「女子アナ」に「女子」ってなんで付いてるの?女子アナ役を演じた俳優が、現役アナウンサー・佐々木真奈美さんにホンネで聞いてみた。

アメリカに渡った彼女が語った「女子アナ」の裏側
連続ドラマ『報道バズ』より
連続ドラマ『報道バズ』より
Derrrrruq!!!

回の投稿でも少しだけご紹介しました、現在製作中の連続ドラマ『報道バズ』

ニューヨークのニュースアプリ会社「報道バズ」を舞台に日本人ジャーナリストたちが奮闘する、日米合作の社会派ドラマです。私はプロデューサー兼俳優として、女性アナウンサーの主人公・和田明日香の役を演じています。

明日香は、「女子アナ」として、日本のテレビ局でバラエティ番組を中心に活動をしていました。しかし、役割を押し付けられる職場の空気やセクハラ文化にうんざりし、もともと憧れだった報道に携わるため、一念発起して渡米、報道バズに転職します。

本作のクラウドファンディングに奔走していた矢先、なんと現在ニューヨークでご活躍の現役アナウンサー・佐々木真奈美さんに、『報道バズ』のトピックをテーマにお話をお伺いする貴重な機会をいただきました。以下、対談形式でご覧ください。

MANAMI SASAKI

佐々木真奈美さんプロフィール:

山形テレビにアナウンサー兼記者として入社後、TBSニュースバードキャスターに。番組内では東日本大震災のレポートや、東証からのマーケット中継も担当した。2016年に渡米。ノースカロライナ大学チャペルヒル校客員研究員としてジャーナリズムを学んだ後ニューヨークを拠点にレポーターとして活動。現在の出演番組は、TBS「ビジネスクリック」、TBSニュースバード、さくらラジオ「Have a good day」、BTV「Made in NY」など。公式ブログ:https://ameblo.jp/manami-sasaki/

本田真穂(以下「真穂」):真奈美さん、今日はお忙しい中お時間を作ってくださり、どうもありがとうございます!

佐々木真奈美さん(以下「真奈美」、敬称略):いえいえ、とんでもないです!真穂さんが今作っていらっしゃるドラマについてお伺いしたいと思っていたんです。日本での仕事を辞めて渡米する女子アナの話なんですよね、まさに私!と思いました。

真穂:えー、そう言っていただけて嬉しいです。実は、『報道バズ』について真奈美さんからメッセージをいただいた時、もしかして怒られるのかなと思ってドキドキしたんですよ (笑)。本物のアナウンサーさんにしてみたら、和田明日香は、現実と違う、アナウンサーはそういうことは言わない又はやらない、などのご指摘をいただいてしまうかもしれないと心配で。もちろんベストは尽くしましたが、ニセモノの私には限界の部分もあって...。昨日お会いした時に、私も真奈美さんにお話を伺いたいと思ったんですけど、なんだか怖くて言い出せなかったんです。

真奈美:えー、そんな (笑)。女子アナのことをすごくエッジの効いた視点で取り上げてくださって、むしろ嬉しいです。予告編は拝見しましたが、まだ完成していないんですよね。どういうストーリーなんですか?

真穂: 『報道バズ』は、アナウンサーである主人公の和田明日香が、日本のテレビ局を辞めて、長年の夢であった報道に携わるためニューヨークのニュースアプリ会社に転職するところから物語が始まります。アメリカで心機一転、ジャーナリストとしての新たな挑戦を前に期待に胸を膨らませていた明日香でしたが、すぐに様々な困難に直面することに... (続く)、というストーリーです。

連続ドラマ『報道バズ』より
連続ドラマ『報道バズ』より
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真奈美:日本とアメリカの事情は全く違いますものね。私も日米でアナウンサーをやってみて、いろいろと感じたことがありました。実は、ノースカロライナ大学チャペルヒル校(UNC)のSchool of Media and Journalism(スクール・オブ・メディア・アンド・ジャーナリズム)に客員研究員として在籍していた時に、日本とアメリカのアナウンサーを比較する、という研究をしていたんですよ。

真穂:日米アナウンサーの違い!興味深いですね。是非教えてください。

真奈美:まず、リクルートのされ方、アナウンサーになるまでの過程が全然違います。リサーチの一環で私のアンケートに答えてくださったアメリカのニュースアンカーの皆さんは全員、記者・ジャーナリストとして入社し、そこで評価されてニュースアンカーになっていらっしゃいました。ジャーナリズムのバックグラウンドがあるので、あたり前のように自分で取材できるし、映像も撮れるし、編集もできるのがアメリカでは一般的です。

真穂:そうなんですね。日本はどうなのですか?

真奈美:日本は、アナウンサー職としての募集があり、基本的にそこで採用されます。もちろん研修は行われますが、番組収録の現場で、他のスタッフと比べてアナウンサーが一番若く経験が浅い、という状況も珍しくありません。本来アンカーは、最終伝達者としての責任があるため、番組のスタッフの中でも特に経験や知識のある人がなるべきだと思うのですが...。このように、日米では、アナウンサーになるまでのシステムが全然違うんです。

真穂:へえ、アメリカの方が実力主義が徹底している様子ですね。

真奈美:もちろん日本でも経験のあるアナウンサーが番組にとって大切だという意識はプロデューサー側も持っていると思うのですが、アナウンサーの人気が番組の視聴率を左右することもあり、経験うんぬんよりも、若さや見た目による男性からの人気を基準にして番組に起用されるケースもあるんです。

真穂:『報道バズ』では、明日香が情熱をかけたレポートをしても、実力を評価されるどころか、「ブサイク」「見た目だけが売りのクセに」と見た目や女性であることに対する誹謗中傷がネットで集まる、というシーンを入れています。

左から、松崎悠希、辛源、コリンズユリエ、倉持哲郎 (敬称略)
左から、松崎悠希、辛源、コリンズユリエ、倉持哲郎 (敬称略)
Derrrrruq!!!

真奈美:女子アナのあるあるですね (笑)。私は、そんな日本のアナウンサーの現状に疑問を持ち、当時英語がほとんど話せなかったにも関わらず、実力主義が根強いアメリカに来てみたんです。ちなみに私が今頂いているNYマーケットリポーターや、全米ラジオのDJの仕事などは、連絡先を聞いて自分の足で売り込みに行きました。NYで日本人がアナウンサーとして活躍するのは本当に簡単なことではありませんが、恥ずかしがらずに行動することが大事!これもアメリカ人から学びました。

真穂:すごいですね、なかなか思っていても実際に行動できるものではないので。真奈美さんの勇気と行動力、ご自分のやりたいことへのコミットメントを尊敬します。

左:ノースカロライナ大学のキャンパスにて、真奈美さんの最後の日に撮った一枚。右:全米ラジオ「さくらラジオ」のDJを担当していらっしゃる真奈美さん
左:ノースカロライナ大学のキャンパスにて、真奈美さんの最後の日に撮った一枚。右:全米ラジオ「さくらラジオ」のDJを担当していらっしゃる真奈美さん
Manami Sasaki

真穂:『報道バズ』の明日香は日本で報道をやりたくてもできなかったという設定なのですが、実際にアナウンサー職として採用された女性は、日本ではどのように報道を目指せば良いのでしょうか。その分野でご活躍の女性アナウンサーもいらっしゃいますよね。

真奈美:全国放送の報道番組のキャスターになるのは本当に狭き門ですよ。報道に行きたかったら、多くのバラエティ番組に出演し、結果を出すことが近道かもしれません...

真穂:バラエティで結果を出すというのは具体的に、番組を上手に進行するとか、とっさの時に機転を利かせるとか、面白いことを言ったりやったりして笑いを取るとか、それによって他にはないキャラを確立するとか、そういうことかと想像しますが...。

真奈美:アナウンサーは常に現場で経験を積んで、仕事に慣れていくことが重要です。見た目の良さで男性からの人気を得たり、バラエティ番組で重宝されて番組出演が増えたりするほどキャリアアップをしやすいシステムになっているのだと思います。女性の場合、アナウンサーになるには、ミスコンに出場するのが近道だとも言われますしね (笑)。

真穂:出た、ミスコン (笑)。私たちが早稲田に行ってた頃はなかったので、早大生には不利だったんですね。

真奈美:仮にあっても、私は出られるような自信は無かったですが(笑)。

真穂:確かに、キー局だと倍率が数千倍などとも言われる女性アナウンサーさんの中には、モデル出身、ミスコン出身などと形容されている方々もたくさんいらっしゃいますもんね。そういう話題性があれば、視聴率には有利ということですね。人気が重視される職業ということでは、やはり芸能人のようなタレント性が求められるのですかね?

真奈美:そこが難しいところです。フリーランスの人たちは別として、明らかに人気によって運命が左右される職業であるにも関わらず、アナウンサーは基本的には会社員です。なので、例えば結婚報告などをすると、「一般人なのに調子に乗りやがって」「芸能人気取りか」と言われてしまう。

真穂:あぁ、そういえば、『報道バズ』発展段階のリサーチの時にお話を伺った関係者の方が、「女子アナは大変だよ。芸能人のように顔が売れている女子アナは、接待などの場に呼ばれる機会が多いけど、会社員だからどんなに疲れていても上からお呼びがかかれば行かなきゃいけないし、どんなに翌朝の仕事が早くても遅くまで付き合わなきゃいけない。局にとっては安く使えるアイドルだよ。」とおっしゃっていたのを覚えています。「アイドル」と「会社員」、会社からも世間からも二つの役割を同時に押し付けられたら大変ですね。そもそも「女子アナ」という言葉自体に、「可愛らしい」「親しみやすい」といった、アイドル的な響きがありますよね。

真奈美:男子アナという言葉はないですもんね (笑)。

真穂:男子アナ... という言葉は違和感がすごいですね (笑)。女子アナと呼ばれる職業に実際に就いてらっしゃる方々は、もちろん人それぞれだとは思うのですが、ご自身がそう呼ばれることについてどういうお考えを持っていらっしゃるものなのでしょうか。

真奈美:ちやほやされたい、人気者になりたい、というアイドル志望の女性たちがアナウンサーを目指すケースもありますが、大抵はそうした扱いに疑問を持っている女性アナウンサーがほとんどではないでしょうか。世間では華やかなイメージがありますが、実際は体力勝負の過酷な仕事内容である上、アイドル的な価値を求められることで私生活にも少なからず影響が出ますから。

真穂:そうなんですね、日本の女性アナウンサーの皆さんが、会社や世間から「女子アナ」というレッテルを貼られるということがどういうことか、少しだけ具体的に想像できた気がします。「女子アナマニアの女子アナ」というニックネームをお持ちな上に、アナウンサーとしても従来の枠にとらわれず独自のキャリアを築いてきた真奈美さんに貴重なお話をお伺いできて、とても勉強になりました。

真奈美:そんな (笑)。真穂さんたちのドラマは、女子アナたちが雇われの身では言えないことを代弁してくれていると思います。『報道バズ』は女子アナの味方です!早く全体を通して見てみたい。楽しみで仕方ないです。

真穂:だー、ありがとうございます(涙)。完成させるべく尽力します。本日は貴重なお時間をいただき、本当にどうも有難うございました。

Yurié Collins, Yuki Matsuzaki, Maho Honda, Gen Parton Shin, Tetsuo Kuramochi (left to right)
Yurié Collins, Yuki Matsuzaki, Maho Honda, Gen Parton Shin, Tetsuo Kuramochi (left to right)
Derrrrruq!!!

佐々木真奈美さん、私のような外部の者には知りえない貴重なお話を聞かせてくださり、また、心強い応援のお言葉までくださり、どうも有難うございました。

(もう一度、真奈美さんの公式ブログはこちら:https://ameblo.jp/manami-sasaki/

「女子アナをエッジの効いた視点で取り上げている」と真奈美さんが表現してくださった連続ドラマ『報道バズ』は、新人ジャーナリストとして成長していく女性アナウンサーの主人公の周りで起こる、セクハラ、ネット炎上、メディアのやらせ報道などの社会問題をテーマにした、社会派エンターテイメント作品です。

メディアのタブーと戦うジャーナリストの物語であると同時に、何をするにも「女のくせに」「女だから」「女らしく」を投げつけてくる社会を必死で生き抜く、一人の人間のストーリーです。

『報道バズ』は現在、クラウドファンディングキャンペーンを行い、完成と配信のための資金を集めております。この作品を世に出すには、皆様のご支援、ご協力が必要です。

様々な意見が存在するトピックこそ、多くの人が楽しんでみられるエンターテイメントに積極的に取り入れていきたい。そうして議論を引き起こしていきたい。川出真理、近藤司、私からなるニューヨーク在住の映像制作チーム「Derrrrruq!!! (デルック)」は、そんな想いで4年以上に渡りこのプロジェクトに全力を注いできました。

作品の内容、キャンペーンの詳細、私たちの想いなどを掲載したキックスターターページのリンクを以下にご案内いたします。どうか、ご検討のほど、よろしくお願い申し上げます。

連続ドラマ『報道バズ』クラウドファンディングキャンペーン:http://kck.st/2u8rx8o

☆ この記事は、著者のブログ「気まマホ日記」から一部改訂して転載されました。この記事の内容は、佐々木真奈美さんのお話をもとに、著者が抜粋、文章化、編集したものです。内容に関するご意見やお問い合わせは、info@mahohonda.com までお願いいたします。

Masaki Hori

Photo by Masaki Hori

『報道バズ』制作チーム・Derrrrruq!!! (デルック)

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