HuluやNetfrilxなどでもおなじみの「サブスクリプション」モデルは、いまや珍しいものではない。従来は製品やサービスを売り渡すのが一般的だった業界でも、定額でサービスを利用する権利を与えるというモデルが少しずつ浸透し始めている。
巨大産業である自動車業界も同様だ。最近ではポルシェやボルボなど大手自動車メーカーが定額制で車を提供する動きもみられる。カーシェアやライドシェアなども含め、車の利用方法は今後さらに変化していきそうだ。
1月15日に公開された「カルモ 」も、サブスクリプションモデルを採用し、新たな車の保有方法を提案するサービスのひとつ。月定額でマイカーを保有でき、申し込みも全てオンライン上で完結する。立ち上げたのは企業のデジタルマーケティング支援事業や「Appliv」など自社メディア事業を展開するスタートアップ、ナイルだ。サービスの開始は1月下旬。また、カルモのマーケティング強化を目的に、国内最大級の自動車情報メディア「レスポンス」を運営するイードと業務提携した。
国産の新車をサブスクリプションモデルで提供
カルモは「マイカー賃貸」というキャッチコピーがつけられているように、個人向けカーリースの仕組みに近い。車を購入するのではなく、ある程度の期間に渡って(1〜9年。1年刻み)保有する。対象となるのはトヨタのプリウスや日産のノート、ホンダのN-BOXなど国産メーカーの新車で、期間をすぎると車の乗り換えもできる。
たとえばプリウスであれば月額3万6288円から、ノートであれば2万4192円から利用可能(1/15時点)。通常の個人向けカーリースサービスは5年〜7年など長期利用を想定しているものが多いが、カルモは最短1年から自分にあった形で車を保有できる。
車のサブスクリプションサービスでは"ガリバー"で知られるIDOMの「NOREL(ノレル)」もある。同サービスは「クルマ乗り換えホーダイサービス」をうたっているように、最短90日で車を乗り換えられるのがウリだ。一方カルモは基本的にはある程度の期間保有してもらうことを前提に設計。ナイル代表取締役社長の高橋飛翔氏は「予算を抑えたいというファミリー層が(ターゲットの)中心になる」という。
実店舗なし、申し込みやサポートもオンライン上で完結
料金体系などサービスの中身だけでなく、車を保有するまでのプロセスも従来の新車購買プロセスとは大きく異なる。カルモでは実店舗などを設けず、サービスの検討から申し込みまで全てオンライン上で完結する。
「従来は新車を購入する際に『ディーラー巡り』と言われるように複数のディーラーを訪問し、何度も同じ説明を受けながら車を選んでいた。一方で最近はインターネット上に参考になる情報も多く、約10年で購入までのディーラー訪問回数が4分の1ほどに減っているというデータもある。ならばオンライン上で車を販売することもできるのではないかと。その方が訪問する時間的コストや同じ説明を聞くストレスも少ない」(高橋氏)
当初は担当者がLINEを活用してユーザーの対応をするが、データが蓄積されればAIによる自動返信の割合を増やす方針。そうすることで1人あたりの営業効率もあげられるという。契約後のサポートについても同様だ。任意保険会社やメンテナンス会社、車買取事業者などの紹介に加えて、オイル交換や車検時期のレコメンドなど細かいカーライフ支援も全てオンライン上で行う。
店舗費用や人件費など余分なコストを削減するとともに、リース会社とタッグを組むことで国産の新車をリーズナブルな価格で提供できるのがカルモの特徴。高橋氏は「一括で購入する場合と比べれば当然高くなるが、今人気のある残価設定ローンなどと比べると競争力もあり、価格の面でも勝負はしたい」としつつも、手続きの手軽さや利用後のサポートなども含めて既存のサービスとは異なる価値を提供したいと話す。
エスタブリッシュな業界だからこそ、挑戦する価値がある
「社会的なインパクトがあり、なおかつ大きな変化が起きうる市場でチャレンジしたかった」——自動車領域で新サービスを立ち上げた理由について、高橋氏はこう話す。急な参入に見えるが、実はApplivを立ち上げた2012年にもC2Cの車取引サービスを検討するなど以前からこの市場に注目をしていたという。
既存のマーケティング事業とメディア事業が軌道に乗ってきたためこのタイミングで舵を切ることになったが、カルモのビジネスモデルに至った背景には車好きの家族の影響もある。
「(父親が)オンライン上の情報だけを参考にして、ヤフオクで車を買おうとしていることに衝撃を受けた。試乗をしないのはもちろん、実物を見ないで買ってしまうものなのかと。それまでは気づいていなかったが、この切り口から始めるのは面白いかなと考えたのが始まり」(高橋氏)
まずは購入段階に向けたサービスとして始めるが、将来的にはカルモ車を複数人で共同使用できるシェアリングサービスも立ち上げる予定。自家用車は稼働率が5%ほどとも言われるくらいの遊休資産だが、使っていない時間に運用することで車にかかるコストを抑えることもできる。
「自動車業界は古くからの慣習も残っていて、エスタブリッシュな業界。カルモの話をしても共感を得られないこともあるが、だからこそイノベーションの余地や消費者に新たな価値を提供できる可能性ももある。IT領域で培った知識の活用、工夫を通じてまずは『所有』というレイヤーの課題解決から始め、モビリティ社会を良くするチャレンジをしたい」(高橋氏)