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1912年に沈没した豪華客船「タイタニック号」を探索するツアーの潜水艇「タイタン」が消息を断ち、海底から残骸が発見された事故。
そのタイタンで「乗客が撮影した水圧で潰れる瞬間」の動画が、SNS上で拡散している。
しかし、この内容は虚偽だ。
タイタンの乗員乗客は全員死亡しているうえ、カメラが回収されたという情報はない。さらに、動画には別の日時と場所で撮影されたものをつなぎ合わせた形跡がある。
ハフポスト日本版はファクトチェックした。
経緯を振り返る
タイタンは、米オーシャンゲート・エクスペディション社の潜水艇。
同社のウェブサイトには約4000メートルの水面下を96時間連続で移動できると記載されていた。
アメリカ沿岸警備隊によると、タイタンは6月18日朝に母船から潜航に出発。約1時間45分後に連絡が途絶えた。
乗員乗客5人の捜索が続いていたが、米沿岸警備隊は22日、「潜水艇は水圧で押し潰され、乗客5人全員が死亡した」と発表した。
水深約3800メートルに沈んだタイタニックの船首から約490メートル離れた場所で、タイタンの主要部分の破片が5つ発見されており、同警備隊幹部は「破片は周囲からの圧力で破壊的に押し潰されたことを示す」と指摘している。
さらに、潜水艇の残骸が28日に引き上げられた際、内部から遺体とみられるものが回収されたという。
突然場面が切り替わる
では、SNS上で拡散した「水圧で潰れる瞬間」の動画とは、どのようなものなのか。
15秒ほどの動画は、まず複数の人々が丸い窓がある乗り物に乗っている場面から入る。
中には女性とみられる人物が写っているが、潜水艇を運航するオーシャンゲート社が発表している今回亡くなった乗員乗客5人は、いずれも男性だった。
窓からは海中を潜航する様子が見え、3秒後には急に光が差し込まない海底に到着した場面に突然切り替わる。
そして12秒後、潜水艇の外殻が突然、ぐしゃっと潰れたようにみえる映像に切り替わり、動画は終わる。
TikTokで拡散した動画
ハフポストが確認したところ、この動画は6月26日頃からTikTokで拡散した。
それを複数のまとめサイトなどが引用し、28日頃から「タイタン号が水圧で潰される瞬間」や「潰れる直前、窓の外を何かが通る」などとツイートした。
29日正午現在、700万件表示され、1.7万いいね、1900リツイートと拡散しているツイートもあった。
TikTokの発信元は定かではないが、フォロワー6900人ほどの個人アカウントが26日、スペイン語で「崩壊の瞬間を共有」と書いて動画を投稿しており、24万超のいいねが付いている。
トレーラータンクの圧力実験の映像
動画を検証しよう。
前半部分に写っているのはスマホや一般的なカメラだ。
潜水艇が一瞬で押しつぶされるような高い水圧に耐え、内部の記録映像を確認できるほどの防水耐圧能力がある可能性は考えにくい。
また、乗客が持ちこんだカメラやタイタンに備え付けられた撮影機材が発見されたという報道もない。
一方で、タイタンの潜航ツアーはこれが初めてではなく、乗員乗客が撮影した動画は、すでにSNSなどに上がっており、ほぼ同じ内容だ。
よって、動画の前半部分は、以前の潜航で撮影されたものであり、今回のものではないと考えられる。
さらに、動画の後半部分にある、外殻が一瞬で内側に潰れる様子を内部から映している映像は、米トレーラー製造会社「ワバシュ・ナショナル」が2014年に公開したYouTube動画の一場面と酷似している。
これはトレーラータンクの圧力実験を行った動画で、タンクの内部にカメラを設置していた。タンクが潰れる映像は、今回拡散している動画の後半部分と同じものとみられる。
つまり、これは別々の時期や場所に撮影された動画を、第三者が意図的に編集してつなぎあわせた虚偽の動画と考えるのが、もっとも自然だ。
不用意な拡散には、注意が必要だ。
■ファクトチェックのレーティングについて
BuzzFeed Japanは、2019年7月からNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。
ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。なお、今回の対象言説は、FIJの共有システム「Claim Monitor」で覚知しました。
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- 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
- ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
- ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
- 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
- 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
- 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
- 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
- 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
- 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。