「緊急事態条項」の徹底討論 29日に 木村草太氏 VS 礒崎陽輔氏

非常時における政府の権限を定める「緊急事態条項」を憲法に盛り込むべきかどうかが、改憲論議の焦点として浮上している。
2016-02-23-1456217311-2962687-logo.png朝日新聞社の言論サイトである「WEBRONZA」は今を読み解き、明日を考えるための知的材料を提供する「多様な言論の広場(プラットフォーム)」です。「民主主義をつくる」というテーマのもと、デモクラシーをめぐる対談やインタビューなどの様々な原稿とともに、「女性の『自分らしさ』と『生きやすさ』を考える」イベントも展開していきます。

木村草太さん

礒崎陽輔さん

改憲論議の焦点として浮上した「緊急事態条項」

外部からの武力攻撃や内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害などの非常時における政府の権限を定める「緊急事態条項」を憲法に盛り込むべきかどうかが、改憲論議の焦点として浮上している。

「緊急時の国家、国民の役割を憲法にどのように位置づけるかは極めて重く大切な課題だ」。そんな答弁を繰り返す安倍晋三首相は、参院選後の憲法改正による「緊急事態条項」の創設に強い意欲を見せている。

この問題をどう考えるべきか。まずは自民党が公開している「日本国憲法改正草案」の緊急事態条項の規定を見ておこう。

自民党草案には何が書かれているか

日本国憲法改正草案 第九章 緊急事態 (緊急事態の宣言)(一部抜粋)

第98条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、(略)法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。

第99条 3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。

4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、(略)両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。

賛成派と反対派が真っ向から対立

緊急事態条項をめぐっては賛成派と反対派の考えが真っ向から対立している。

賛成派の論理は例えばこうだ。「最高法規である憲法が非常時の危機管理規定を持たないのはおかしい」「緊急時には緊急時にふさわしいルールが必要」「国家的な危機を乗り越えて人権を守るためにも緊急事態条項は不可欠だ」等々。

反対派の論理は例えばこうだ。「三権分立や人権保障が停止される危険な条項で人権制限に歯止めがきかなくなる」「主権者の国民に憲法順守義務が課せられている」「緊急事態への対応に名を借りて『独裁』への道を開くのではないか」等々。

緊急事態条項についての議論で言及されることが多いのが東日本大震災の事例だ。原発事故や大津波など「想定外の未曽有の事態」にうろたえた当時の民主党政権や行政、電力会社などが迅速・的確な対応をとれず、多くの国民が混乱の中に取り残されたからだろう。

とはいえ、だからといってあの時、「国家に様々な権限を集中させていれば困難な事態を乗り越えられ」たかどうかはまた別の議論が必要だ。「国会審議や司法の判断を待っている時間的余裕はない」などといった「緊急事態一般」をめぐる言葉のイメージにあおられることなく、しっかりしたファクトに基づいた議論を組み立てて検討することが賛成派、反対派双方に求められる。もちろんメディアも同様だ。

過去の検証と「想定される未来」の検証

その際、何より重要なのは、過去の失敗の検証だ。

東日本大震災の問題一つとっても、3・11で政府や行政、そしてメディアはなぜ大混乱に陥ったのか、政府や行政、電力会社の対応や仕組みに具体的にどんな欠陥があったのか、法制度的には何が障害となったのか、なぜ「日本の原発では過酷な事故が決して起こらない」という虚構の言説がまかり通ってきたのか等々。「被災者救済」という最優先課題の前に立ちはだかった様々な問題点をまずは洗い出す作業が不可欠だ(5年たった今でもそれは十分とはいえない)。

次に、その「過去に関するリアルな検証データ」を踏まえつつ、将来的に何をどう変えれば「想定外の事態」にも対応が可能になるのか、緊急事態条項を導入すればこれら一連の課題を解決することができるのか、いわば「想定される未来」をファクトに基づいた合理的な推論で「バーチャルに検証する」という二段構えの冷静な姿勢が必要ではないだろうか。

またその際、現行憲法はなぜ緊急事態条項を盛り込まなかったのかについての歴史的な考察も不可欠だろう。この点でも感情論に流されることなく、当時の担当者が何を考え、どう判断したかをめぐる客観的な歴史的事実が国民に周知され、上記の議論の土台になることも大事だと考える。

対談の全文はWEBRONZAで公開

緊急事態条項は、権力者の暴走を防ぐために権力者の手足を縛っている「拘束衣」である憲法秩序(権力分立・人権保障)を、一時的にせよ「緊急事態」という理由で停止する考え方だ。その条項を憲法に盛り込むことは立憲主義の根幹にかかわるがゆえに、慎重な上にも慎重な議論が必要だ。

賛成派、反対派の双方が自分たちのまわりに見えない壁をめぐらせ、その内側から相手を批判・攻撃するーーという地平にとどまることなく、自民党の憲法改正草案作りにかかわってきた当事者と議論し、当事者の論理と思いに耳を傾けることもジャーナリズムにとっては大事な作業だ。

そんな問題意識に立って、憲法改正草案にこの条項を盛り込んでいる自民党の憲法改正推進本部副本部長で参議院議員の礒崎陽輔氏と、憲法学者で首都大学東京教授の木村草太さんに徹底討論していただいた。

対談の内容は、4月29日付の朝日新聞朝刊オピニオン面とハフィントンポスト日本版に掲載するとともに、対談の全文はWEBRONZAで、5月6日までの期間限定で無料公開する。この2種類のテキストを、緊急事態条項を自分のアタマでしっかり考える際に活用していただければと願っている。

(撮影:吉永考宏)

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