分に譲渡されたと主張する書類をニューヨーク市の情報システムに提出。2024年2月14日に、虚偽の財産記録を提出した容疑で逮捕・訴追された。
マンハッタン地区検察のアルビン・ブラッグ検事は「ミッキー・バレートはニューヨーカー・ホテルという市を代表するランドマークの所有権を、繰り返し不正に主張しました。我々は、私利私欲のためにシステム詐欺をもくろむ人々による市の財産記録改ざんを容認しない」とコメントしている。
一方、バレート被告は「ホテルが一度も分割されていないことを考えれば、裁判所に部屋の『所有権』を与えられた時に、間接的に建物全体を与えられたことになる」と主張している。
また、AP通信に「私は詐欺をするつもりはなかったし、詐欺をしたとも思っていません」と述べたほか、法廷闘争は統一教会が利益を得るのを阻むための活動だとも説明している。