昨今、動物福祉に対する人々の意識が高まっている。
今年6月に動物愛護法が完全施行され、ペットとの共生社会に向けた動きが進展するなか、ペットの犬猫平均寿命は延伸し、過去最高を更新。
大王製紙の調査によると、約9割のペットオーナーが「今よりもペットの気持ちや想いを知りたい」と考える一方、4割以上が「ペットの行動の意味や習性を理解できていると言えない」と答えている。
人とペットのウェルビーイングが求められる今日、ペットオーナーとペットの関係性をどうアップデートしていくべきか? 動物行動学の知見を活かし動物病院やドッグトレーニングスクールで幅広く活動する、獣医師・藤井仁美さんに話を聞いた。
「ペット」と「コンパニオンアニマル」って何が違う? ペットを取り巻く、日本の環境
―藤井先生はイギリスの動物病院でボランティアもされていたそうですが、日本と比較して、人びとの飼育意識に差を感じましたか?
イギリスは「動物愛護先進国」といわれるほど、ペットに対する意識も対応も違っていて。そもそも犬と猫を「ペット」と呼ばず「コンパニオンアニマル(伴侶動物)」と呼びます。動物と人との関係性が日本のイメージとは大きく違うんです。
「対等」というとまた違うんですが――、「犬は犬として、猫は猫としての習性や行動特性を尊重したうえで一緒に暮らそう」という意識が根っこにあるんですね。
もちろん、日本でもペットを家族の一員だと思い、ともに生活していらっしゃる方が多い。しかし、その考え方や捉え方が少し違うと感じています。
―なるほど。ペットをとりまく日本国内の環境は、どのように見ていますか?
私が働いている地域では、「かわいがりつつも、ちゃんとトレーニングする」という方が多いので、そういう意味では、欧米と近い気がします。ただ、全国レベルで見ると、「動物の発するサインをよく観察し、その本当の意味を理解しながら飼育する」という傾聴飼育の考えがまだ浸透していない地域もあるのかな、という印象を受けます。
一方で、ウェルビーイングの観点からいうと、犬や猫も人間と同様に、体だけでなく心も健康な状態で初めて、良好だと認識されるわけです。
WHOによると「健康とは、肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態」と定義されています。この「良好な状態」がウェルビーイングを意味します。我々獣医師も含め、犬や猫の体だけでなく、常日頃から心が満たされ社会的に良好な状態であるかも考慮しなければいけないと思います。
―実際に診療するなかで、どのような悩みを抱える患者さんが多いですか?
私が診療するなかで多いのは「攻撃行動」です。飼い主さんが病院で手当てする必要があるほど、強く噛みつくこともある問題行動なんですが、そうした深刻な悩みと対峙することが多いですね。
先ほど「傾聴飼育」について触れましたが、診療の際もまずは「なぜ噛むのか」という理由を明らかにし、その説明をしたうえで対策を話し合います。
攻撃行動に限らず、ほかの問題行動も同じです。 たとえば「尻尾を追いかけてグルグル回る」「吠え止まない」「トイレじゃないところでおしっこやウンチをする」など、どの行動にも原因があります。
だから、まずはその原因を判定することが最初のカウンセリングの目的になるんです。また問題行動は病気でも起こることがありますので、それもきちんと見極める必要があります。
コミュニケーションが円滑になる「傾聴飼育」とは?
―傾聴飼育をするうえで、大切なポイントは?
傾聴飼育において、犬や猫とのコミュニケーションは重要です。では、どのようにコミュニケーションをとればよいのか? ポイントとしては、まず相手が何を訴えているのかを理解し、適切な対応をする必要があります。
そのためには、動物の行動学に詳しい専門家などの書籍やセミナーを通じて正しい情報を入手することが一番だと思います。犬なら犬、猫なら猫で、それぞれ人間とは異なる習性や行動特性があります。その一つひとつの行動に意味があることを理解する。それが傾聴飼育の第一歩です。
そのうえで、実際に自分の飼っている犬や猫の行動が何を意味するのか読み取る際は、彼ら/彼女らのボディランゲージを観察することが必要なのです。
―ボディランゲージが鍵なんですね。
犬や猫のボディランゲージをよく観察し、何を考えているか理解することにはメリットがたくさんあります。
まず、飼い主側からすると、「この子はこんなときに、こんな考えなんだ」と犬や猫の考え方がどんどん分かっていく。すると、ますますその子をかわいく思えるようになる。「一緒にお付き合いしていて楽しい」「こういう工夫をしてあげよう」と、前向きな姿勢になっていくでしょう。
一方、犬や猫側としても、何らかのストレスを抱えて問題行動を起こしている子が多いわけです。たとえば、嫌なことを無理強いされて「怖い」と思って噛んでいるのであれば、それを止めるだけで、「この人は無理をしてこない」と考えが変わる。
すると、ストレスが減って「一緒に暮らしていると楽しいな、安心できるな」と思えるようになっていく。このように飼い主とペット間のコミュニケーションが円滑になると、双方の理解が深まり、関係が良くなる。まさに傾聴飼育による恩恵だと思います。
「人も犬も猫も、健康であることが一番」ペットオーナーへのアドバイス
―エリエールは、「人への優しさ」だけでなく「犬や猫への優しさ」も考えたペット用品ブランド「エリエールPet キミおもい」をローンチしました。このブランドのコンセプトは、傾聴飼育の考えに重なる部分がありそうです。
たとえば、同ブランドの「のびのび動ける アクティブウェア」は、元気よく走り回る犬でも動きやすいパンツタイプのおむつ。アジャスター機能がついていて、多様な体型にフィットし、ズレにくい構造になっています。こうしたブランドの商品について、どう思いますか?
おむつを付けている犬側としては、「何か付いているな」という感覚は必ずある。ですから、動きやすさはすごく大事。その点も加味して商品を開発しているのは素晴らしい。
また、人間が気持ちよく暮らせて初めて、犬も幸せになれると思います。だから犬目線と同様に、人目線で考えることも大事だと思うんです。
特にこうした犬用おむつは、犬と出かける場所の幅を広げてくれます。人にとっても嬉しいことですし、犬にとっても一緒に連れて行ってもらえる喜びに繋がる。とても良い商品ですね。
―猫用のアイテムでは、おしっこのpH(※)の傾向を猫砂の色で見える化できる「おしっこチェックできる 固まる 紙のネコ砂」もあります。こちらも猫と人、どちらにもベネフィットがありそうです。
※その⽔溶液の酸性・アルカリ性の度合を表す尺度のこと。尿がアルカリ性に傾いた状態だと、尿路結⽯症のリスクが⾼まるとされています
我々獣医師にとっても、こうした商品はすごくありがたい。猫の尿路結石の場合、おしっこが出なくなってから連れてこられる方が多い。そうすると、麻酔をかけて大変な処置をしなければならない。
しかし、日頃からおしっこをチェックしていただければ、「なんだかおかしいな」と思った段階で、動物病院で尿検査を受けてもらうことができます。
飼い主さんとしては、つらい状態になる前に病院へ連れていくことができる。猫にとっても、おしっこを出したくても出せない状態にならずに済むわけです。両者のことを考えた良い商品だと思います。
―最後に、傾聴飼育にチャレンジしたいペットオーナーさんにアドバイスをお願いします。
最初にお話しした通り、人も犬も猫も健康であることが一番大事だと思っています。ただ、その健康の定義として、体の健康だけではなく、心の健康、そして社会的にも健康に過ごせていることが重要です。
私は一獣医師として、今後も包括的な「健康」のお役に立てるような仕事をしていきたいと思っています。そして、ペットオーナーさんたちにも「体の健康だけが健康ではない」ということを意識していただき、ご自身の健康も大事にしつつ、犬や猫の健康も守ってくださったら素晴らしいな、と思っているところです。
*
人にやさしく、ペットにもやさしいペット用品ブランド「エリエールPet キミおもい」の情報は、こちら。
写真:tomohiro takeshita
取材・文:midori ohashi