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「みなさんが上げた声が、沈黙の闇を切り裂き、社会を変えています。私たちの言葉こそ灯火であり、暗闇を切り裂く松明なのです」
「しかし光が当たっていない部分はあまりにも多く、多くの被害者が暗闇の中で苦しんでいます」

3月8日の国際女性デーに、思い思いの花を手に集まり、性暴力に抗議するフラワーデモが全国各地で開かれた。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、東京都内ではオンライン開催となり、東京駅舎を背景に作家の北原みのりさんらがスピーチを行い、約6000人の視聴者がこれを見守った。
冒頭のスピーチを行なったのは、性暴力被害の当事者団体「Spring(スプリング)」代表理事の山本潤さん。同意のない性行為を罪に問えるよう、刑法の改正を訴えて活動を続けてきた。

「なぜこんなに難しいのか」
スピーチはこう続く。
「私たちはいつまで加害者を裁判に向かわせずその責任を問うことすらできない社会で暮らさないといけないのでしょうか」
「私たちは、どこにいても、誰といても、性的な安全と自由が侵されることなく安心して生きる権利を持っているのではないでしょうか。でも、残念ながらこの日本で、それは保障されていません」
「同意のない性行を性犯罪にするというのが、なぜにこんなに難しいのか」
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相次いだ無罪判決「何かせずにはいられない」
フラワーデモは、Twitterのこんな投稿から始まった。
『#WithYou の気持ちを込め花を持って集まりましょう!好きな花でも、花柄の何かでも。声をあげなくてもOKです。現状を変えるため、集まって抗議の気持ちを示すことから始めませんか』
きっかけは、2019年3月に相次いだ4件の性暴力事件の無罪判決。
中でも、中学生の頃から実の父親からの同意のない性行為を強いられていたと認めながら、「抗拒不能」な状態だったと認定するには「合理的な疑いが残る」とした名古屋地裁岡崎支部の無罪判決(2019年3月26日)は社会を驚かせ、大きな議論を呼んでいた。
4月11日、花冷えのする東京で開かれた初めてのフラワーデモは、呼びかけ人でフェミニズム専門の出版社「エトセトラブックス」の松尾亜紀子さんのこんな言葉から始まった。
「何かせずにはいられないので、今日ここから始めていきたい」
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「被害者は語れない、とされてきたけれど…」
以来、毎月11日に日本各地の街頭に広がっていった静かな優しい連帯の場。12回目の節目を迎える3月は、8日の国際女性デーに合わせ、初めて47都道府県すべてでフラワーデモが行われる予定だった。
新型コロナウイルスの感染拡大で実現はかなわなくなったが、街頭で、オンラインで、Twitterで……さまざまなかたちで1年をかけて紡いできた「#WithYou」の輪が広がった。
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呼びかけ人の1人、作家の北原みのりさんは、スピーチの中で1年前のデモをこう振り返った。
「その晩、500人以上の方々が花を持って集まって、その輪がどんどんどんどん膨らんでいきました。まだフラワーデモという名前も付けていなかった。そこで始まったのは、みなさんが自らの痛みの過去を語り出したことだったんですね」
「私は本当に驚きました。これまで、被害者は語れない、とされてきたけれど、『WithYou』という気持ちがあれば、あなたの声を信じますという声があれば、語れるのかもしれない。私たちに足りなかったのは、安心できる空気だったのではないかと気付かされました」
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2020年、刑法の見直しは実現するか?
フラワーデモがつないできた性暴力の被害者たちの声。「性暴力や性差別を許さない」という意思に、司法はこたえられるだろうか。
2020年2月には、1年前に下された4件の無罪判決の1件、福岡の準強姦事件が福岡高裁で逆転有罪となった。
3月12日には、名古屋高裁で実の娘への性暴力について無罪となった岡崎支部の控訴審判決公判が開かれる。
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2017年6月に行われた刑法改正では、110年ぶりに性犯罪が厳罰化され、被害対象が男性も含まれるようになったり、親告罪が廃止されたりした。
だが、「被害者の反抗を著しく困難にする程度の暴行や脅迫」がなければ罪に問えないという「暴行・脅迫」要件は依然残ったまま。性暴力の被害者支援団体などが改正案のたたき台も作っている。
一方、附則には、「性犯罪の被害の実情や改正後の状況を見ながら、必要があれば見直しを検討する」と記されている。その見直し始まる目処とされているのが、2020年の今年だ。
北原みのりさんのスピーチは、こう締めくくられた。
「性暴力との戦いは、長い歴史があります。その歴史の中にフラワーデモがあり、この1年間かけて47の都道府県全ての土地で女性たちが横につながり、各地で様々な世代を超えて女性たちがつながってきた」
「今日は、区切りだけど、終わりではないです。今度は、社会が変わっていく番だ。だからこそこれで終わりではなく、新しいきっかけになるような、そういうことをみんなでしていきたいと思います」
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