国連総会の緊急特別会合で3月2日、ロシア軍がウクライナから完全撤退することなどを要求する決議案が141カ国の賛成多数で採択された。
反対したのは5カ国。当事者のロシアのほかベラルーシ、シリア、北朝鮮、エリトリアだった。
この5カ国のうちエリトリアは日本では知名度が低いこともあり、SNS上では「エリトリア?なんで反対したのだろう」と不思議がる声が上がった。一体どんな国なのか調べてみた。
■「紅海」を意味するラテン語から命名。独立から一度も憲法が施行されず
エリトリアは「アフリカの角」と言われるアフリカ大陸の北東部にある国だ。1993年に隣国のエチオピアから分離独立した。日本大百科全書によると、イタリアの植民地だった時代に、ラテン語で「紅海」を意味する「マーレ・エリトリウム」にちなんでつけられたといわれる。
外務省公式サイトのデータによると、面積は11.76万平方キロで、北海道と九州とを併せた広さとほぼ同じだ。2017年現在の人口は550万人。駐日エリトリア大使館によると、国民の宗教比率はキリスト教とイスラム教がほぼ半々だという。
紀元前後にはアクスム王国が成立するなど古い歴史を持つ地域だが、オスマン帝国やエジプトの支配を経て、1890年にイタリアの植民地になった。第二次世界大戦中にイギリス軍が占領して保護領になった後に、1962年にエチオピアの1州として併合。それ以来、分離・独立を目ざす解放運動が生まれた。
中国で軍事訓練を受けたイサイアス書記長が率いる「エリトリア人民解放戦線」の武力闘争の結果、1993年に独立を果たし、国連にも加盟した。
独立以来、イサイアス大統領の「民主正義人民戦線」による一党独裁体制が続いている。1992年に基本的人権や複数政党制を定めた民主的憲法を制定されたが、未だに施行されていない。
その強権的な政治体制からエリトリアは「アフリカの北朝鮮」と呼ばれることもある。ニューズウィーク日本版2018年7月31日号では以下のように書かれている。
<イサイアスの強権支配下で恣意的な逮捕や拷問がまかり通り、国民は奴隷状態に置かれていると、人権擁護団体は訴えている。言論と報道の自由はないに等しく、国境なき記者団による「報道の自由度ランキング」では毎回、北朝鮮と最下位の座を争うレベルだ>
■エチオピア内戦がロシア擁護の背景か
エリトリアが今回、なぜロシアへの非難決議に反対したのか詳しい理由は分かっていない。
朝日新聞の藤原学思記者のTwitterによると、国連総会でエリトリア代表は「一方的な制裁は、国際関係をさらに分極化させ、市民に多大な影響を与えるほどに状況を緊張させる」と反対理由を述べたという。
ただし、エリトリアはロシアと同様に隣国に軍事介入したことで、国際的な非難を浴びている。2021年11月にはアメリカのバイデン政権から経済制裁を受けており、こうしたことが同じ状況下にあるロシアの擁護に繋がった可能性もある。
ロイター通信によると、エチオピア北部のティグレ州では2020年11月以降、政府軍と当時のティグレ州政府を率いていたティグレ人民解放戦線(TPLF)との間で内戦が勃発した。エリトリア軍もエチオピア政府を支援して戦闘に参加した。
ナショナル・ジオグラフィックによると全住民の3分の1に当たる約200万人が家を追われた。数百万人が緊急の食料援助を必要としていて、死者も数千人にのぼるという。
この内戦は国際社会から強い非難を浴びた。2021年4月には日本を含むG7各国が外相声明を出し、エリトリア軍のティグレ州からの撤退を呼びかけた。
内戦勃発から1年後の2021年11月、アメリカ政府はエチオピア内戦の「人道危機への対抗措置」として、エリトリア軍への経済制裁を発表した。
時事ドットコムによると、アメリカ財務省はエリトリア軍がエチオピア北部での略奪や市民殺害、人道物資搬入の阻止などに関わっていると証言する多数の報告があると指摘。「エリトリア軍の駐留は、戦闘終結と人道支援にとって障害だ」と訴えたという。