鴻海によるシャープの買収の大詰めで、鴻海が買収を延期した。シャープが24日に提示した文書があり、その文書は約3500億円に達する財務のリスク関連情報で、退職金や他社との契約に関する違約金、政府補助金の返還などに関する内容が含まれているとか。
いわゆる偶発債務だ。 よく分からないのだが、そもそもM&Aのデューデリジェンスとは、まさにそこを確認するためのものだ。この人たちはいったい何をやっているのか?仮にFAが付いていないとしても、お粗末過ぎる。さすがにシャープが、これを今の今まで、隠していたとは思えないし、鴻海がここを見逃していたとも思いにくいのだが。いずれにしろ、理解に苦しむ。
少なくとも、一部で言われている、 ソーラーパネルについては前期の有価証券報告書P21の【事業等のリスク】項目(10)長期投資・長期契約にその内容が記載されている。
当社グループは、多数の長期契約を有しており、それらの長期契約の多くは、その契約期間中、固定価格又は定期的にのみ調整される価格による取引を約束するものであるため、当該契約期間における価格又は費用の変動は当社グループの事業に重大な悪影響を及ぼす可能性がある。特に、ソーラーパネルの原材料に関してこうした契約が存在しており、中でもポリシリコンの購入契約は、最長で平成32年末まで、合計して20,779トン(平成27年3月末現在)を直近の時価水準を大幅に上回る価格(平成27年3月末現在の時価を加重平均で1キログラム当たり約2,630円上回る。)で購入することを当社グループに義務づけるものとなっている。
実際にシャープは前期決算で時価との差額について、買付契約評価引当金として、587億円を既に引き当てており、これ自体は既に開示しているし、偶発債務ではない。
M&Aでは買い手先が売り手のデューデリジェンスを行う中で、契約書の精査を弁護士にお願いすることになるが、私の経験では、取引先との販売・購買基本契約では、「支配株主が変更となる場合は、改めて条件交渉する」という条項が含まれており、買い手がその契約先の競合だったり、以前トラブルを起こしていたりする場合には契約継続できない場合もある。契約継続ができたとしても、以前と同じような販売、仕入れができなくなる場合もあり得る。
こうして、買収のリスクを顕在化させた上で、買収価格の修正を行う。その前提条件は今回締結する基本合意書に記載される。例えば、「既存契約先のうち、A社、B社、C社との契約継続が困難である場合は、今後5年間で見込んでいる各社宛て取引利益額の現在価値を買収価格から減算するものとする」というようなイメージだ。
いずれにしろ、今回のディールプロセスはお粗末としか言いようがない。
(2016年2月26日「田中博文 Officeial Site」より転載)