「お母さん 私は後3時間で祖国のために散っていきます」
このような書き出しで始まる「18歳の回天特攻隊員の遺書」というツイートが広く拡散している。
しかし、この遺書とされる文書は第三者の創作である可能性が高いため、ツイートは「誤り」だ。
ハフポスト日本版はファクトチェックした。
経緯を振り返る
フォロワー3.7万人のアカウントは6月27日、「18歳の回天特攻隊員の遺書」として次のようにツイートした。
「お母さん 私は後3時間で祖国のために散っていきます 胸は日本晴れ 本当ですよお母さん。少しも怖くない。 しかしね 時間があったので考えてみましたら 少し寂しくなってきました それは 今日私が戦死した通知が届く お父さんは 男だからわかっていただけると思います…」
ツイートは30日午後4時現在、554万インプレッション、1.5万リツイート、5.7万いいねと大きく拡散している。
リプライ欄も「子どもがいるから重ねて読んでしまう」や「胸が苦しく痛くなりました」、「目がうるみました」といった声が集まっていた。
回天とは何か
まず、「回天」とは何か。
「回天記念館」がある山口県周南市のウェブサイトによると、太平洋戦争末期に開発された人間魚雷のことを指す。
太平洋戦争の戦況が厳しくなる中、大量の爆薬を積んだ魚雷を人間が操作してそのまま敵艦船に体当たりする特攻兵器として開発された。
周南市の離島・大津島に訓練基地が開設され、厳しい訓練が繰り返された後、1944年に初めて出撃が行われた。
回天には「天を回らし、戦局を逆転させる」という意味があり、のべ153人が出撃し、80人が回天と共に戦死した。
第三者が創作?基地があった市に取材
このツイートは、18歳の隊員が回天という残酷な兵器に乗る前に書き残した遺書という体裁だった。
「18歳の回天特攻隊員の遺書」はこのツイートだけでなく、ネット上で広く確認することができる。いずれも同じような内容だ。
しかし、この遺書とされるものについて、ハフポストが周南市に取材したところ、「『18歳の回天特攻隊員の遺書』は創作されたものと思われる」と回答があった。
特攻隊員の遺書の収集に携わっていた元海軍士官の男性(故人)が、複数の遺書をもとに創作した可能性が高い、という。
つまり、この遺書は、18歳の特攻隊員が書いたものではなく、第三者が戦後に創作したものとみられるということだ。
一連の経緯に関しては、産経新聞が2020年8月11日、「〈独自〉『回天特攻隊員の遺書』作者存在せず 元海軍士官が創作疑い」というタイトルで詳しく報じている。
記事によると、特攻隊員の遺書の収集に携わっていた元海軍士官の男性(故人)が、複数の遺書をもとに創作した可能性が高いという。
男性が遺書の作者として名前を出した人物は搭乗員として実在するが、戦死の状況が異なり、遺書に書かれている家族構成も実際と違っていたほか、そもそも別の遺書を残していた、としている。
周南市の回天記念館の研究員も、産経新聞の取材に「さまざまな状況を考えると、創作を断定せざるを得ない。この遺書を信じて来館する人もおり、正確な情報を伝えたい」と話している。
回天を巡る事実を学べる場所がある
なお、「18歳の回天特攻隊員の遺書」のツイートには、隊員とみられる6人が笑顔で映る写真も添付されているが、この写真は「回天の出撃隊である『轟隊』とみられる」と、周南市から回答があった。
山口県周南市の回天記念館では、回天に関わる遺品・資料の展示にあわせて、歴史や時代背景、当時の生活なども紹介している。
収蔵品は遺書、手紙、軍服、遺影、遺品など約1300点あるといい、回天を通じて平和について学習できる施設となっている。
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- ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
- ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
- 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
- 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
- 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
- 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
- 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
- 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。