『Family Regained』。直訳するなら「回復された家族」だろうか。
あなたはこの写真集のタイトルに、あなたは何を感じるだろう。
同性の恋人や友人たちとの親密な関係を記録した写真集『intimacy』(2013)で第39回木村伊兵衛写真賞を受賞した写真家・森栄喜さんの新作は、タイトルの通り「家族」がテーマだ。
(c)Eiki Mori "Family Regained" 2017 Courtesy KEN NAKAHASHI
森さんは、友人やカップル、夫婦など40組の家族に自らも加わり、セルフタイマーで記録した写真集『Family Regained』で何を表現したかったのか。
ハフポスト日本版は「家族のかたち」を特集している。「僕は家族に属していないし、自分の家族をまだ作れていない」と語る森さんが描いた「家族」について聞いた。
出会って、恋して。その先にはどんな世界がある?
――「家族」をテーマにしようとした意図は?
前作(『intimacy』)は当時の恋人との暮らし、日常を切り取って、2人の関係性やつながりが繊細に変化していく過程を記録した写真集だったんですけど。
――メインの被写体として登場している方ですね。
そうです。撮影していたのは6、7年前なんですが、当時、彼がベルギーのアントワープに留学してたんです。
ベルギーはオランダに次いでヨーロッパで2番目に同性結婚の合法化を実現した国ですし、ちょうどその時期の首相、エリオ・ディルポ氏が(ゲイと)カミングアウトしていたり。
夏休みや冬休みになると僕もそこに滞在したんですけど、なんかちょっと日本では思い付かないような環境だった。
誰の目も気にせずに手をつないで街を歩けたし、僕と同じくらいの年齢の男の子が2人で歩いていたりレストランなどでも、当然のように恋人同士として認識されるんですよ。
でも日本で暮らしていると、そういう対応ってほぼ皆無じゃないですか。当事者自身が無意識になるべく目立たないようにしているっていうことも働いているせいもあるとは思いますが。
そういう国、街があることは知識としては知っていたんですけど、実際に滞在して身体的、感情的にも実感できたんですよね。
――実感できたことで、どんな変化がありましたか。
すごく温かい気持ちになったんですよ。社会やまわりの人々に受け入れられている、承認されている安心感・幸福感というか。なおかつ、前作では伝えきれなかったこと、前作から続いている世界についても撮ってみたいなと強く思うようになったんです。
人と人が出会って、一緒に暮らすようになって、その先にはどういう世界が広がっているのかな、って。そのことを考えながら制作したのが『Family Regained』です。
(c)Eiki Mori "Family Regained" 2017 Courtesy KEN NAKAHASHI
演じつつ、撮る。違和感のある家族写真の意図
――特定の家族やご自身の家族を撮るのではなく、さまざまな家族の生活空間に森さんが入っていき、一緒に写真に写るスタイルですね。
本来、僕はその家族に属していないし、自分の家族もまだ作れていない。だから身近な友人やカップル、家族のそれぞれの舞台に、ほんのひと時、一緒に上がらせてもらった、というような感覚です。
――撮影はすべてセルフタイマーですか?
そうです。演じつつ、撮るというか。配置があって、演じ手がいて、台詞があって、衣装もあって。いろんな家族のところに......客演のような感じで飛び込んでいくような。
でも僕に優れた演技力はないので(笑)、皆さんにも協力していただいて、ぎこちないながらも一体となり、家族というひとつの劇を一緒に演じたという感じです。
(c)Eiki Mori "Family Regained" 2017 Courtesy KEN NAKAHASHI
僕にとっては、すぐ先の、未来の家族たち、のような光景なんです。だけど、たぶん今の日本で捉えられる光景としては、やっぱりちょっとまだ異質で違和感がある景色だと思うんですね。
そこはわかって撮っているし、あえて自然に見せるというよりは、「今はまだちょっと見慣れてないですよね、でも......」という挑戦でもある。
この馴染みのない光景が、(社会から)排除されてしまうかもしれないし、見て見ないふりをされてしまうかもしれない、ということも理解しつつ、「でも包み隠さず出そう」という気持ちで撮りました。
「赤」という色で真正面から問いかける
――「赤」のフィルターで世界を覆った意図は?
赤ってやっぱり強烈な色じゃないですか。ちょっとtoo muchというか、緊張感や圧迫感もある。危険を表す色でもある。そこを思い切って前面に出して、慣れてもらうというか。
――この写真集を見た人に、赤い世界に慣れてもらう?
そうですね。少し強すぎるかもしれませんが、僕の熱度というか意思が伝わったらいいなと思って。
セクシャルマイノリティへの差別や、性差の格差はなくなってきていると少しは感じますが、そこは実は巧妙に、または無意識に包み隠されてるだけで、夫婦別姓にしたって、実際は何も進んでいない。
無関心であることも、結局は何も訴えていないことと一緒だから。そこに「赤」という色とともに、真正面から問いかけて訴えかけていこうと思って。
「赤」の色をどう捉えるかも、国によって全然違うみたいで、「地獄」のイメージの国もあるらしいし、中国だったらきっとまず国家や共産主義を象徴する色と捉えられるかもしれない。国によって捉え方が違う。そういうのも面白いなと思いました。
(c)Eiki Mori "Family Regained" 2017 Courtesy KEN NAKAHASHI
日本のLGBTブームには悲観的です
――日本でもLGBTという言葉も広く知られるようになり、セクシュアル・マイノリティを取り巻く現状、社会の認識はここ数年でめまぐるしく変化しているように思えます。森さんはどう感じますか。
ちょっと悲観的ですね。実感として「めまぐるしく変わって」なんていないと思う。現に僕はまだ法的には結婚も子育てもできませんし。
僕、すごい楽観的だったんですよ。4、5年の内にもっとドラスティックに変わるって思ってた。だから実際は全然進んでないと感じてしまいます。僕がせっかちなだけかもしれませんが......。
でも一方で、日本でもパートナーシップ宣誓制度ができる自治体は確実に増えてきているし、同性婚実現へ向けた議論も徐々にですが活発になってきていると思うので、僕も積極的に関わって盛り上げていきたいです。
――森さんの実感としては「まだまだ」なんですね。
そうですね。だから、怒ってるんです。急がなきゃっていう思いも強いです。
そういう意味では"怒り"の赤も入ってるかも。
――その怒りは、セクシュアル・マイノリティを取り巻く法整備が一向に進まないことに、でしょうか。それとも一人ひとりの内的な変化が感じられないことに対してでしょうか。
全部。どっちもですね。
ただ、すごく可視化はされてきてますよね。セクシュアル・マイノリティの存在自体や、暮らし、その中での願い......。みんなが、社会が気づいてはきていると思います。
だから、積もり積もって沸点にいったら、一気に変わるんじゃないかなとも思っています。楽観的すぎるかもしれないけど、その期待もすごくあります。
噴火口を目指す熱いマグマのように、楽しみながら真剣に、みなさんと一緒に上っていきたいです。
(取材・文 阿部花恵 / 編集・撮影:笹川かおり)
※後編は近日中に公開します。
「家族のかたち」という言葉を聞いて、あなたの頭にを浮かぶのはどんな景色ですか?
お父さんとお母さん? きょうだい? シングルぺアレント? 同性のパートナー? それとも、ペット?
人生の数だけ家族のかたちがあります。ハフポスト日本版ライフスタイルの「家族のかたち」は、そんな現代のさまざまな家族について語る場所です。
あなたの「家族のかたち」を、ストーリーや写真で伝えてください。 #家族のかたち#家族のこと教えて も用意しました。family@huffingtonpost.jp もお待ちしています。こちらから投稿を募集しています。
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