米国トランプ政権の「エネルギー・環境」政策について⑵

アメリカのトランプ政権は、2018年度予算案の骨子"America First"をようやく発表した。

先の記事の続きであるが、米国トランプ政権は、2018年度(2017年10月~2018年9月)予算案の骨子"America First"をようやく発表した。これを基に、米国のエネルギー政策の行方はどうなるか、考えてみたい。

トランプ政権はまだ始まったばかりの政権であり、予算案も骨子の段階であるため、いずれの政策についても細かいことまではまだまだ明確にはなっていない。

国務長官には、世界最大手石油会社であるエクソンモービルのティラーソン前CEO。DOE長官には、エネルギー省廃止論者で化石燃料利用拡大を主張するペリー前テキサス州知事。EPA長官には、CPPに対する行政訴訟を行ったプルイット前オクラホマ州司法長官。EPA予算3割減という提案もある。これらを総合的に考えると、連邦政府によるエネルギー政策面では、化石燃料利用に係る規制の内容が現行以上に強化されることはなく、逆に緩和されることになるのはまず間違いない。

そうなると、CO2排出量抑制など環境規制面において、各々の州政府ごとの差異が大きくなっていくはずだ。米国におけるエネルギー関連制度は、連邦政府によるものよりも、各々の州政府によるものの方が、圧倒的に影響力が大きい。米国のエネルギー政策は、「共和党か、民主党か」ではなく、「どの州か」で決まる場合が殆どであり、連邦政府や連邦議会の実質的な権限は非常に限定的だと見ておくべきだ。

殆ど米国民の関心はテロ対策やオバマケアの行方であって、エネルギー政策ではないだろう。米国は、日本のような資源の乏しい国とは違い、自国内に豊富な資源を有している。東日本大震災による福島第一原子力発電所事故の経験もあって、日本国民はエネルギー政策に大きな関心を寄せているのかもしれないが、米国民はエネルギー問題を今抱えていないので、エネルギー政策が話題に上ることはまずない。

米国自身が当分の間は化石燃料を豊富かつ安価に産出・調達し続けると見通されている中では、米国のエネルギー需給動向は、エネルギー安全保障や温室効果ガス排出抑制といった観点よりも、目先のエネルギーコスト面での利害で大きく左右される志向が続くだろう。

米国エネルギー情報局(Energy Information Agency(EIA))では、今後の天然ガス価格は微増傾向になると予測しているが、それでも需要面では石炭から天然ガスへの移行は続くであろう。

EIAによると、ここ10年の米国のエネルギー消費構造の推移は、下の二つの図の通り。

米国では、化石燃料の消費構造面での低炭素化に加えて、原子力と再生可能エネルギーの需要増により、2005〜15年でCO2排出原単位は10%も低下。米国のエネルギー関連CO2排出量は、「石炭の消費減」と「天然ガス・原子力・再エネの消費増」により、ここ最近は年々抑制されつつある。

EIAの予測では、CPPの存廃は各電源の将来見通しに多少の変化を生じさせる。CPPとは、端的には"脱石炭"のための政策であるので、その存廃は石炭火力発電の将来像に最も影響を及ぼす。原子力発電の将来には殆ど影響を与えない。

下のグラフの通り、CPP廃止による電源構成は、CPP存続の場合と比べて、石炭以外の電源の伸びを抑える方向に働くと見込まれている。ただそれでも、石炭火力発電所の新設があるとは考えられていない。

米国のCPP廃止など環境政策の変化は、米国における化石燃料使用の動向に殆ど影響をもたらさない見通しなのだから、ましてそれが日本における化石燃料使用の動向に影響をもたらすような"エネルギー・環境世論"を作ってはならない。

米国では、原子力も再エネも、低炭素電源としての評価は顕著ではない。だからと言って、日本では従来通り、原子力と再エネを低炭素エネルギーとしての観点からも積極的に評価していくことを怠ってはならない。

日本は今後とも、これまでの国際協調の下での『エネルギー・環境政策』を進めていくべきだ。「パリ協定」の路線を踏襲していくのは当然のことである。

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