世界一の富豪が、青い鳥を手に入れようとする理由は何なのだろう。
テスラ社とスペースX社CEOで、現在フォーブスの世界富豪ランキング1位のイーロン・マスク氏は4月14日、Twitter社に全株式の取得を提案したと発表した。
購入額は1株あたり54.20ドルで、買収総額は約43億ドル(5兆4000億円)にのぼる。
マスク氏のツイート:オファーしました
現在、Twitterの9.2%の株を保持し、同社の筆頭株主であるマスク氏。
14日に証券取引委員会に提出した書類を投稿し、全株式取得のオファーを明かした。
その中で、「私はTwitterには、世界中での言論の自由のプラットフォームになる可能性があると信じて投資した」と述べ、全株式取得の理由について、次のように説明している。
「民主主義が機能する社会において、言論の自由は不可欠なものだと信じています。しかし私は、Twitter社が今のままでは社会に不可欠なものとして繁栄することも、尽くすこともできていないと気付きました。Twitter社は非公開企業にならなければいけない」
さらに、マスク氏は「Twitterには、並はずれた可能性があり、私はそれを解き放つ」とも宣言している。
マスク氏は同日にカナダ・バンクーバー開かれたTEDイベントでも、「Twitterが言論の自由を受け入れる場所になることはとても重要なので、買収を提案した」と主張。
「Twitterは事実上、街の広場になってきた。だからこそ人々が現実を知り、法律の範囲内で自由に話すことはとても重要だ」と述べた。
労働者の声をかき消そうとしてきたことへの懸念
しかし、マスク氏の主張する「言論の自由」に、厳しい目も向けられている。
非営利メディア「モア・パーフェクト・ユニオン」は、マスク氏がテスラ従業員の労働組合加入を妨害してきたことを挙げて「マスク氏は自身の工場の労働者たちを黙らせているが、もしTwitterを所有したら言論の自由の擁護者になるだろう」と皮肉を交えたコメントを投稿した。
モア・パーフェクト・ユニオンのツイート:イーロン・マスクは、組合を支持するテスラ労働者たちを解雇し、NLRB(全国労働関係委員会)に懲戒処分を受けた。彼は自身の工場の労働者たちを黙らせているが、Twitterを所有したらきっと言論の自由の擁護者になるだろう。
マスク氏は長年、テスラ従業員の全米自動車労働組合加入に反対してきた。
テスラ社は2017年には労働組合結成に積極的に関わってきた従業員を解雇。
さらにマスク氏は2018年に、Twitterに「従業員が組合に加入した場合、ストックオプションを失う」とほのめかすコメントを投稿した。
全米労働関係委員会(NLRB)は2021年、解雇は違法であり、従業員を復帰させた上で、失った分の収入を支払うよう命じた。
さらに、「ストックオプションを失う」というマスク氏の2018年の投稿が、従業員に対する違法な脅迫で、結社の自由に反するとして、削除を求めた。
欲しいのは自由?それとも…?
元労働長官でカリフォルニア大学バークレー校教授のロバート・ライシュ氏も労働組合の問題などを取り上げて、マスク氏の矛盾を指摘している。
ロバート・ライシュ氏のツイート:マスク氏は自身を「絶対的な言論の自由主義者」と呼んでいる。彼は、テクノロジー会社が言論の自由を決定すべきではないという理由で、トランプ氏のTwitterからの追放を反対した。しかし彼は、自分を批判する人たちを、Twitterやテスラの職場で黙らせてきた。
ライシュ氏は2年前、従業員の組合加入問題についてテスラ社に批判的なツイートをしたところ、マスク氏にブロックされたという。
「そのため、彼の投稿を見たり批判を投稿したりできなくなりました。言論の自由絶対主義者にしては、納得できない行動だ」とガーディアンの寄稿でつづっている。
他にも、マスク氏が「基本的に、子どもたちは新型コロナウイルスに免疫がある」など誤情報を投稿したことや、自身のプライベートジェット機を追跡するTwitterアカウントを作った学生を買収しようとし、失敗するとアカウントブロックしたことなどを挙げて「マスク氏は言論の自由のためにやろうとしているのではない、権力のためだ」と指摘。
「マスク氏はインターネットを解放したいといっているが、彼が目指すのは、今以上に無責任な世界にすることだ」と批判している。
Twitter社は14日に発表した声明で、マスク氏のオファーについて「取締役会は提案を注意深く検討し、会社とTwitterの株主にとって最善の利益となる行動を決定する」と述べている。