けいざい早わかり:訪日外国人の増加と今後の課題

近年、日本を訪れる外国人の数が増えています。日本政府観光局によると、2015年の訪日外国人は1974万人と前年から47.1%増加し、過去最高を更新しました。

Q1.訪日外国人が増えているそうですね

近年、日本を訪れる外国人の数が増えています。日本政府観光局(JNTO)によると、2015年の訪日外国人は1974万人と前年から47.1%増加し、過去最高を更新しました(図表1左上)。

そのうち最も多かったのはアジアからの旅行客で全体の約8割を占めました。なかでも中国(499万人)、韓国(400万人)、台湾(368万人)の上位3カ国のシェアは約6割にも上りました。北米(131万人)や欧州(124万人)からの訪日客も増加していますが、それぞれのシェアは1割程度とあまり大きくありません。

訪日外国人の多くは観光目的ですが(図表1右上)、欧米などシェアが小さい地域からの旅行者はビジネス目的の割合が比較的多くなっています。

また、訪日外国人の約6割はリピーター客で(図表1左下)、訪日シェアの大きい国ほどその傾向が強くなっています。ただし、中国は例外的で、初回の割合の方が高くなっています。これは中国が海外旅行の裾野が広がる黎明期にあることや、ビザの取得が義務付けられていることで訪日の敷居がまだ比較的高いことなどが影響していると考えられます。

加えて、訪日外国人の多くは短期の滞在者です。1週間未満の滞在が約6割、1週間以上2週間未満が約3割、2週間以上が約1割となっています(図表1右下)。また、アジアからの旅行客は短期滞在が多いのに対し、欧米からは長期滞在が多いのも特徴です。これは地理的なアクセスのよさや、雇用慣行の違いによる長期休暇の取りやすさの違いなどが影響しているとみられます。

図表1.訪日外国人の基本情報

Q2.なぜ増加したのですか?

海外旅行(アウトバウンド)市場の拡大は世界の経済成長と密接に関係しています。経済成長により所得水準が向上すれば、それにつれて海外旅行へ繰り出す人々の裾野も広がるからです。日本の場合も、ボリューム層であるアジア地域で高い経済成長が続いていることが、訪日外国人の増加につながっています。

加えて、ここ数年は訪日旅行に割安感が出てきたことも、訪日外国人の増加テンポを押し上げる要因となっています。2012年末以降、それまでの1ドル=80円から1ドル=110~120円まで円安が進み、外国人の購買力は約1.5倍に高まりました。さらに、格安航空会社(LCC)の普及や原油安による燃油サーチャージの低下も割安感の演出に寄与しました。

また、ビザ緩和といった制度面の変化もプラスに働いています。ビザには様々な種類があり、それぞれ取得に必要な要件が細かく定められています。2014年には中国で数次ビザが取得しやすくなるなど、アジア諸国を中心に取得要件の緩和が進められており、年々、日本を訪れるためのハードルは下がっています。

そして、そもそも海外において日本への興味・関心が高まってきたことも大きな要因として挙げられます。2003年以降、政府は観光立国の実現を目標に掲げ、ビジット・ジャパン・キャンペーンと呼ばれる訪日プロモーション活動を進めてきました。また、インターネットが普及したことで、日本の伝統文化や漫画・アニメなどのポップカルチャーに対して、海外からも簡単にアクセスができるようになりました。その結果、日本に対する理解が進み、潜在的な訪日需要が高まってきたと言えます。

Q3.どのくらい景気を押し上げる効果があるのですか?

訪日外国人の増加にともなって、日本での消費額も急増しており、爆買いと呼ばれることもあります。2015年のインバウンド消費額(訪日外国人消費)は3兆4771億円と前年比+71.5%の増加となりました(図表2)。

なかでも中国が1兆4174億円と最も多く、2位の台湾(5207億円)、3位の韓国(3008億円)に大きな差をつけています。中国人による消費額は前年比+153.9%の増加となり、インバウンド消費全体に占める割合も40.8%と前年から10%ポイント以上も上昇しました。

中国人の消費額の内訳を見ると、買い物代が8088億円(構成比57.1%)と全体の6割弱を占め、次いで、宿泊費2503億円(同17.7%)、飲食費2113億円(同14.9%)、交通費1094億円(同7.7%)などとなっています。また、買い物について品目ごとの購入率を見ると、化粧品・香水、医薬品・健康グッズ・トイレタリー、服・かばん・靴、電気製品など様々な品目で平均を上回っており、1人あたりの購入額(購入単価)も高くなっています(図表3)。

インバウンド消費の規模は名目GDPの0.6~0.7%程度とまだ小さいですが、過去10年でその規模は3倍程度にまで拡大しています。特に2015年は訪日外国人が急増した結果、名目GDP成長率2.5%のうちインバウンド消費の寄与度は0.2~0.3%ポイントと約1割にも上りました。

図表2.インバウンド消費額の推移

図表3.中国人の爆買い(2015年:品目ごとの購入率)

Q4.海外景気の減速や円高の影響はありませんか?

足元では中国などアジア地域を中心に景気の減速が鮮明になっています。訪日外国人の増加はアジア地域の高い経済成長に支えられている面があります。このため、海外景気の減速が続く中で、2016年は訪日外国人の増加テンポが鈍化する可能性が高いと言えます。

また、年初来進んでいる円高も懸念材料です。足元では1ドル=110円程度まで円高が進んでいますが、訪日外国人は1月以降も増加が続いており、今のところ目立った悪影響は確認できません。しかし、訪日外国人1人あたりの消費額(消費単価)についてはマイナスの影響が出ている可能性があります。

2010年以降の消費単価とドル円相場の動きを見ると、両者の動きは概ね一致しています(図表4)。1ドル=80円時点の消費単価が約11万円、1ドル=120円時点の消費単価が約15万円であることを踏まえると、仮に1円の円高が進めば消費単価は1000円程度押し下げられることになります。少額に思われるかもしれませんが、訪日外国人2000万人が同時に1000円の消費を減らせば、全体では200億円の減少と決して無視できない規模になります。

2016年は海外景気の減速や円高といったマイナス要因が重なり、インバウンド消費は伸び悩むことになりそうです。

図表4.消費単価と為替相場

Q5.さらに増やしていくために必要なことは何ですか?

世界の外国人訪問者数ランキングを見ると、2014年時点で日本は世界で上から22番目でした。2015年にはもう少し順位を上げたと予想されますが、それでも上位との差はまだ大きいと言わざるをえません(図表5)。

政府は2016年3月末に開催した「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議において、東京オリンピックが開催される2020年に訪日外国人を4000万人、インバウンド消費額を8兆円まで増やすことを新たな目標に掲げました。今後も、アジア地域を中心に高い経済成長が続く中で訪日外国人の増加は続くとみられますが、目標達成に向けては課題もあります。

1つは空港の受け入れ体制の強化です。訪日外国人が増えるにつれて、入国審査の長時間化が問題視されています。こうした状況を受けて、最近では、成田国際空港と関西国際空港において、入国手続きが迅速に行えるよう、国際会議の参加者や重要ビジネス旅客向けに、専用の入国審査レーン(ファーストレーン)が設置されました。今後も入国時の混雑緩和に向け、様々な対応が求められます。

さらに、空港の発着枠拡大も急務です。2020年に政府目標である4000万人の外国人が日本を訪れた場合、空港の降客数は、海外旅行から帰国する日本人を含めると、2014年の3000万人規模から倍増して、およそ6000万人規模にまで膨れ上がることになります。これは国際線1便あたりの搭乗率を高めたとしても、2014年対比で1.5倍程度の発着枠の増加が必要となる計算です。

また、訪日後の受け皿の拡大も課題です。東京や大阪など訪日外国人に人気の大都市圏では、宿泊施設やレジャー施設の収容能力(キャパシティ)が限界に近付いています。ホテルの稼働率は8割~9割まで上昇し、宿泊料も値上がりしています。

こうした状況もあって、政府は訪日外国人の地方誘致に力を入れ始めています。実際、2016年度の観光庁予算では、「地方創生のための観光地域づくり」として前年の約3倍にあたる63.7億円が計上されました。今のところ、訪日外国人の訪問先は関東や関西など一部の大都市圏に集中しており、東北や四国など地方にはほとんど足を運んでいません(図表6)。訪問率は低くても訪日外国人そのものが増えているため、地方を訪れる外国人の数も伸びてはいますが、まだまだ小規模です。

政府や地方自治体は地方へ外国人旅行者を誘致するための戦略として様々なプロモーション活動のほか、テーマ性のある観光ルートの創設を進めています。これは空港から入国した外国人を地方へと誘導するためのアイデアで、例えば中部地域の「昇龍道」や関西の「美の伝説」などが正式に国に認定されています。

地方への誘致を進める上ではインフラ面の整備も欠かせません。大都市圏だけではなく、地方にも魅力的な観光資源は数多くありますが、外国人にとって不満な点が多いのも事実です。観光庁が行ったアンケート調査によると、クレジットカードが使えるお店や外貨の両替所、無料Wi-Fiスポットが不足していたり、英語など外国語への対応が不十分だったりと、インフラ環境の不十分さを指摘する声が多く聞かれます(図表7)。今後、地方では、諸外国や国内先進地域の事例を参考にしつつ、官民が一体となって外国人の受け入れ環境の整備を進めていくことが期待されます。

図表5.世界の外国人訪問者数ランキング(2014年)

図表6.訪日外国人の訪問率(2015年:観光・レジャー目的)

図表7.訪日外国人が不満に思うこと

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