外国人技能実習制度とは、日本の技能を開発途上国に移転するという国際貢献を目的に、一定期間、外国から技能実習生を受入れる制度。技能実習生の数は、現在25万人を超えている。
昨年11月には、技能実習生の保護と制度の適正な実施を目的とする「外国人技能実習法」(以下、新法)が施行された。実習の現場では、国際貢献とは名ばかりで、長時間労働や賃金未払い、最賃を下回る労働関係法令違反、旅券取り上げ等の人権侵害事案などのさまざま問題が起きていたからだ。連合は、開発途上国等への技能移転による国際貢献という制度本旨に沿った運営、監理体制の強化、技能実習生の権利保護を求めて取り組んでいる。外国人技能実習制度とはどのような制度なのか、制度の適正な実施のために何が必要なのか。新法の施行を機にあらためて考えてみたい。
◆データで見る外国人技能実習制度
「外国人技能実習法」成立までの流れ
労働法適用外だった「低賃金労働者」
外国人技能実習制度がスタートしたのは1993年のこと。1982年に「外国人研修生」の在留資格が創設されていたが、この研修で一定水準以上の技術等を取得した外国人については、「研修1年+技能実習1年(計2年間)」の在留を可能とする制度で、1997年には計3年間に延長された。
この技能実習生は、研修期間は「労働者」とは見なされず、労働関係法令の適用外とされた。最低賃金も時間外労働の規制や割増賃金も適用されない。そのため、多くの受入れ先企業で実質的な「低賃金労働者」と位置づけられ、さまざまな問題が生じることになった。そこで2010年に制度改正が行われ、労働関係法令が適用されない研修期間を原則2カ月に短縮。2016年には、外国人技能実習法が成立し、人権侵害などのケースに罰則が規定されるとともに、外国人技能実習制度を適正に実施するための要となる「外国人技能実習機構(認可法人)」が新たに設立された。
制度の現状
対象は77職種139作業
では、制度のポイントを見ていこう。
対象職種は、①単純作業ではないこと、②送出し国の実習ニーズに合致すること、③実習の成果が評価できる公的評価システムがあること。以上3つの要件に基づき、機械・金属、繊維・衣服、建設、食品製造、農業、漁業などの77職種139作業が認定されている。受入れ数が多いのは、機械・金属、建設、食品製造で、受入れ事業所の半数以上は従業員数19人以下の小規模・零細事業所だ。
受入れ方式は、2種類。日本の企業が海外の現地法人や取引先企業の労働者を直接受入れる「企業単独型」と、事業協同組合や商工会等の監理団体が受入れ、傘下の企業で実習を実施する「団体監理型」があり、96・4%の技能実習生は「団体監理型」で受入れている。
2017年6月末現在の技能実習生の数は25万1721人。7年前の東日本大震災で東北・関東の技能実習生が多数帰国したが、2013年以降は増加に転じ、この5年で10万人近く増えている。送出し国は、ベトナム(41・6%)、中国(31・8%)、フィリピン(10・2%)、インドネシア(8・1%)、タイ(3・1%)とアジア諸国が中心。
外国人技能実習法では、技能実習生の報酬は「日本人が従事する場合の報酬と同等以上」と定めているが、実際には、最低賃金の水準を下回る月額13万円未満が、男性で33・4%、女性では60・5%を占める。
技能実習生の在留状況
技能実習生の国籍別構成比
職種別技能実習生受入れ数
外国人技能実習法のポイント
人権侵害行為を罰則付きで禁止
では、今まで外国人技能実習の現場では、どんな問題が生じていたのか。
外国人技能実習法施行以前は、残業代未払いや最低賃金以下の低賃金などの労働関係法令違反や、逃亡防止のためにパスポートを取り上げるなどの人権侵害事案が多発。社会保険料が天引きされているのに未加入であったり、タイムカードや賃金台帳を偽装するなどの不正行為も後を絶たず、監理団体が不正に加担しているケースもあった。実習実施機関への監督指導では、7割を超える事業所で労働関係法令違反が指摘され、連合のなんでも労働相談ダイヤルにも技能実習生からの相談が寄せられるようになった。
技能実習制度の適正化をはかるために制定された外国人技能実習法は、技能実習生の労働権・人権を保護する観点から、実習実施者は届出制、監理団体は許可制とし、技能実習生ごとに技能実習計画の認定を行うこととした。また、技能実習生に対する人権侵害行為(暴力、脅迫、監禁等による技能実習の強制、違約金等の契約、旅券・在留カードの保管等、外出その他の私生活の自由の不当な制限)を禁止し、罰則を規定。この新たな制度を一元的に監督する機関として「外国人技能実習機構」が設置され、相談や情報提供、技能実習生の転籍の連絡調整などを行うとともに、関係行政機関等による「地域協議会」を設置することも盛り込まれた。また、技能実習計画の認定や実習実施者・監理団体に対する実地検査、 技能実習生からの相談への対応・援助等を行うという。
新法の運用はスタートしたばかりだ。働く仲間として、日本で働くすべての外国人労働者の人権、労働基本権侵害の問題は人ごとではない。新法を活かすためにも、身近な問題として考えてみる必要がある。
連合徳島の取り組み
連合四国ブロックによる「外国人労働相談所」開設
2007年、連合徳島では、県内で外国人研修・実習生の賃金不払いなどの労基法違反が社会問題となっていたことから、徳島県、徳島労働局、徳島県中小企業団体中央会に呼びかけ、「外国人研修・技能実習制度適正化推進会議」を開催。同時期、連合愛媛でも、外国人労働者からの相談が増えていたため、四国ブロックで対応を話し合い、2008年10月、連合四国ブロック「外国人労働相談所」を開設。連合徳島に中国語ができる職員がいたことから、フリーダイヤルへの相談を連合徳島が一括受信し、該当する地方連合会に割り振る仕組みを採用。受入れ先の会社が倒産したケースでは、フードバンクや労福協の協力も得ながら、問題解決に対応している。
◆外国人技能実習制度の実態─相談事例から
技能実習制度問題の核心は労働問題労働組合の支援は大きな力になる
指宿昭一 弁護士
|いぶすき・しょういち|
2007年弁護士登録。暁法律事務所代表。外国人技能実習生問題弁護士連絡会共同代表。労働事件、外国人事件に専門化した弁護士業務を行う。外国人研修生の労働者性を初めて認めた三和サービス事件(地裁・高裁判決)などを担当。
共著に『外国人研修生 時給300円の労働者2─使い捨てをゆるさない社会へ─』(明石書店)など。
外国人技能実習制度において具体的にどんな問題が起きているのか。背景には何があるのか。その現場に駆けつけ問題解決に奔走する、外国人技能実習生問題弁護士連絡会共同代表の指宿昭一弁護士に、相談事例から見る実態を聞いた。
最も多い相談は賃金関係〜実質的に時給300円も
─技能実習でのトラブルとは?
技能実習生からの相談で多いのは、賃金未払い、労働災害、セクハラ・パワハラだ。
技能実習生の賃金は、ほぼ最低賃金で設定されているが、税や社会保険料、寮費・光熱費が天引きされ、手取りは月3〜4万円というケースも多い。何人もの実習生と同じ部屋で暮らしているのに高額の寮費を取られたり、社会保険料を引かれているのに未加入という不正も横行している。残業代の未払いも非常に多い。偽の賃金台帳やタイムカードを作成したり、「内職」扱いにして、実質的に時給300円ほどで働かせているような、悪質なケースも数多く存在する。
労災は、仕事中の事故でケガをするケースが多いが、過労によるうつや過労死も起きている。技能実習生は、20代から30代前半の若者だが、実は、脳・心臓疾患で亡くなる割合は、同年代の日本人に比べると高い。しかし、遺族は本国にいるため労災申請のハードルは高く、これまで、技能実習生の過労死が労災認定されたのはわずか2件にすぎない。私が担当した事件では、遺品から本物のタイムカードのコピーが発見され、時間外労働が過労死ラインを超える180時間の残業時間が記録されていたため労災認定されたが、まさに氷山の一角であり、早急に実態把握が必要だ。
パワハラ、セクハラも頻発している。建築現場や製造業では暴力行為が日常茶飯事だ。セクハラから性的暴行に至るケースもある。裁判中のセクハラ事件では、女性実習生4人が受入れ先の農家の家族から身体を触られるなどの行為を受けたが、相手側はあくまで「日本の文化だ」と主張し、4人のうち3人は切り崩され、「日本の文化を誤解していた」という文書にサインさせられて帰国した。
何があっても我慢するしかない〜法外な違約金が足枷に
─なぜ、これほどひどい扱いを?
日本人労働者であれば、労働組合や弁護士、行政の相談窓口に駆け込むだろうが、技能実習生はそれができない。相談したことが受入れ企業や監理団体にバレると解雇され、即刻強制帰国になるからだ。技能実習生は、日本に来るために多額の借金を背負っている。最低賃金でも、日本で3年間働けば、借金を返済して手元にお金を残すことができるが、期間の途中で強制帰国となれば、借金が返せないばかりか、送出し機関に預けていた保証金は没収され、違約金を請求されることもある。だから、何があっても我慢して働くしかないのだが、そうなると受入れ先の中には、技能実習生を人格をもったひとりの人間として見なくなるところもある。まるで奴隷と奴隷主のような関係になって、何をしてもいいと思ってしまう人が出てくる。これは本当に恐ろしいことだ。
─労働組合にできることは?
私たちは、「保証金・違約金が実習生の権利を侵害している」と法務省に申し入れ、2009年に保証金徴収・違約金契約が禁止されたが、その後も、保証金徴収と違約金契約はなくなっていない。新法の下でも保証金徴収・違約金契約は禁止され、送出し国との間で締結されつつある二国間取決めでも盛り込まれているが、本当になくなるかどうかは、まだ、わからない。ミャンマーでは、今も公然と違約金が請求されている。在日ビルマ市民労働組合が元実習生から相談を受けたケースでは、長年同労組を支援してきたJAMの働きかけも得て、CTUM(ミャンマー労働組合総連合)が現地で裁判支援の体制を構築し、取り組みを始めた。技能実習生問題の核心は労働問題であり、連合をはじめとした労働組合の支援は本当に力になる。連合も「守ろう!外国人技能実習生のいのちと権利」集会実行委員会に参画しており、要請行動などの取り組みを行っていると聞いている。ぜひ、すべての労働組合でこの問題に関心を持ち、支援の輪を拡げてほしい。
◆連合のスタンスと取り組み
「見えない」「知らない」では済まされない適正な運用へ、職場、地域での取り組みを
村上陽子 連合総合労働局長
連合は、外国人技能実習制度をどう考え、実習生が直面する問題にどう対応するのか。職場や地域で何ができるのか。村上陽子連合総合労働局長に聞いた。
技能実習生のいのちと権利を守る
─外国人技能実習制度の何が問題?
外国人技能実習制度は、開発途上国への技術移転という国際貢献を目的に創設された。ところが、その趣旨が守られず、技能実習生の多くは、実質的な「低賃金労働者」として劣悪な労働環境に置かれ、人権侵害が多発している実態がある。そこがいちばんの問題だ。
連合は、日本で働くすべての外国人労働者について、人権・労働基本権を保障し、日本人と同等の賃金・労働条件、安全衛生、社会労働保険の適用などが確保されるよう求めてきた。外国人技能実習生についても、まず何より、その労働条件、労働環境を改善し、いのちと権利を守るための支援を強化しなければと考えている。
サプライチェーン全体に目配りを
─職場や地域でできる支援とは?
外国人技能実習制度の問題は、見ようとしないと見えない。もし職場で技能実習生を受入れていれば、その権利が守られているか、安全衛生など多言語で対応できているか、チェックしてほしい。自分の職場にはいなくても、下請・孫請や関連会社にはいるかもしれない。サプライチェーンは、価値や価格だけでなく働き方でもつながっている。自社の製品やサービスが、劣悪な条件で働く労働者の犠牲の上に成り立っているとしたら、「見えない」では済まされない。広く目を配ることが必要だ。
地方連合会では、すでに労働相談を通じて支援に乗り出しているところもあるが、技能実習生の多くは、言葉の問題などから相談窓口にアクセスできずにいる。技能実習生の受入れには、地域によって特色がある。農業や漁業での受入れが多いのか、建設業や製造業での受入れが多いのか、監理団体はどこなのか。まず、地域の実態を把握してほしい。そして、地域で活動する支援団体があれば連携し、日本のワークルールや人権についての周知や、母国語での相談窓口の整備を進めてほしい。
─昨年施行された外国人技能実習法については?
技能実習生保護のために新法が適正に運用されるようチェック機能を果たしていきたい。その手始めとして、連合は、今年1月に外国人技能実習機構、2月に厚生労働省に政策要請を行い、各地方連合会・地方ブロックでも、同機構地方事務所への要請を行った。この中で連合は、法の適正運用とあわせ、外国人技能実習機構内に設置される「地域協議会」について、地域の労使団体や支援団体の参画を強く求めた。地域の実情を情報交換し、顔が見える関係ができていれば、何か問題が起きた時、迅速に対応できると考えるからだ。
職場や地域での取り組みとあわせ、連合は「この問題に関心をもっている」ということを組織内外にアピールする取り組みも継続していきたい。
なし崩し的拡大は許されない
─技能実習制度の拡充を含め、外国人労働者の受入れを求める動きもあるが...。
今、深刻な人手不足に陥っている業種や地域があることは事実だ。しかし、その業界や業種で人材が確保できない要因のひとつは賃金・労働条件や労働環境に課題があることがあげられる。まずその改善を進めるべきだ。低賃金で仕事がきつくても、外国人なら働いてくれると考えているとしたら、大きな問題だ。
連合の基本的スタンスは、専門的・技術的分野では積極的に受入れ、単純労働については原則として受入れないというものだ。外国人労働者は、単なる「労働力」ではなく「生活者」「住民」としての側面もある。社会保障制度や行政サービス、教育や住宅などの社会的インフラ整備や多文化理解・社会的統合について、その費用負担も含めて広く議論し、社会的コンセンサスをつくっていくことが必要だ。労働条件に及ぼす影響も考える必要がある。単純労働の受入れを行った諸外国では、外国人排斥や集住地区の貧困化、社会保障負担増などの問題を抱えている。技能実習制度の拡充を含め、なし崩し的に受入れを拡大しようとする議論は、問題である。