「久世さん、フィンランドに1カ月間、出張に行ってもいいですか?」
ハフポスト日本版のブログ編集部で同僚だった井土亜梨沙さんから、こう相談されたのは、6月のこと。
井土さんはフィンランド外務省が主催する「若手ジャーナリストプログラム」に選ばれ、2018年8月に16カ国から集まった20代の若い記者たちと、約3週間かけてフィンランドで現地取材をするというのです。
2人で数百人のブロガーの原稿を取りまとめ、ハフポストに掲載する仕事を一緒にしていたのですが、井土さんは1ヶ月間抜けてしまうことで、私に負荷がかかるのではないかと心配したようです。
しかし、そんな機会はめったにない。聞くと、日本人がこのジャーナリストプログラムに選ばれるのは、4年ぶりとのこと。井土さんにとっても、ハフポストにとっても、メリットしかない。私は「全く問題ありません。ぜひ行ってきてください」と後押ししました。
その現地取材の成果は、「#幸せの国のそのさき」という連載に集約されました。現地で取材した内容をその日のうちにまとめ、ブログとして記事化しました。その数、実に15本。井土さんは睡眠時間を削り、編集部の先輩記者、錦光山雅子さんの指導を仰ぎながら、フィンランドのリアルな情報を現地から発信し続けました。
フィンランドは、国連による「世界幸福度ランキング2018」で1位になった国です。日本人にとっても非常に関心が高い国で、教育レベルが高く、国民性に好感をもて信頼でき、魅力的な旅行先だというアンケート結果もあります。井土さんがTwitterで「#幸せの国のそのさき」というハッシュタグをつけて発信し続けたところ、3週間でフォロワーが1000人以上増えました。
井土さんの取材旅行の成果をハフポスト読者に報告するイベント「コーヒーからコンドーム、根性論まで。あなたの知らないフィンランド、伝えます」が9月28日、東京都内で行われました。井土さんはフィンランド好きの読者およそ60人を前に、日本人とフィンランド人の両親を持ち、同国で育ったエスコラ茜さんとのトークセッション形式で、リアルなフィンランドの姿を縦横無尽に語り尽くしました。
くわしいイベントレポートは、錦光山さんがまとめたこちらの記事を御覧ください。
私も当日、カメラマンとしてイベントに参加しました。2人のトークで、個人的に興味深かったのは、次の3つです。
子供と結婚は別物、という家族観
フィンランドでは、結婚はあくまで2人の関係であり、子供がいるいないは関係ないという考え方があります。だから、結婚していなくても子供がいるカップルもいるし、離婚率も高い。
日本では、「子供のために離婚しない」という考え方をとる場合が多いように思われますが、フィンランドではむしろ、子供に悪い夫婦関係を見せてしまう環境を作ってしまう方が悪影響を及ぼす、と考えるそうです。
上の世代が、下の世代に早い「変化」を求める
フィンランドという国の大きな特徴として、変化を恐れない、変化するスピードが非常に早いという点が挙げられます。井土さんがフィンランド外務省の職員に「なぜフィンランドという国は変化し続けるのですか?」と尋ねたところ、「上の世代が、下の世代に『変われ』とプレッシャーをかけるのです」と答えたそうです。
日本であれば、上の世代になればなるほど、安定を求める傾向が強くなりがちなのに、フィンランドではむしろあらゆる世代が「変わることが善」と考える。そうした共通の価値観があるからこそ、世代間のギャップが生まれにくく、コミュニケーションが円滑になるのでしょう。
すべてが幸せの国、というわけではない
フィンランドは教育や働き方など全てにおいて恵まれた国、という印象がありますが、必ずしもそうではないことを、井土さんは現地で感じたそうです。
連載ブログの締めくくりは、フィンランドの現実を知らしめるような内容でした。
雇用形態も不安定で、若い世代の失業率は極めて高い。高齢者は働く場所がない。「世界一幸せの国」と認められてはいるが、だからといって常に「幸せ」があるわけではない。
井土さんはイベントをこう締めくくりました。
「フィンランドは全くの天国、というわけではありませんでした。ただ、よりベターなものにしていくためにトライアンドエラーを重ね、変化をし続けている。日本はそういったところに学ぶところがあるのではないかなと思います」
世界一幸せな国であり続けるためには、変化をし続けること。
変化を恐れないマインドが大切だということを、井土さんの長期取材、そして報告イベントから学びました。
46歳の私も、変化し続けなければならない。今はハフポストを離れ、新しい挑戦をしています。そうした「変化へ踏み出す勇気」を常に持ち続けていきたいと思っています。