台風21号が日本列島に刻々と接近する嵐の中で投票が行われた第48回衆議院選挙は、10月22日午後8時に投票が終わりました。報道各社は出口調査に独自の分析を加えて、各党の獲得議席を予想していました。事前予想は、「自民堅調」「公明現状維持」で「与党300議席をうかがう」というもので、野党側は「希望失速」「立憲急伸」「維新苦戦」「共産・社民現状維持」というものでした。
与党ではないという意味で、まずは「野党側」と5党を便宜的に括りましたが、今回の総選挙は与野党の二極対決の構図にはなっていません。安倍首相と自民党が掲げる「憲法改正」や集団的自衛権容認「安保法」に理解を示していたのが希望と維新であり、そのために、今回の総選挙は「自民・公明」と「希望・維新」、そして「立憲・共産・社民」の三極構図として語られました。
ところが、全国的な開票結果は、自民284議席(公示前284議席)、公明29議席(公示前34議席)で与党313議席で、3分の2も超えました。前回の選挙から定数が10議席削減されていますから、自民党の議席占有率はあがったことになります。
また、希望50議席(公示前57議席)、立憲55議席(公示前15議席)、共産12議席(公示前21議席)、維新11議席(公示前14議席)、社民2議席(公示前2議席)となりました。結果は「自民大勝」「公明議席減」「立憲躍進」「希望失速」「共産議席減」「維新議席減」でした。
本来、総選挙のテーマは「安倍政権5年間への審判」となるはずでした。ところが、突然の解散報道から小池百合子東京都知事や前原誠司民進党代表による「野党再編」が動き出し、一挙に劇場化したことから、この野党再編の話題が焦点となりました。人々から本来の「安倍政権への審判」という重要な問題意識が遠のき、結果として自民圧勝を招いたのではないかとも思います。
野党再編劇を振り返ります。小池百合子都知事が自ら代表となって「希望の党」を旗揚げしました。そこに、野党第一党の民進党前原代表が、希望の党に合流するという奇策に出たあたりから大きな注目が注がれました。前原代表が「民進党の丸ごと合流」をめざしていたのに対して、小池代表側は「全員を受け入れる気はさらさらない」と選別を宣言しました。そして、にわか仕立ての政策協定書をつくり、民進党からの入党希望者にも「憲法改正」「安保法賛成」の踏み絵を迫る「排除の論理」をふふりかざしました。ところが、希望の党と小池代表の姿勢は、到底受け入れられないという反発が広がり、希望の党に行く道を選ばない民進党議員が中心となって立憲民主党を立ちあげました。
衆議院の解散当初は、希望の党と小池代表に対しての期待値が高く、「今回は安倍総理か、小池総理かという政権選択選挙だ」という声までありました。ところが、各社の事前議席獲得予想も希望の党から排除されたか、与することのなかった立憲民主党が大健闘し希望の党を上回って野党第一党となる勢いです。また、希望の党に行かずに無所属でたたかった人たちも健闘しています。一方の希望の党は、東京都知事選挙と都議会議員選挙で「小池旋風」が吹いた肝心要の東京で、ことごとく苦戦し、小選挙区で1議席にとどまりました。希望の党の失速も急なら、立憲民主党の急伸の勢いも通常の選挙では見られない現象です。
4カ月前の東京都議会議員選挙では、「小池旋風」がまきおこり、都民ファーストの候補者が続々当選を決め 議席を獲得して、第一党に躍り出ました。自民党は、まさかの落選が相次ぎ、議席を半減させています。都議会議員選挙では共産党も健闘した反面、民進党は都民ファーストに移行する前職等が相次ぎ、大幅な議席減となりました。 まだ、3カ月余り前の話ですが、ずいぶんと昔のセピア色の写真のように、急速に色あせて感じます。 今回の希望の党は失速しただけでなく、小池旋風は止まり、所によっては逆風とさえなってしまいました。
2016年8月に行われた東京都知事選挙で、小池都知事が誕生した頃に立ち戻ってみます。立候補の記者会見で小池都知事候補は、なんと「都議会冒頭解散」という刺激的かつ挑発的なメッセージを突き出しました。都庁官僚を意のままに操る「都議会のドン」を悪者に見立て、その権威や圧力をはねのけ、戦うという物語を提供したのです。都知事に「都議会冒頭解散」の権限がないことは、百も承知のことだったと思います。女ひとり単身で都庁に乗り込むという「勧善懲悪」の図式をマスイメージとして人々の間に広がりました。
ところが、昨年の都知事選挙と今年7月の都議会議員選挙で圧勝した小池知事は、すでに行政のトップをつとめる権力を掌握しています。その上で、安倍首相の突然の解散に対応したとはいえ、新党を模索する経緯を「リセット」して希望の党の代表となったのです。政党と言いながら、小池代表以外に、党幹部も定かではない形でのスタートでした。それでも、当初は希望の党に注目は集まりました。
9月26日、安倍首相の衆議院解散を告げる記者会見を吹き飛ばすように、話題をさらったのが同日の直前に行われた「希望の党」の小池代表の記者会見でした。いざ国政進出かとざわめきが広がり、総選挙の「台風の目」となるのではないかと語られました。
続けて、前原代表による民進党の「希望の党への合流、総選挙では民進党は候補者を擁立せず」という衝撃のニュースが入り、9月28日の民進党両院議員総会で了承されてしまったと聞いて、私は耳を疑いました。21年前にスタートして紆余曲折はあったものの一度は政権を担った政党が、昨日出来たばかりの正体不明の政党に雪崩を打って溶け込もうというプランが満場一致で決まってしまうものなのかと、にわかに信じられなかったのです。
「排除の論理」はなぜ心を打たないのか 10月総選挙大波乱へ (2017年10月2日)
ところが、早々に希望の党は民進党を全員受け入れるつもりは「さらさらない」として、「憲法改正」「安保法」に賛成か否かを機軸にして、「選別をさせてもらう」との姿勢を明確にしました。久しぶりに「排除の論理」という言葉がメディアに浮上しました。
民進党の両院議員総会では、「希望の党側から選別されてしまわないのか」という声も出たというのですが、前原氏は「誰かを排除するということではない。安倍政権を倒すということを一緒にやりたい」としていた。ところが、「この排除しない」という前原発言を正面から否定したのが、9月29日の小池代表の記者会見での発言でした。
小池百合子をリセットした「排除」発言 引き出したジャーナリストが語る真相 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)2017年10月15日
希望の命運を決めた決定的な瞬間と指摘されているのが、9月29日の会見での小池百合子東京都知事の〝排除発言〟だ。
民進党からの合流組の一部を「排除いたします」と笑顔で言い切った姿がテレビで繰り返し報じられると、小池氏や希望の党のイメージは一気に悪化してしまった。
同誌によると、小池氏からこの「排除発言」を引き出したのは、フリージャーナリストの横田一(はじめ)氏で、「民進党から希望への公認申請者は排除されないという前原誠司代表の話と小池氏の話が食い違っていたので、素朴な疑問をぶつけた。『排除』発言を聞いた時は、ああ、本性が出たなと。『寛容な保守』をうたいながら、なんと愚かな発言をするんだと思いました」と感じたと語っています。
選挙結果を見てみると、共産党も含む野党協力・共闘が成立したところは、小選挙区で競り合っています。一方、野党乱立の小選挙区は自民党の壁の前に大差で拒まれるところが多かったのではないでしょうか。そもそも、「野党が力を合わせて安倍政権を倒す」ことが目標なら、希望の党の踏み絵に屈することをよしとせずに、立憲民主党に参加した候補のところに、わざわざバタバタと希望の党の候補を立てたのでしょうか。逆に立憲民主党の側は、希望の党の候補がいる選挙区に同党の候補を擁立しないとしました。野党の競合を避けて、協力を優先する選挙戦術はプラスになったと思います。
自民圧勝の影で、注目され続けた「野党再編劇」の最終場面は、 まだこれからです。小池代表が最後まで総選挙後の首班指名候補の名前を明らかに出来ず、選挙後に自民党との連携も排除しないと発言していたことも、希望の党の敗因のひとつと感じられます。まず、安倍政権と与党連立政権に明確な対抗軸とビジョンを打ち出してほしいと思います。
土壇場で立憲民主党が出来上がり、演説会場はどこも多くの観衆を集めました。その期待値は想像以上に大きかったといえます。わずか78人の立候補にもかかわらず、短期間のうちに支持率は急伸して、50議席台とはいえ野党第一党となった同党の役割と責任も極めて重いと思います。枝野幸男代表が街頭で聴衆を前にして、「ボトムアップの政治」を呼びかけていたのが印象的でした。アメリカの大統領選挙予備選挙で先頭を走っていたヒラリー・クリントンに対して、バーニー・サンダースが猛追したことに、これからの政治の可能性へのヒントを感じます。
若い世代から高齢世代までが直面している格差社会の壁。不平等で不安定な「排除する社会」に対して、互いに助け合い心を通じ合って「社会的に包摂する社会」の具体像を提案して、語りかけるバーニー・サンダースから学ぶことはあまりに大きいと思います。これからの日本にどのような政治勢力が必要なのか---立憲民主党への期待値は、政治構図の右半分が重くなり、リベラルな市民層が探してきた「広大な空き地」があったことを証明しています。総選挙の結果、引き続き安倍政権が続きますが、ここから教訓を汲み取り新しい陣地をつくる可能性は、実は広がっていると思います。このチャンスを生かしていきたいと思います。