Facebookによるビデオコンテンツ事業はフードビデオプロバイダーに大きな恩恵をもたらし、ニュースフィードにはレシピ動画があふれるようになった。だが、Facebookのフードビデオはその人気に陰りが見えはじめており、広告主の期待の高まりもあって、ブランデッドフードビデオの価格は著しく低下している。
ソーシャルメディア分析企業クラウドタングル(CrowdTangl)によると、フードコンテンツを主に扱う複数のパブリッシャーのFacebook月間動画再生回数は、この1年間横ばい、もしくは減少傾向にあるという。
とはいえ、Facebookのアルゴリズムは依然として再生回数を重視している。
チューブラーラボ(Tubular Labs) によれば、2017年1~8月の期間に10万回以上の再生回数を達成したFacebookフードビデオは、前年同期比で43%を上回ったという。ただ、レシピ動画は高いインプレッションを維持しているものの、ブランデッドコンテンツの制作を提案できるパブリッシャーが少ないことから、広告価格の低下が起きているようだ。
フードパブリッシャー大手5社のFacebook月間動画再生回数(出典:クラウドタングル)
下落が起きた理由
フードビデオ・クリエイターにとっての最大の課題のひとつは、どの動画も似たような見た目になってしまう、という点だ。フィードで表示した場合には、特にその傾向が顕著になる。実際、手順に沿ってスピーディに料理を作っていく様子を俯瞰撮影するレシピ動画のフォーマットは、簡単にマネできる。レシピ動画人気の波に乗り、Facebookではジャングル・クリエーションズ(Jungle Creations)やソー・ヤミー(So Yummy)、レンダーメディア(Render Media)といった新興メディア企業が、億単位の月間再生回数を叩き出してきた。ハースト(Hearst)やタイム社(Time Inc.)といった歴史あるメディアも彼らに追随している。
「A社と組んでも、B社と組んでも大きな差はない。だから、こちらの交渉力が高まる」。こう指摘するのは、マインドシェア・ノースアメリカ(Mindshare North America)でデジタルパートナーを務めるホイットニー・スミス氏だ。
その結果として、価格の引き下げが生じている。別のメディアエージェンシーによると、競争の激化を背景にパブリッシャーが1再生当たりコスト、およびCPMベースで、ブランデッドレシピビデオの価格の引き下げを行っているという。とはいえ、このエージェンシーの話では、俯瞰撮影の動画はそもそも制作費が高いため、叩き売りは起きていない。
例外はテイスティ
例外は大規模なディストリビューションを武器とする、BuzzFeedのテイスティ(Tasty)だ。チューブラーラボによるフードパブリッシャー・トップ25にも、テイスティのバーティカルが7つもランクインしている。広告主によれば、テイスティの広告はプレミアムレートを維持しているという。さらに別のメディアエージェンシーも次のように語っている。「依然として価格が一番高いのはテイスティだ。だが、それに見合った効果が得られる」。
このエージェンシーによると、テイスティでは動画4本で、競合のテイスティングテーブル(Tasting Table)のプログラム(動画3本、スポンサー記事3本、サポーティングメディアでの展開)の2倍の30万ドル(約3400万円)のコストがかかる。
さらにこのエージェンシーの話では、テイスティの「おこぼれ」に預かろうと、ほかのパブリッシャーは必死だそうだ。フードビデオが乱立するなか、パブリッシャーは新たな収益源を求めてビジネスの多角化に忙しい。
たとえばクッキングパンダ(Cooking Panda)を所有するレンダーメディアは、ブランド商品の販売や、商品をフィーチャーした番組配信に進出。年末にはサブスクリプション動画サービスをローンチする計画もある。テイストメイド(Tastemade)はフードだけではなく「トラベル」および「ホーム」分野にも拡大し、ライブイベント事業への進出も果たした。
なくなることはない
フードパブリッシャーの主力コンテンツとして、レシピ動画がなくなることはなさそうだ。「レシピ動画は今後も、我が社のビジネスの大部分を占めることになる。オーディエンスは、難しいスキルを持った人が難しいことをする動画を好むからだ」と、タイム社のデジタルコンテンツディレクターを務めるステイシー・リベラ氏は語っている。
MAX WILLENS (原文 / 訳:SI Japan)
(2017年11月13日「DIGIDAY日本版」より転載)