(編注:この記事には、重度に腫れた足の写真が含まれます)
ワクチンとは関係なかったのに……。
アメリカ・テキサス州に住むパトリシア・チャンドラーさんは、自分の足の写真が新型コロナウイルスワクチン反対運動に使われていることに困惑している。
チャンドラーさんは数カ月前から、原因不明の足の腫れで苦しんでいる。
足が腫れる前、チャンドラーさんは新型コロナウイルスワクチンの臨床実験に参加していた。
そのことをクラウドファンディングのページに掲載したところ、足の写真がワクチンが危険だという情報を広げる結果になってしまった。
しかしチャンドラーさんは、実際にはワクチンを注射されないプラセボグループに属していた。
原因不明の足裏の腫れ
BBCによると、チャンドラーさんの足が腫れ始めたのは10月。散歩をしているときに足に痛みを感じ、家に帰って確認すると、左足の裏が大きく腫れていた。
その後、反対の足の裏も腫れて、歩くのが困難になってたという。
数軒の病院で診察を受け、原因の一つとして挙がったのが「固定薬疹」だった。固定薬疹とは、薬を服用した後に特定の場所に発疹などの皮膚異常が起きることだ。
チャンドラーさんはファイザーとBioNTechが開発した新型コロナワクチンの臨床実験にボランティアで参加しており、足が腫れる数日前に、2回目の接種を受けていた。
足を診察した医師らは、チャンドラーさん足裏の腫れは臨床実験が関係しているのではないかと指摘したという。
支援を求めた投稿が反ワクチンのメッセージに
両足の痛みのため歩けなくなり、仕事もできなくなったチャンドラーさんを心配したいとこが、支援のためのクラウドファンディングページを11月に立ち上げた。
ページには「4週間以上も歩けず、仕事ができなくなったことで収入が途絶えた上、治療費で多くのお金がかかり経済的に苦しい」というチャンドラーさんの苦境ととともに「パトリシアは、新型コロナウイルスのワクチンの臨床実験にボランティアで参加し、深刻な副作用を経験しています」という説明が書かれていた。
苦しい状況を伝えるための投稿だったが、これが「ワクチンは危険」というメッセージになってSNSなどで広がることになる。
BBCによると、反ワクチン派のインフルエンサーがチャンドラーさんの足の写真をSNSに投稿すると、それがワクチン陰謀論を唱えるグループや、ワクチンに反対する福音派キリスト教団体、反ワクチンのFacebookグループなどに広がった。
そしてルーマニアやポーランド、ポルトガルなど世界各地に拡散したという。
チャンドラーさんも嫌がらせを受けた。SNSに中傷や臨床実験参加を非難するメッセージが次々と送られてきたため、アカウントをクローズせざるをえなかったという。
ワクチンは接種していなかった
臨床実験でワクチンを接種したのか、プラセボだったのかは、 一般的には実験が終了するまでは知らされない。
しかし事態を受けて、ファイザーと研究者らはチャンドラーさんの臨床実験について調べた。
その結果、チャンドラーさんはプラセボグループに属し、接種したのはワクチンではなく生理食塩水であることが確認されたという。
その後、クラウドファンディングのページは一時的にサイトから削除されたが、編集を加えた上で掲載された。
アップデートされたページには「パトリシアは今でもひどい足の腫れに苦しんでいますが、原因は不明です」「彼女は臨床実験でプラセボグループにいたことが確認されました」と追記されている。
意図したことではないとはいえ、チャンドラーさんは誤った情報を広げるきっかけになったことを後悔している。
「自分の経験を掲載したことへの責任を感じています。ソーシャルメディアでは、シェアしたことが誰かによって取り上げられ、拡散することがあります」「私の怪我はワクチンとは関係なかったのに。私の誤りでした」とBBCに語っている。
ファイザーとBioNTechが開発したワクチンはイギリスで承認され、12月7日から一般の人たちを対象にした接種が始まった。
これまでに接種を受けた2人が、アレルギー反応を示したことが明らかになっている。この2人は重篤なアレルギーを抱えている2人だった。
そのためイギリスの医薬品・医療製品規制庁は、過去に薬や食べ物、ワクチンで重大なアレルギー反応を起こしたことがある人には、新型コロナウイルスのワクチンを投与しないよう勧告している。
しかし、チャンドラーさんはワクチンを接種していなかったため、足の腫れとワクチンの関係はないと考えられる。
腫れの原因はまだわかっていないが、痛みは続いている。正しい原因を見つけるため、チャンドラーさんは別の専門家に診察してもらい、新たな検査をする予定だ。