新型コロナで世界人口の半数以上が貧しくなった間に、世界トップの富豪5人は富を倍増させた――。
貧困撲滅に取り組む国際NGO「オックスファム」が1月15日、格差が世界分断させているとする報告書「Inequality Inc(不平等社)」をスイスで開かれているダボス会議にあわせて発表した。
世界で最も裕福な5人とは、テスラCEOのイーロン・マスク氏、高級ブランドLVMHのベルナール・アルノー会長と一族、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏、オラクル創業者のラリー・エリソン氏、投資家のウォーレン・バフェット氏だ。
オックスファムは、新型コロナ感染症が拡大した2020年以降、この5人の資産が4050億(約59億円)ドルから2.14倍の8690億ドル(約127兆円)に膨らんだとしている。
その一方で、この間に世界の半分以上にあたる約50億人がより貧しくなったという。
オックスファムは、この傾向が続けば、10年以内に世界初の「トリリオネア(兆万長者) が誕生し、貧困の根絶には229年かかると予測している。
オックスファム・インターナショナルのアミタブ・ベハール暫定事務局長は「私たちは今、分裂の10年の幕開けを目撃している」とコメントしている。
「何十億もの人々が、パンデミックやインフレ、戦争による経済的な衝撃に苦しんでいる一方で、億万長者の富は急増しています。この不平等は偶然生まれたのではありません。富裕層は他の人々を犠牲にして、企業が自分たちにより多くの富をもたらすようにしているのです」
報告書は、富の独占について次のような問題も指摘している。
・世界人口のわずか21%を占める北半球の富裕国が世界の富の69%を所有している
・上位1%の富裕層が、世界の金融資産の43%を所有している
・世界の大企業148社の2023年6月までの1年間の純利益は、2018〜2021年の平均純利益を52%も上回った
・96の大企業が2022年7月〜2023年6月の間に上げた利益100ドルのうち82ドルが富裕層である株主に支払われた
・この間、インフレによる物価上昇で数億人の実質賃金が減少した
オックスファムは、富の集中と不平等の解消のために、▽政府による独占の解体▽労働者重視の政策▽すべての人のための医療保健や教育▽富裕層や巨大企業への新たな課税▽生活賃金の法制化▽CEO給与の上限設定▽超富裕層と企業への新たな課税▽従業員の株式所有などによる民主的な企業経営などを提言している。
同団体は、世界の大富豪や億万長者に富裕税を課せば、年間1兆8000億ドルの税収が得られると試算している。
ベハール暫定事務局長は、「暴走する企業や独占力は不平等を生み出す機械である」と述べ、民主主義を弱体化させると訴えている。
「企業は労働者の搾取や、税金逃れ、国家の私物化、気候変動の加速により、大富豪のオーナーに限りない富を流し込んでいます。しかし、それは同時に権力を生み出し、私たちの民主主義や権利を弱体化させているのです。私たちの経済や生活に対し、企業や個人がこれほど大きな権力を持つべきではありません。それはつまり、誰も10億ドルを所有してはならない、ということです」