「『低栄養』+エアロバイク...歩けなくなり、要介護状態に」という記事をネットで読みました。「健康には粗食が一番!」と思っている人は少なくないと思いますが、それは若い頃の話。食べ過ぎは良くありませんが、高齢者では「食べなさ過ぎ」の方が怖いかもしれません。
堀米香奈子 ロハス・メディカル専任編集委員
運動不足は万病の元、と健康を気遣って積極的に運動しても、その活動量を支える栄養が足りなければ逆効果です。特に筋肉の材料となるタンパク質が不足した状態で筋トレばかりしていると、どんどん筋肉が落ち、からだを支えられずに転倒、骨折して入院と、あっという間に寝たきり生活となってしまいます。そうなると認知症も急激に進んで、後戻りできない状態に。
戦後、食生活が欧米化し、バブル期には贅を極め、そして気づけば"成人病"が社会問題となっていました。今の高齢者は戦中~戦争直後の食べ物がなかった日本を知っていて、「当時は大変だった」と振り返る一方で、時が経つにつれて美化して「昔は粗食で健康的だった」と思うようになっていったのかもしれません。あるいは大変だった当時を思い出して、「それに比べたら、これだけ食べていれば十分」と、傍目には少なすぎる栄養量で良しと判断してしまう可能性もあります。
そうしてタンパク質が不足した結果、「サルコペニア」を発症します。サルコペニアとは、筋肉量が減少し、筋力か身体活動量が低下した状態です。
なぜ筋肉が減少すると良くないのでしょうか。それは、筋肉が、タンパク質(アミノ酸)の"貯蔵庫" だからです。タンパク質を構成するアミノ酸は、体の至る所で神経伝達物質やビタミン、その他生理活性物質の材料として使われます。食べ物による補給が足りなければ筋肉からの分解が進みます。筋肉が減る、ということは、生きるために必要なたくわえが減る、ということ。要するに衰えていっている、ということです。
これを防ぐには、適切な栄養摂取と、それを前提とした適度な運動が大事です。栄養摂取には、BCAA(分岐鎖アミノ酸)のサプリメントも有効だそうです。また、運動としては、ウォーキングがやはり取り入れやすく、現在の歩数から毎月1割ずつ増やしていくと良いのだとか。
サルコペニアが進んで行きつく先が、「フレイル」です。フレイルとは、筋力の低下と、それに伴って心身の活力が低下した状態で、寝たきりのまさに一歩手前です。食欲が減退し、食べる量が減って、悪循環を起こし、どんどん進行していくのが怖いところ。
実際、要介護の原因疾患は第1位「脳卒中」、第2位「認知症」となっていますが、第3~5位は「高齢による衰弱」「転倒・骨折」「関節疾患」が占めています。これら3つを原因とする場合、サルコペニアやフレイルの"崖っぷち"状態から、一歩転落し始めている状況と言えるでしょう。
ちなみに、同じく老化現象と言われるものに、がんがあります。しかしがんは、緩和ケアや維持療法の発達で、診断を受けてからも比較的長期間、普通と変わらない生活を送れるようになってきています。がんは元々自らの細胞ですから、新陳代謝が緩やかになり、細胞分裂のスピードが低下している高齢者では、なおさら進行も遅くなります。そういう意味では、サルコペニアやフレイルよりも、自立した生活を維持しやすいとも言えます。
がんはまだまだ「怖いもの」というイメージがあるかもしれませんが、実はそれ以上に今の日々の生活を脅かすのがサルコペニア、そしてフレイルということ。でも、がんと違って自分で有効な対策ができるわけですから、地道によく食べ、よく動く、を適度に実践したいですね。
(2017年11月20日「ロバスト・ヘルス」より転載)
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