【特別寄稿】国連特別報告者 ブキッキオさんの件について
~マンガ・ゲームを規制する国連勧告を出させないようにするために~
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国連報告者のブキッキオ氏のやりとりについては、「日本の女子中高生の13%が援助交際をしている」という発言で脚光を浴びましたが、それ以外にも様々な問題を抱えています。特に、来年、2016年3月に最終報告書が国連人権理事会に提出される見込みですが、その中でマンガやゲームを販売禁止にするような勧告がでないようにするために、あらゆる努力が必要だと思っています。
援交率30%!衝撃の記者会見
ブキッキオ氏と面会をした数日後、2015年10月26日にブキッキオ氏が日本記者クラブで記者会見を行いました。日本の女子中高生の援助交際率の問題もそうですが、非常に事実誤認の多い、問題のある会見であったと思っています。外務省には引き続き事実に基づいた報告書をまとめるよう特別報告者に対して働きかけて行くべきであると考えています。
特に女子中高生の援交率が30%(後に13%との訂正あり)については、具体的な数字でしたから、翌日、外務省の課長に対して、早急に数字の根拠となる情報を国連に提示を求め、無理であれば撤回・謝罪するよう働きかけを依頼しました。その際は、30%という数字でしたが、外務省としては、積極的に関わるスタンスでなく、私が文科・厚労・警察・内閣の各省庁に確認をし、根拠となる数字がないことを伝えてから動いたのが実態ではないでしょうか。
その後、30%が13%に変更されるなどの紆余曲折があり(30-thirtyと13-thirteenの違いについてですが、その場での通訳の訳もそうでしたが、私はアクセントが前にあり誤訳ではなく30-thirtyと発言したのではと思っていますが)、最終的には、発言は事実上撤回されました。結果的に行政側の対応は一定程度評価出来ると思います。
この議論の過程で、誰が13%という数字をブキッキオ氏に吹き込んだんだという議論がなされました。しかし、私は犯人捜しはするべきでないと思います。それぞれの立場の人が、それぞれの意見を特別報告者に伝えることはある意味当然だと思っています。問題は、公的な立場にある人が、後に不適切と撤回する根拠の薄い数字を裏も取らずに記者会見の場で発表したことにあると思っています。
国際圧力に弱い日本
今まで、ストックホルム会議、横浜会議、ブラジル会議と国際的な会議で、事実とは異なり、日本は児童ポルノ製造大国であると糾弾されてきました。そして、こういった会議の事前の調整で、日本は有効な反論が出来ずにいたのが実態なのです。表現を制限しようとする人たちの中には国連という外圧を使って、日本政府に働きかけていこうと考えている人もいると聞きます。ですから、今回は事前に有効な反論をすることが絶対に必要だと考えていました。
もし仮に、これらの数字を日本政府が否定せず、一人歩きをしてしまえば、海外から見たときに日本は「エンコー大国」ということになってしまいます。児童の保護を目的に来日したはずが、逆に日本に行けば、児童と援交が出来てしまう、捕まったとしても罰金刑のみという誤った印象を与えてしまいます。これでは児童を守るどころか逆に危険にさらしかねません。
しかし、今回の援交率の問題でも問題は残されています。私が確認した限りでは、中国、韓国、アメリカの各国のサイトで、日本の女子中高生の援助交際率が13%(または30%)という記載がなされていました。これらは、書簡を受け取った外務省による発信では消えることはないでしょう。私も英語でこの件をTweet(https://twitter.com/yamadataro43/status/665050445996535808)しましたが数十RTと反応は十分ではなく、イメージを払拭するのは難しいことです。
マンガ・アニメ・ゲームはどうなるのか
実は、女子中高生の援交率にのみ大きな焦点が当てられていますが、他にも問題が残されています。一番大きな問題がマンガ・アニメ・ゲーム規制に関する問題です。実は6年前の2009年8月に女子差別撤廃委員会より2つの要請・勧告を受けています。
- 委員会は,これらのテレビゲームや漫画が「児童買春・児童ポルノ禁止法」の児童ポルノの法的定義に該当しないことに懸念をもって留意する
- 女性に対する強姦や性暴力を内容とするテレビゲームや漫画の販売を禁止することを締約国に強く要請する
今回のブキッキオ氏の記者会見で配布された紙にも「ban manga of extreme child pornographic content.(極端な児童ポルノの漫画を禁止するべき。)」と記載されています。この紙をベースに国連人権理事会に提出される報告書は作成されますから、状況として、日本のマンガ・アニメ・ゲームは非常に厳しいと言わざるを得ません。
もちろん、記者会見ではマンガやアニメについて、公の場で(こういった物が児童の性的搾取に関係するかを)議論するべきと発言しており、記者会見で配られたペーパーから比べるとトーンは落ちています。記者会見でのペーパーはおそらく日本に来る前にたたき台が作られていたことを考えると、私の面会でも強く主張したこの点について、ブキッキオ氏側の一定の配慮があったのではないかと思われます。
他にも問題の多い記者会見
実は、他にも多く問題が記者会見ではありました。例えば、10代での妊娠があたかも悪いかのように発言されています。日本では女性は16歳での結婚が認められており、決して10代での妊娠が悪いことではありません。
また、婚姻年齢についても、彼女の主張である男女を同じに18歳にすべきであるという点について反対はしません。しかし、考えなければならないのは、16~17歳で子どもを産んだ女性がいた場合、その母子の権利がきちんと守られるのかということなのです。その点までもセットで考えなければ、逆に母子の権利を奪いかねません。単にジェンダー論だけの議論に留まるべきではないのです。
また、沖縄の問題にしても、沖縄に対する政府の援助が少ないので、沖縄は貧困であり、貧困であるから、親がドラッグやお酒の中毒になり、故に子どもが売春産業に走るんだという非常に短絡的な発想では無いかと思っています。むしろ、沖縄はどう経済や生活を自立していくべきなのかという問題の方が大きいと思いますし、男女不平等で貧困が児童の性的搾取の全ての根源というのは思い込みが強すぎるのでは無いかと思います。
他にも、成人のポルノは表現の自由で全て許されるなど、日本人が一般に考えるわいせつの概念とは少し違った発言もされています。予めご本人が持っていた仮説をなぞるために日本に来たような気がします。仮説をもたれることはいいことだと思いますが、事実が違った場合、その仮説は修正するべきです。
もちろん、ブキッキオ氏の発言で日本が謙虚に反省すべき点もあります。そして、その他、今後の対策などを後編で
【後編に続く】
*本コラムはC89で発売のAFEEマガジンに掲載されています。