フィンランド外務省の「若手ジャーナリストプログラム」に参加して、7日目。アジア、アフリカ、アメリカなどから集まった若手記者16人が、この国を知るためのプログラムに参加している。
8月13日は、社会保険庁の事務所(KELA)を訪問した。ここでは、育児や失業への給付など約40の社会福祉に関する業務を担う。世界に先駆け、フィンランドが2017年から国単位で試行している、失業者の一部に最低生活費「ベーシックインカム」の給付も、この事務所で扱っている。
この日は、「育児パッケージ」について詳しく話を聞いた。
「育児パッケージ」は、フィンランド政府が育児支援の一環として、子どもが産まれた親に支給している育児用品のパッケージだ。
夏、冬の子供服、掛け布団カバー、マットレスカバー、シーツ、バスタオル、爪切り、哺乳瓶、ぬいぐるみなど、赤ちゃんが生まれた時に必要なものが一箱に詰まっている。
このパッケージは、母親に配られる。たとえ父親が親権を持っている子どもでも、母親に送るのだ。
男性の同性カップルが養子を授かった場合は、代わりに現金が支給される。性別関係なく親に送られるべきだという議論はあるのだが、まだルールは変わっていないという。
2018年の育児パッケージは、64点あった。
育児パッケージの例
KELAで育児パッケージを担当するへリ・ラーコネンさんは、こう話す。
「1938年にこの支援ができた当初は所得の低い家庭にだけ配られました。しかし、1949年からはすべての家庭に適用され、パッケージを受け取りたくない人は現金(170ユーロ)を代わりに受け取ることができるのです。でも、初めて子どもを産んだ親の95%は、育児パッケージを選びます」
実際に育児パッケージの中身を見せてもらうと、全く想像しなかった2つのアイテムが入っていた。
コンドームと潤滑ゼリーだ。
なぜ育児パッケージに、この2つが?
ラーコネンさんに聞くと、「母親からの要望が多いからです」と答えた。
出産後ほどないセックスで妊娠する場合があるが、それを嫌がる母親は少なくない。そこで避妊を望む母親たちのために、5つのコンドームを用意したそうだ。また、出産後のセックスは、膣などに痛みを伴うことがある。痛みを緩和するためにも、潤滑ゼリーは大きな役割を果たすという。
確かに、子供が生まれても、カップルの間でセックスが営まれてもちっとも不思議ではない。
でも、もし私が育児パッケージの中身を考えるとしたら、その2つはきっと思い浮かばなかっただろう。
なぜ、私は「育児」と「セックス」を切り離して考えてしまったのだろうか。
それはきっと「親」と「性」がかけ離れたものだと思い込んでいたからだろう。
家庭で異なると思うが、私自身は親と性の話をあまりしたことがなかった。
むしろ、性の話は「タブー」だった。
ドラマや映画で少しエッチなシーンが出ると、父親は急いで私の目をふさぎ、見られないようにしたし、父親と母親がいちゃつくような姿をあまり見たことがない。今思えば、見せないようにしていたのかもしれない。常に「性」のイメージとはほど遠い、「父親」と「母親」というイメージしかない。
そんな風に、「性」と「親」を、つなげることなく育ったので、育児パッケージの中にコンドームを見つけた時、少しだけ目をそらしたくなった。
「あからさま」に置いてある避妊具に、恥ずかしさを感じたのだった。
自分が「親」になったらどうだろう。出産後もパートナーとセックスをし続けたいと思うに違いない。
そうやって、「親」という存在を自分に引きつけて考えたことで初めて、自分が作り上げていた「性」抜きの「父親」「母親」は、一面的なものだったことに気づいた。
コンドームと潤滑ゼリーの入った育児パッケージは、子どもを育てるという面だけでなく、「親」になってもセックスをする、という部分に、目をそらすことなく、きちんと向き合っている、と感じた。
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2018年8月、フィンランド外務省が主催する「若手ジャーナリストプログラム」に選ばれ、16カ国から集まった若い記者たちと約3週間、この国を知るプログラムに参加します。
2018年、世界一「幸せ」な国として選ばれたこの場所で、人々はどんな景色を見ているのか。出会った人々、思わず驚いてしまった習慣、ふっと笑えるようなエピソードなどをブログや記事で、紹介します。
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