2010年から現在までのFIFA汚職報道まとめ

ここ5年ほどの間に報じられたFIFAの汚職疑惑について時系列順にざっくりとまとめておきます。

この件に関連して、ここ5年ほどの間に報じられたFIFAの汚職疑惑について時系列順にざっくりとまとめておきます。抜け漏れに関してはご容赦を。

疑惑が報じられたFIFAの関係者は黒い太字、さらに今回逮捕された人物は赤い太字にしてありますので人物相関図をつくる際にでもお役立てください。なお、役職については当時のもので現在は変わっている人も多いです。

ちなみに現在報じられている疑惑は主に以下の3つです。

  • 2001年に経営破綻したスポーツマーケティング会社『ISL』を巡る贈収賄疑惑
  • 2011年に行われたFIFA会長選挙に伴う買収疑惑
  • 2018年と22年のW杯開催地決定を巡る不正疑惑

【2010年:英国メディアによる報道】

5月:イギリスの大衆紙『メール・オン・サンデー』が、イングランドサッカー協会会長でW杯招致委員長だったデビッド・トリーズマン氏が知人にW杯招致を巡るFIFAの不正について漏らしていた事実を報道(報道を受けてトリーズマン氏は両職を辞任)

10月:イギリスの高級紙『サンデー・タイムズ』がおとり取材を敢行。レイナルド・テマリー氏(オセアニアサッカー連盟会長)とアモス・アダム氏(西アフリカサッカー連盟会長)の2名がアメリカの招致団に扮した記者の誘導にひっかかり賄賂を要求する映像が公開される。同紙はさらに元FIFA事務局長のミシェル・ゼンルフィネン氏が、一部理事の買収が可能であることを明らかにしたうえで金銭と引き換えに自身が仲介役となる旨の申し出をしたことも報じた。FIFAは賄賂を要求した2人の理事に対して職務資格の停止と罰金を科し、W杯の開催地を決める投票権を剥奪した。

11月:BBCの報道ドキュメンタリー番組『パノラマ』がFIFAの汚職について取り上げ、リカルド・テイシェイラ氏(ブラジルサッカー連盟会長)、イッサ・ハヤトウ氏(アフリカサッカー連盟会長)、ニコラス・レオス氏(南アメリカサッカー連盟会長)の3名が1989年から99年までの間にISLから約1億ドルの賄賂を受けていた疑惑や、ジャック・ワーナー副会長(北中米カリブ海サッカー連盟会長)がドイツと南アフリカの両W杯でチケットを横流ししていた疑惑などを報じる。

12月:2018年と22年の開催地を決める投票が行われ、18年大会はロシア、22年大会はカタールで開催されることが決定。当初“18年大会の最有力”と見られていたイングランドは全投票数22票のうち獲得できたのが2票のみ(うち1票は自国のもの)という完敗を喫する。以降『サンデー・タイムズ』をはじめとするイギリスのメディアは今回の投票を巡る不正疑惑を厳しく追求していくこととなる。

同月:アメリカの『ウォール・ストリート・ジャーナル』が、財政危機にあったアルゼンチンサッカー協会に対してカタールから7840万ドルもの支援が行われたと報じる。同紙はその理由をアルゼンチンサッカー協会会長でFIFAの経営委員でもあるフリオ・グロンドーナ氏(2014年に死去)にW杯招致の協力を仰ぐためとしたが、グロンドーナ氏は事実を否定している。

【2011年:疑惑の追求と会長選挙の混乱】

5月:英国下院の文化・メディア・スポーツ委員会が辞任したトリーズマン氏を証人として召喚。トリーズマン氏はジャック・ワーナー氏から出身国での学校建設費やハイチにおけるW杯放映権の購入費用を求められたこと、さらにニコラス・レオス氏からは爵位の要求、ウォラウィ・マクディ氏(タイサッカー協会会長)からはイングランドとタイの間で行われる親善試合のテレビ放映権を譲渡するよう要求があったことも明らかにした。また、リカルド・テイシェイラ氏からは見返りの内容を明確にするよう求められたことも証言した。証言の模様はTVで生中継されたほか多数のメディアで報じられた。

同委員会はさらに『サンデー・タイムズ』にも不正疑惑に関する調査文章を提出するように求めており、その中で同紙はイッサ・ハヤトウ氏とジャック・アヌマ氏(コートジボアールサッカー協会会長)の2名がカタールからそれぞれ150万ドルを受け取っていたとする証言や、ジェローム・バルク事務局長による“カタールは金でW杯を買った”という旨の私的メールがあることなどを明らかにした。

5月末:チャールズ・ブレイザー氏(北中米カリブ海サッカー連盟事務局長)の内部告発により、ゼップ・ブラッター会長と次期会長の座を争っていたモハマド・ビン・ハマム氏(アジアサッカー連盟会長/カタール出身)が、ジャック・ワーナー氏とともに買収工作を行っていた事実が発覚する。告発を受けたFIFA理事会は聴聞会の実施を決定。ハマム氏は立候補を取り消すも倫理委員会により暫定的な活動停止処分に(同年7月に永久活動停止処分が決定)、またワーナー氏は副会長職を辞任することとなる(後任はジェフリー・ウェブ氏

6月:FIFA会長選(任期4年)。ハマム氏が立候補を取り消したため信任投票となり、ゼップ・ブラッター会長の再選(4選)が決まる。なお、イングランドサッカー協会は一連の不祥事発覚を理由に会長選挙の延期を要求したが支持したのは17協会にとどまった。

【2012年:スイス検察による捜査文書の公開】

7月:スイスの検察当局はISLの破綻に関する捜査資料を公開し、ジョアン・アベランジェ名誉会長(前会長)とリカルド・テイシェイラ氏(ちなみにアベランジェ名誉会長の娘婿)がISLから多額の賄賂を受け取っていたという捜査結果を明らかにした。さらに当時FIFAの理事を務めていたゼップ・ブラッター会長がこれらの事実を知っていたことも明らかとなった。これに対しブラッター氏は自身が賄賂を受け取った事実はないとしたうえで「当時のスイスにおいてこうした行為は違法ではなかった」(スイスでは非営利のスポーツ団体は不正行為取締法の対象外とされる)との認識を示しアベランジェ氏とテイシェイラ氏を擁護した。なおテイシェイラ氏は健康不安を理由に同年3月をもってFIFA理事を含む全ての役職を辞任している(後任はホセ・マリア・マリン氏)。

同月:汚職疑惑が続いていることを受け、FIFAは倫理委員会の調査局長に元インターポールのマイケル・J・ガルシア氏を任命。調査における全権と独立権を認めるとともに、W杯開催地決定を巡る疑惑を徹底的に解明するとした。

【2013年:カタールゲート】

1月:フランスのサッカー専門誌『フランス・フットボール』が“カタールゲート”と題した大規模なレポートを掲載し、W杯招致のためにカタールが行った様々な不正疑惑を報じる。特にニコラ・サルコジ大統領とミシェル・プラティニUEFA会長、パリ・サンジェルマンのセバスチャン・バザン氏(運営会社社長)の3名がエリゼ宮でカタールのタミン・ビン・ハマド・アルタニ皇太子と秘密会談を行い、票の見返りとして様々な密約が交わされたと報じられたことはサッカー界以外にも大きな衝撃を与えた。主な密約の内容は財政難に陥っているパリ・サンジェルマンの売却やアルジャジーラが設立したスポーツ専門TVにおけるフランスリーグ放映権購入、さらにはW杯開催に伴うインフラ整備の発注など。プラティニ氏は会談があったことは認めているものの密約の存在は否定。なお、プラティニ氏に関しては息子がカタール資本のスポーツマーケティング会社に就職していること、開催地を決める投票直前にモハマド・ビン・ハマム氏と秘密裏に会っていたことなども報じられている。

5月:ISLを巡る贈収賄疑惑についてFIFA倫理委員会の調査結果が発表され、既に賄賂の受け取りが発覚していたジョアン・アベランジェ名誉会長とリカルド・テイシェイラ氏に加え、さらにニコラス・レオス氏も賄賂を受け取っていた事実が明らかとなった。これを受けてアベランジェ氏は名誉会長を辞任、レオス氏は調査結果が発表される直前に理事職を辞任している(理由は体調不良)

9月:イギリスの高級紙『ガーディアン』がカタールにおける建設作業員の過酷な労働状況について報じる。同紙は主にネパールからの移民が作業にあたっているとし、酷い時には50度近くに達する酷暑のなかで水や食べ物もほとんど与えられないまま僅かな賃金で奴隷のように働かせられていると報告。これを受けて各国の人権団体が是正を求める声明を発表したほか、カタール側も実態を詳しく調べて必要であれば改善すると応じた。

【2014年:さらなる疑惑とガルシア・レポート】

3月:イギリスの高級紙『デイリー・テレグラフ』が、ジャック・ワーナー氏とその家族がモハマド・ビン・ハマム氏の経営する会社から約200万ドルを受け取っていたと報じる。

6月:『サンデー・タイムズ』が、モハマド・ビン・ハマム氏がアフリカ諸国のFIFA理事や各国のサッカー協会幹部に対して総額500万ドル以上の賄賂を支払っていたと報じる。賄賂はハマム氏が設立した企業の基金を通じて30人以上のサッカー関係者に支払われたとされる。さらに同紙は、ハマム氏がウォラウィ・マクディ氏を通じてカタールとタイの間で閣僚級会談をセッティングし票の見返りに天然ガスを非常に安い価格で購入できるよう便宜を図った疑惑や、鄭夢準副会長(大韓サッカー協会名誉会長)が役職の保証と引き換えにハマム氏に協力していた疑惑なども報じた。これらの報道を受けてソニーやアディダスなど主要スポンサー各社がFIFAに対して適切な調査を要求するという異例の事態となった。

9月:FIFA倫理委員会調査局長のマイケル・J・ガルシア氏が、不正疑惑に関する調査の終了と350ページの報告書(通称“ガルシア・レポート”)をまとめて裁定部門に提出したことを発表。報告書はおよそ1年間にわたる75人以上の関係者への聞き取りとインタビューの録音記録などおよそ20万ページ分の資料を基に作成された。

10月:裁定部門のハンスヨハヒム・エカート氏が個人情報が含まれていることを理由に“ガルシア・レポート”の全面公開を否定。レポートを基に裁定部門の見解を加えた声明を11月に発表するとした。いっぽうガルシア氏は全面公開を要求。またイングランドサッカー協会をはじめ一部のサッカー協会も全面公開を求めた。

11月:FIFAは“ガルシア・レポート”を抜粋した42ページの資料を発表。それによりロシアとカタールのW杯招致に関する不正疑惑は晴れたと結論付け、開催地決定の再投票は行わないとした。

12月:FIFAの発表に対して、ガルシア氏が「レポートの内容が歪曲して伝えられている」として異議申立てを行うもFIFA上訴委員会はこれを却下。これを受けてガルシア氏は調査局長を辞任した。

【2015年:冬季開催決定、そして捜査へ】

3月:FIFAは2022年のカタール大会の開催時期を変更し11月~12月の冬季に行うと発表。大会期間も短縮され、決勝は12月18日に行うとされた。

5月:27日、米司法省はFIFAの副会長ら14人を贈収賄などの容疑で起訴したと発表。これを受けてスイスの司法当局はFIFA本部のあるチューリッヒに滞在していた関係者を逮捕した。さらにスイス当局は18年のロシア大会と22年のカタール大会の開催地決定についても不正行為が行われた疑いがあるとして独自捜査を開始していたことを発表。3月10日に正式な捜査を開始したとし、FIFA本部を家宅捜索して関係書類やデータを押収した。

ざっとこんな感じです。まとめてて自分でも嫌になりました。FIFA真っ黒すぎぃ!しかもここでまとめたのは“FIFAの活動に関連した不正”だけで、ほかにも協会レベルでの不正や(FIFAの活動に関係のない)個人単位での不正は山ほどあります。サッカー界どんだけ腐ってるんや……ってか来月の女子W杯とか大丈夫なんでしょうか。。。

ちなみに一部報道によると、2011年に行われたFIFA会長選で不正を告発した北中米カリブ海サッカー連盟のチャールズ・ブレイザー氏が今回の捜査にも協力していたとのことです。ただこのブレイザー氏、捜査に協力することになったのは10年に渡る所得税未納がバレてFBIから強要されたからだったうえ、彼自身も横領の疑いで2013年にFIFAから活動停止処分を受けてるんですよね……本当にクズばっかりや……

あと過去の報道を見る限り、カタールが行った不正の捜査に関してはモハマド・ビン・ハマム元アジアサッカー連盟会長がキーマンになりそうですね。こんな人物がAFCのトップやってたんだからそりゃACL絡みでも色々ときな臭い話が出てくるはずです。

なお汚職を含めたFIFAの様々な問題については、イギリス人コメディアンのジョン・オリバーが自身の番組で皮肉たっぷりにまとめてます。気になる人はこちらの動画も御覧ください。

(2015年5月27日「想像力はベッドルームと路上から」より転載)

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