年上部下と年下新人に教える「板挟み世代」の大変さ

30代社員は、いってみれば「人材育成と業務の両立」と「教え方」に苦労しているのです。

■部下・後輩指導における「苦労」

大人相手に教えるって難しいですよね。筆者が関わっている企業研修には、30代社員の参加が多いのですが、彼らは、部下・後輩を指導する際に、次のような苦労をしています。

  • 自分の仕事で手一杯で、後輩の指導育成にまで手がまわらない
  • 新人を手持無沙汰の状態にしてしまう
  • 年上の部下だと、やっぱり気をつかう
  • 一回り以上年齢が離れた新人だと、もう話が合わない
  • 教えた内容がどれだけ相手に伝わったのかわからない

いってみれば「人材育成と業務の両立」と「教え方」に苦労しているのです。これらの苦労を少しでも軽減できたらという想いで、「オトナ相手の教え方」を執筆しました。書籍の中では、「業務との両立」に対する現実的な解決策として「1人で教えず、複数で教える」やり方や、年上部下や新人への「教え方」のコツを紹介しています。

■何故、こんなに苦労するのか?

では、何故、職場で人に教えることが、こんなに大変になってしまったのでしょうか?その理由の一つに、企業の年齢構成があります。中堅社員と呼ばれる30代を中心に見ると、多くの企業の年齢構成は、だいたいこんな形になっています。

上の40代(特に40代半ば以降)が多く、30代が少なく、下の20代が多いという状況です。では、なぜこういう形になっているのでしょうか? それは、新卒採用数の増減による影響です。企業の新卒採用数は、おおよそ、次のように変遷しています。

さきほどの「年齢構成」の図を、横にひっくり返したような線になっていますよね。それぞれの時期に、採用する数が増えたり減ったりしたので、それが今の年齢構成にそのまま反映されているのです。たとえば「職場における中堅層の現状と課題」(2014)という研究を行った立正大学の戎野 淑子教授らは、職場の年齢構成の「ゆがみ」が発生する最大の原因は、新卒採用の抑制、中止であると喝破しています。

大卒の求人倍率(リクルートの「ワークス大卒求人倍率調査(2015)」を参照)に関していえば、バブル景気時の1991年に2.86倍というピークを迎えます。このバブル期に採用された方々が、現在の40代半ば以降にあたります。

バブル崩壊後、約10年間は採用抑制が行われ、2000年に求人倍率は1倍を切る0.99倍にまで落ち込んでいきます。この就職氷河期にぶち当たったのが、現在の30代半ばから40代前半の方々です。

2006年以降、景気の回復に伴い、企業の採用意欲が増し、2009年に求人倍率は2.14まで持ち直します。この採用回復期に入社したのが、現在の20代前半から30代前半の社員です。

30代社員は、数が多い年上の40代と年下の20代に挟まれて、少ない数でがんばっている状況なのです。中堅どころとして、仕事でも頼りにされ、後輩指導も期待されています。人によっては早くからマネジャーとなり、年上の部下をもっている方もいます。プレイヤーとして、自分の業務をこなしながら、部下・後輩の指導もしなければならないので、苦労が尽きないのです。

■教わった経験もない中、人に教えなくてはならない

しかも、30代社員の多くは、先輩社員から教えてもらったという経験を持ちません。仕事は教わるものというより、自ら学ぶもの、盗むものという雰囲気の中で育ってきています。自分が教わっていないのに、他人に教えなければならないので、そもそも、どういう教え方をすればよいのかがわからないのです。

先日出版した『オトナ相手の教え方』では、教わった経験が少ない人でも、教えやすくなるよう、教え方の本質をシンプルに整理して紹介しています。本書を通じて、大人相手に教える方々の苦労が少しでも軽減されたら、筆者としてこの上ない喜びです。

【近著】

オトナ相手の教え方(クロスメディア・パブリッシング刊)

常識のない新人、年上の部下、異性、アルバイト、契約社員など、経験や自分なりの考えをもった大人を相手に、教え方の「素人」が教えるなんて、すぐにできるものではありません。はじめての後輩、部下をもった方やうまく教えられずに困っている方に、誰が相手でも、「これさえ押さえておけば大丈夫」といった教え方の本質を紹介します。

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