インフルエンザが猛威を振るっている。
2月2日に厚生労働省がまとめた流行状況(1月22日~28日)によると、全国の推計感染者数は前週(284万人)から減り、274万人となったものの、以前全都道府県で警報レベルが続き、1万を超す学校などで学級・学校閉鎖が広がった。
家族がインフルエンザにかかると、家庭内で次々と発症してしまうケースもめずらしくない。実際、家族間で感染はどのくらい広がるものなのだろうか。
■家族のなかで感染はどう広がるのか
家族のカルテから長年感染の実態を観察している医師がいる。廣津医院(神奈川県川崎市)で小児科・内科を担当する廣津伸夫院長だ。
2001年から医院を受診した家族に、独自の調査票を配り、回答内容をもとに分析している。調査対象となった患者数は、のべ7200人近くにのぼる。
調査票では、家族構成、ワクチン接種の有無とその時期、インフルに家族がかかった日時、熱が高いのに気づいた時期や下がった時期ーーなどを詳細に聞く。
その上で、子どもを年齢ごとに「乳幼児」(0~6歳)「学童」(7~12歳)「中高生」(13~18歳)のグループに分け、「母親」「父親」を加えた各グループで比べ、家族の中でいつ誰が最初に発症し、誰にどのくらい感染していったのか、家族間の感染状況もみている。
2011年~12年のシーズンから2015~16年のシーズンの5年分の患者データから、興味深い傾向が浮かびあがった。
調査では、最初の患者になった人以外の家族の中で、最初の患者から感染した家族が占める割合を「家族内感染率」として調べてみた。
■「父親」の存在
最も高かったのは、乳幼児から家族全体への感染で、976人中118人(12.1%)だった。「乳幼児」は家族の中で一番最初に発症する割合も高い。その後の感染経路をみると「乳児 母親」が17.8%と、幼い子どもから移されているのは「母親」が最も多かった。次いでほかの幼いきょうだい(0~6歳)の感染率が14.5%。逆に「母親 乳幼児」への感染率は10.9%にとどまった。
「乳幼児の育児や看護で接触が避けられない母親が多いからでは」と廣津院長。「母親」から感染する数字の方が低いのは、その分、子どもに移さないよう、予防に励んでいるからだろうか。そもそも「母親」からのほかの家族への感染率は全体でも最も低く、4.9%だった。
その一方で、意外なことも分かった。「父親」の存在だ。
「父親」が最初に発症した場合、父親からの家族全体への感染は348人中30人(8.6%)。乳幼児に次ぐ高さだ。父親由来の感染の割合が多いのだという。
「乳幼児 父親」への感染率は6.3%だが、逆に「父親 乳幼児」への感染率は15.4%に増える。(下のグラフ)
夫婦間でみると、「母親 父親」は1.9%と極めて低いが、「父親 母親」のルートの感染率は8.8%と跳ね上がる。(下の図)
「家族の間の感染率の差は、意識の差が関係しているのかもしれません。父親からの感染率の高さは、父親がインフルエンザの予防をしっかりするという認識が低いことが伺えます」と廣津院長。
ただ、昨シーズンのデータから、「父親」からの感染率は下がってきているという。
「家族の中で父親も予防しようという意識が高まっているのかもしれません」と廣津院長は言う。
■予防と早めの治療開始で感染率が変わる
家族内の感染を少しでも抑えるにはどうしたらいいのか。
マスクや寝場所を分けるなどの対策もあるが、廣津院長は「一生懸命予防をしても食事を一緒にとる家族は少なくない。同じテーブルで食事をして感染を広げることもあるので、インフルエンザに発症したときの食卓は分けて欲しい」と助言する。
また、治療を始めた時間によっても家族の中での感染率は変わってくる。
下のグラフを見て欲しい。
廣津医院のデータによると、A型インフルエンザの場合でみた全世代での家族内感染率は、発症から24時間以内に治療を始めた場合は6.9%、48時間を超すと14.8%まで上昇した。特に父母の場合、治療開始時間が48時間を超えると急激に感染率が高まっているのが分かる。
「インフルエンザの治療開始が早ければ、その家族での感染率は低くなる。家族の中で発症した人のウイルスが早く消えれば、その分、感染の機会が少なくなる。父親からほかの家族への感染率が高い要因の一つとして、治療にかかるのが遅いことも考えられます。父親が治療を早めた場合は、感染率もその分下がると思います」と、廣津院長は言う。
つまり、大人は早く治療した方が、子どもの感染を防ぐ可能性が高いということだ。
ワクチン接種もしかりだ。
「ワクチンを接種している家族内の感染率と、接種しなかった家族の感染率を比べると、接種しなかった家族の方が、感染率は高かった。ワクチンを接種した家族の方が、その年に流行したインフルエンザのワクチンの有効率が高ければ、家族の中での感染率も低い傾向が見られた」という。
1医療機関でのデータではあるが、家族の中で、どのような感染の経路を経るのか、その一端が見えてきた。
データでは、母親は幼い子供たちからインフルをもらってしまう可能性がほかの家族よりも高かった。このことを覚えておいて欲しい。対して父親は、子供たちや妻に移す立場になり得るので、無理せず早めに受診をした方が周囲のためだ。
ところで、子どもがインフルエンザになった場合、出勤するかどうか、どう考えるべきか。
実際、1月末に子どもがインフルエンザを発症したハフポスト日本版の同僚が、自宅で仕事をすることになった。感染しているかどうかは不明だったが、少人数で回している職場への影響を考慮したと、編集長は説明した。
「感染していないなら行っても大丈夫ですが、感染しているかどうかが不明な段階でも咳や気分が優れないなど体調の変化があれば、最大限の努力として、休んだ方がよいと思います」
ところで、廣津院長ご自身は?
「自分もインフルエンザにかかることもありますが、簡単に休めない。マスクをしっかりつけるなどして診察に当たります」