選挙は、新聞が最も力を入れるニュースの一つだ。締め切り時間を普段より遅くし、翌朝配る新聞に選挙結果を最後まで掲載しようとする。
だが、6日に投開票が行われた米中間選挙では、そんなメディアの風景に大きな変化があった。
from Newseum
米国で最大の発行部数を持つ新聞チェーンのガネットが、米中間選挙の結果について、傘下の新聞の多くで、翌朝の新聞で報道することを見送ったのだ。そして、紙面にはこうあった。
選挙の詳細はネットで。
理由は、印刷の外注などによる締め切り時間の繰り上げと、選挙紙面にかかるコストの削減だという。
結果については、読者をネットでの報道に誘導した。
新聞は紙からデジタルへの急速な移行の動きが続く。その中でも、一つの節目になりそうだ。
●ガネットの「掲載見送り」の判断
ガネットは全国紙「USAトゥデイ」に加え、34州とグアムで合わせて109のローカル紙を運営。発行部数では米国最大の新聞チェーンだ。
その傘下のローカル紙の多くで、トランプ政権への信任をかけた中間選挙の結果の紙面掲載を見送った。
メディアサイト「ニーマンラボ」で、ニーマン・ジャーナリズム・ラボ所長のジョシュア・ベントン氏が、中間選翌日、7日付けのガネット傘下の朝刊各紙の紙面を検証している。
アイオワ州デモインの1849年創刊の地元紙で、2018年を含めて16回のピュリツアー賞を受賞している「デモイン・レジスター」の1面は、「アイオワ全域で高い投票率」との主見出しと、娘を抱えて投票する女性の写真。
そして1面の下の方に「選挙結果をお探しですか?」との見出し。その本文には同紙編集主幹、キャロル・ハンター氏の署名で、こうある。
DesMoinesRegister.comとデモイン・レジスタのアプリへどうぞ。すべての開票結果とアイオワの今後についての分析が掲載されています。
インディアナ州の地元紙、1903年創刊の「インディアナポリス・スター」の1面は「長蛇の列は大事な投票の証し」との主見出しと投票所の行列の写真。
こちらも、1面の下の方に「選挙結果をお探しですか?」の見出しで、同紙編集主幹、ロニー・ラモス氏の署名で、こう説明している。
私たちは、火曜日(6日、投開票日)は夜通しで、indystar.comでの速報と選挙全体の報道に専念します。紙の購読者であれば、無制限で閲覧できます。木曜日の紙面では、火曜夜の選挙の分析と開票結果を掲載します。
USAトゥデー1面は、投票所の風景の写真と、「重要な中間選挙」の主見出し。そして1面題字横には「結果、分析はusatoday.comで」との見出し。
傘下の中でも、選挙結果の一部を入れたところもある。
ミシガン州の地元紙で1831年創刊、ピュリツアー賞10回受賞の「デトロイト・フリー・プレス」は、知事選の結果で1面をつくった。
トップは、「ミシガン知事にウィットマー氏」と、同州としては2人目の女性知事となるグレッチャン・ウィットマー氏(民主)の勝利を扱い、中間選挙の全体ついては、「民主、下院は過半数、上院は厳しい状況」との開票経過を報じるにとどまった。
●締め切り時間は夜7時
中間選挙の投開票日に先立ち、「ニーマンラボ」でメディアアナリストのケン・ドクター氏が、ガネットのローカル紙ネットワーク「USAトゥデイ・ネットワーク」の編集主幹、アマリエ・ナッシュ氏へのインタビューで、その判断の背景を紹介している。
それによると、ガネット傘下の多くの新聞では、投票翌日、7日の紙面への開票結果の掲載を見送るとともに、その後の確定結果などのデータも、ネットのみの掲載とする方針を取ったという。
ガネットでは、傘下の新聞の編集作業を本社で集中化するとともに、印刷は外注や共同印刷に出すことで、締め切り時間が繰り上がっている。
そのおおむね午後7時ごろに設定されているという。
投票終了時間は州や郡によって異なるが、多くは午後7時から8時の時間帯に設定されている。
選挙態勢では、締め切り時間を繰り下げ、特別紙面とすることが通例だ。ナッシュ氏もこう述べている。
私が2016年にデモイン・レジスターに(編集主幹として)いた時、クリントン対サンダースの(民主党の大統領選候補を決めるアイオワ州党員集会)の結果を入れるために、可能な限り締め切りを繰り下げた。この時は、それでも当選を打てなかった。
だが、それらのコストも見過ごせなくなった、という判断のようだ。
選挙前にガネット社内で回覧されたメモには、選挙などによる増ページの扱いについて、こう述べられていたという。
紙面計画を立てる際には、紙面印刷コストの厳密な管理を忘れないように。いかなる増ページも、年内には埋め合わせ(相応の減ページ)が必要、できれば11月中に。
開票結果掲載見送りに際しては、選挙前から読者をデジタルに誘導するように告知。選挙では、ネット課金による閲覧制限の「壁」を取り外すことにしたという。
●ガネットの現状
ガネットの現状を見ると、紙の読者の3分の1以上は70代以上。
デモイン・レジスターの場合、2年前には日曜版12万2000部、平日版6万6000部だったが、現在では日曜版8万7000部、平日版4万8000部で、3割近い目減りとなっている。
一方で、デジタル購読はなお6000件(46%増)止まり。他の傘下紙も同様の傾向だという。
USAトゥデー発行人のマリベル・ワズワース氏はメディアサイト「デジデイ」の取材にこう述べている。
紙は、速報メディアではなくなって久しい。我々が今、やろうとしているのは、すべてのニュースチームが、デジタルプラットフォームでの広範囲でインタラクティブな報道に、全力をあげることだ。
ドクター氏はガネットの判断は、「デジタル移行の促進となるか、審判の日へと歩を進めることになるかの試金石になる」と見立てている。
●コストとニーズ
ネットでリアルタイムの情報伝達が可能な中で、どこまでのコストを抱えて紙への印刷にのせるか。
取材対象のスケジュールと印刷工程、コストがシビアにせめぎ合うのが、選挙だ。
だが、いずれその範囲は拡大していくかもしれない。
メディアの風景は、こんなところから変わってくるようだ。
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■新刊『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』(朝日新書)
(2018年11月10日「新聞紙学的」より転載)