「フェイスブックはメンタルヘルスに悪影響も。でも使い方次第」とフェイスブック

フェイスブック自身が公式ブログで明らかにした。

フェイスブックを、流し読みなど受け身の姿勢で利用していくと、メンタルヘルスに悪影響を与えることも――そんな傾向があることをフェイスブック自身がその公式ブログで明らかにした

フェイスブックなどのソーシャルメディアの利用が、特に若者に与える影響については、これまでのいくつかの研究結果が公開されている。

またフェイスブックを巡っては、「ロシア疑惑」などフェイクニュースの広がりに対して、その拡散の舞台となった責任の追及も続く。

さらには、フェイスブックの元CEOらが、そのサービスが社会に与えた影響について、ネガティブな見解を表明していたことも、相次いで明らかになった。

そんな注目を集める中での公式ブログの表明だ。フェイスブックは、「積極的に利用すれば、逆に心の状態を良好(ウェルビーイング)にできる」との結果も合わせて示し、こう述べている。「使い方次第」

ただ、この表明を受けて、サービスそのものをどう改善していくのかについては、特に新機軸が打ち出されているわけではない。

●「メンタルヘルスに悪影響」

筆者は今春までインテルの戦略担当副社長だったフェイスブックのリサーチディレクター、デイビッド・ギンズバーグ氏と、リサーチサイエンティストのモイラ・バーク氏。社内チームと、カーネギーメロン大学、カリフォルニア大学リバーサイド校、カリフォルニア大学バークレー校などの専門家の協力も得て実施した研究結果をまとめたものだ。

ギンズバーグ氏らが指摘するのは、利用者による、フェイスブックの使い方による、メンタルヘルスへの影響だ。

2015年に発表されたミシガン大学のチームによる調査では、フェイスブックの投稿を10分間、ただ受動的に読むことだけを指示された学生で、投稿やコメントのやりとりなどの積極的な行動を取ることを指示された学生を比較。

受動的に投稿を読むだけだった学生には、「良好な心状態(ウェルビーイング)を損なう」結果が確認された、という。

また、今年2月に発表されたカリフォルニア大学サンディエゴ校とイェール大学の調査では、投稿のリンクのクリックを平均の4倍、または「いいね」を平均の2倍行った人々は、「メンタルヘルスの悪化」を訴えた、という。

メンタルヘルスに悪影響が出る理由について、マーストリヒト大学、ルーヴァン・カトリック大学、ミシガン大学などのチームが今年1月に発表した研究では、ソーシャルメディアにおける「盛る」傾向が影響している、と見る。

ソーシャルメディア上では、現実よりも充実し、幸せそうに演出された写真や書き込みがあふれるため、それらを黙って受動的に見続けていると、自身と比較してうらやましさがわき、気分の落ち込みにつながる、との指摘だ。

●「もっと積極的に使えば」

ギンズバーグ氏らはあわせて、フェイスブック利用のポジティブな面についても指摘している。

受動的にフェイスブックの投稿を見るだけではなく、親戚や同僚、同級生らの友人と積極的に双方向のやりとりを交わすことで、心の状態を良好(ウェルビーイング)にすることができる、と。

公式ブログのもう一人の筆者であるモイラ・バーク氏と、出身校のカーネギーメロン大学教授のロバート・クラウト氏が昨年7月に発表した研究によると、フェイスブック上で双方向のメッセージやコメントのやりとりをした人々は、抑鬱や孤独感の改善が見られ、とくに相手が親しい友達の場合、その傾向が強かった、という。

つまり、親しい友人たちとのやりとりが、心の状態を良好に保つ、ということだ。

そして、ギンズバーグ氏らの結論は、プラスもマイナスも「利用者の使い方次第」となる。

●若者への影響の指摘

フェイスブックを含む、ソーシャルメディアによる精神状態への影響は、これ以外にも、様々に指摘されてきた。

英国のシェフィールド大学のチームは昨年12月に発表した研究で、10歳から15歳までの子どもたち4000人に対する調査で、フェイスブックなどのソーシャルメディアの利用時間が長いほど、幸福感が低下する、とのデータを明らかにしている(※フェイスブックのアカウント登録は13歳以上)。

それによると、若者のインスタグラム、スナップチャット、フェイスブック、ツイッター、ユーチューブなどのソーシャルメディアの利用が9割にのぼり、不安、抑鬱、孤独感など、メンタルヘルスへの悪影響を与えている、と指摘。ソーシャルメディアの使いすぎを警告するポップアップの表示などの対策を提言した。

●元CEOらが語る

今回のフェイスブックによる公式ブログは、まさにこのサービスの社会的影響に関心が集まっているタイミングで掲載された。

きっかけとなったのは、今月11日にネットメディア「ヴァージ」が動画とともに報じた、元フェイスブックの利用者拡大担当の副社長、チャマス・パリアピティア氏が、スタンフォード大学ビジネススクールで行った発言だ。

パリアピティア氏は「私たちは社会が機能するためのソーシャルなつながりを引き裂くツールを作り出してしまったと思う」と述べ、さらにこう続けている。

私たちは、ドーパミンが駆り立てる刹那的なフィードバックループを作りだし、それが社会の機能を破壊している。市民の対話も、協力もない。虚偽情報と虚偽の真実。これは米国だけの問題ではないし、ロシアによる(フェイスブックなどへのフェイク)広告の問題に限らない。これは世界的な問題なのだ。

これに先立ち、フェイスブックの初代CEOを務めたショーン・パーカー氏もまた、そのあけすけな発言で注目を集めていた

パーカー氏は11月初め、ネットメディア「アクシオス」のイベントに登壇した際、フェイスブックについて、こう述べたのだ。

我々は、利用者に時折、ちょとしたドーパミンを提供する必要があった。だから、写真や投稿などに「いいね」とかコメントをできるようにした。それによって、利用者はより多くのコンテンツを投稿し、さらにそれは、より多くの「いいね」やコメントにつながる。

これは、ソーシャルに裏書きしてもらうフィードバックループだ。まさに、私のようなハッカーが思いつきそうなことだ。つまり、人間の心理の脆弱性を突いたやり口なのだから。

相次ぐ"身内"からのネガティブで批判的な見解。特に切っ先の鋭いパリアピティア氏の発言に対しては、フェイスブックも「ヴァージ」の記事が掲載された翌日の12月12日、公式声明を出している

チャマス(パリアピティア氏)がフェイスブックを離れてから、何年もたつ(※2011年に退社)。チャマスがフェイスブックに在職した当時、我々は新たなソーシャルメディア体験の構築と、世界中にフェイスブックを成長させることに注力していた。フェイスブックは当時とは大きく変わり、成長を遂げ、その責任も拡大したことは認識している。我々は担うべき役割を真剣に受け止め、改善に全力を挙げている。我々のサービスが人々の良好な心の状態(ウェルビーイング)にどんな影響を与えるか理解するため、外部の専門家や研究者とともに数々の調査や研究をおこなってきた。人材、技術、業務に多額の投資を行っており、マーク・ザッカーバーグが決算発表で述べたように、正しい投資を行うことで利益が損なわれても、我々はそれを甘んじて受ける。

たしかに、ザッカーバーグ氏は、11月の決算報告で、フェイクニュース対策に絡んで、こう述べていた

我々は、このプラットフォームの悪用防止に真剣に取り組んでいる。我々は安全対策に多額の投資をしており、収益に影響を及ぼすことになるだろう。

パリアピティア氏発言に対するフェイスブックの声明が言う「調査や研究」こそが、12月15日付けのギンズバーグ氏らの公式ブログのことのようだ。

パリアピティア氏も、言い過ぎたと思ったのか、やはり15日付で、「強い表現を使ってしまった」とフェイスブックへの投稿で釈明している。

●改善の中身は?

では、フェイスブックの影響に対する、改善の中身はどうだろうか。

公式ブログでは、クリックベイト(釣り)見出しやフェイクニュースの排除や友人からの投稿の優先表示といった「ニュースフィードのクオリティ」、30日の期間限定でフォローを外せる新機能「スヌーズ」、夫婦、恋人など別かれた相手のフィードをコントロールできる「テイク・ア・ブレイク」、そして「自殺防止ツールの提供」の4項目を挙げている。

ただ、新たな機能は、この日からスタートするという「スヌーズ」ぐらいで、ほかは以前から知られている取り組みだ。

「正しい投資を行うことで利益が損なわれても、我々はそれを甘んじて受ける」との宣言と、あまりうまくかみ合っていないように思えるが。

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■新刊『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』(朝日新書)6月13日発売。

(2017年12月16日「新聞紙学的」より転載)

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