米発の非営利VC「エンデバー」日本上陸 起業のエコシステム支援へ 松本大、孫泰蔵氏らが参画

ボードメンバーの孫泰蔵氏はエンデバーについて「日本のスタートアップの世界進出応援団」だと説明する。

エンデバーのプレジデント、フェルナンド・ファブル氏、2016年11月東京・六本木ヒルズで=井上映す

世界最大規模で起業家支援する非営利のベンチャーキャピタル(VC)のエンデバー(本部ニューヨーク)が日本に上陸し、3月、財団法人「エンデバー・ジャパン」として本格的に活動を始めた。日本を含む世界27カ国に展開し、世界ネットワークを駆使して起業家支援をする。

毎年、エンデバーが選考したスタートアップは、世界中の著名な起業家からのアドバイスや資金提供を受けることができる。今年、日本からは、電動車いすのWHILLとネット印刷のラクスルと経済情報やニュース提供のUZABASEの計3社が選ばれた。

支援を受けたスタートアップは、エンデバーに対するリターンは求められず、「エンデバーコミュニティの中で起業家を育てていくことに貢献し、世界経済を牽引することが期待されている」(エンデバーのプレジデント、フェルナンド・ファブル氏)という。

日本のボードメンバーは、松本大氏(マネックスグループCEO)、孫泰蔵氏(Mistletoe社長兼CEO)、高野真氏(フォーブスジャパンCEO兼編集長)、森川亮氏(C Channel社長)ら14人で構成される。個人が一定の額を拠出し、それを財源に運営する。メンバーの活動はボランティアだという。

一方で、「エンデバー・カタリスト」というファンド(1号ファンド3500万ドル、2号ファンド1億ドル)を設け、支援先スタートアップが500万ドル以上を集めるラウンドに10%を自動投資する仕組みだ。ボードメンバーは自由意志で投資に加わることができる。

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ボードメンバーの孫泰蔵氏はエンデバーについて「日本のスタートアップの世界進出応援団」だと説明する。

世界のボードメンバー約500人の中には、LinkedIn創業者のリード・ホフマン氏らがいる。世界各国のスタートアップ創業者ら約3000人のメンターがおり、コンサルティング会社Bain & Companyや、ハーバード大、スタンフォード大のビジネススクールなどがパートナーとなっている。こうした関係者にアクセスできるメンターネットワークの仕組みも整えられた。

2016年11月に東京を訪れたエンデバーのプレジデント、フェルナンド・ファブル(Fernando Fabre)氏(43)は「エジプト、イタリア、ブラジルなど各国で展開してきたが、新しいことをやってみようという人は世界中どこでもマインドセットが似ている。中産階級で、大学レベルの教育を受け、リベラルで、英語を話し、そして何よりも、世界を変えたいという思いと強い意思がある」と話す。

各国の起業家の活躍は、それぞれの国の成長にもつながる。そのため各国政府もスタートアップ支援に積極的だが、ファブル氏は国際的ネットワークを持つエンデバーが行う意義について、「地域には地域の課題がある。近隣の人の課題解決を助けるのがスタートアップのミッションだ。

国のレベルではなくむしろ、ローカルのレベルで考えている。ミクロのレベルで世の中をよくすることを一気にすすめるのを手伝うのが我々のミッションだ」と語る。日本には、健全な起業家がたくさんおり、それを支えるエコシステムを資金面とネットワーク面で支援したいという。

ニューヨークのエンデバー本部=井上映す

ニューヨークの本部オフィスを訪れると、ブロードウェイ沿いの建物の華美すぎないワンフロアで、世界中の起業家の情報が詰まったデーターベースを前に、十数人がパソコンに向かっていた。

オフィスに入ると、1403と書かれたボードがあった。1997年の設立以来、支援してきた起業家の数だ。4万以上のスタートアップの中から、成長が見込まれるとして支援先に選ばれた。

4~6人で構成するローカルパネルが選考した後、6人の国際パネルで選考が進み、最終的に絞られる。先月開かれたクアラルンプールでの選考に参加した孫氏は選考過程で多くのスタートアップに会うため、自分自身の刺激にもなっているといい、「楽しいプロボノ活動です」と話す。

「日本のスタートアップは爆発寸前まできています。これまではソフトウェアのスタートアップはGoogleやアップルなど勝者が市場を席巻するWinner takes allで、新興が入り込む余地がありませんでしたが、部品の調達や電子機器の受託生産(EMS)の発展でものづくりをはじめるコストが下がった今、日本のスタートアップにもチャンスが広がっています」と孫氏。

「日本のスタートアップを世界に送り出す存在になりたい」と話している。

(朝日新聞・井上未雪)

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