北アフリカのエジプトで日本の学校教育が注目されているのをご存知だろうか。
エジプトで「日本式教育」を取り入れた公立の小学校「日本学校(Egypt-Japan School)」が2019年度、新たに5校開校する予定だ。2018年度に開講したものを含めると、合計で40校となる。エジプトのAhramonlineが報じた。
一体、何が「日本式」なのか。事業の運営を行う国際協力機構(JICA)によると、大きな特徴は、日本の学校教育ではごく普通に行われている学級会や掃除、日直などの「特活(特別活動)」が取り入れられていることだという。エジプトにおいて「特活(Tokkatsu)」は、子どもの協調性や規律、道徳心を育む教育として注目を浴びている。
エジプトの学校教育は従来、国語や算数などの教科学習偏重で、生徒の社会性を育む教育や実技教科をあまり重視してこなかった。それゆえに現在、子どもの規律や協調性の欠如が課題となっているという。日本式教育は、こうした課題にアプローチするために導入された。
社会・文化的背景が日本とは大きく異なるエジプトで、日本式教育は実際にどのように受け止められているのか。ハフポスト日本版は、JICAの担当者 梯 太郎(かけはし・たろう)さんに電話取材をした。
子どもだけでなく教師にも変化が
梯さんによると、現地からはポジティブな報告が多く寄せられているという。2015年ごろから日本式教育を試験導入した小学校からは、「子どもが他の人の意見を尊重するようになった」「校内暴力が減った」「日直当番を通して子どもが自信をつけた」などの報告があった。
また、日本式教育の導入は、生徒だけではなく教師にも影響を与えているという。エジプトでは伝統的に教師の権力は絶対的で、「教師が生徒を一方的に教える」という教育スタイルが一般的だ。しかし、学級会や日直の場で、子どもが自発的に行動したり議論したりする様子を見て、教師の態度や行動が変わったという。学校からは、「教師が生徒の意見に耳を傾けるようになった」「生徒の自主性を重んじるようになった」「生徒参加型の授業が増えた」などの報告が上がっているという。
「掃除は社会階層が低い人が行うもの」現地の文化に適応させる難しさ
一方で、「日本式教育をエジプトの文化に馴染むように取り入れていくことが課題」と梯さんは話す。文化の違いから、日本式教育の現地での導入には難しさも伴う。実際に現地から報告があった事例を紹介してもらった。
エジプト社会では「掃除は社会階層が低い人が行うもの」と考えられています。そのため、学校で掃除を導入した際に保護者から「なぜ子どもが掃除をしなければいけないのか」という強い反発がありました。
実行に当たっては、校長から保護者に対し何度も「掃除の教育的意義」の説明が行われました。理解した親が納得いかない保護者に説得をし、ようやく実行に移せた学校もありました。
しかし、実際に掃除を導入したところ、「子どもたちが自宅で掃除をするようになった」などの変化も見られ、最終的には保護者も「学校での掃除=教育」と理解してくれるようになりました。
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日本学校の構想は、2015年に安倍首相がエジプトを訪問した際、エジプトのシーシ大統領が大統領が日本式教育に関心を示したことをきっかけに始まった。その後、現地の学校への試験導入などを経て2016年2月、両国の間に「エジプト・日本学校支援プログラム(エジプト・日本教育パートナーシップ)」が締結され、日本政府の支援のもと日本式教育の本格導入が決まった。エジプト政府は今後、日本学校を100校まで増やす計画を立てている。
日本学校はエジプト人のみ入学可能。言語もエジプトの公用語であるアラビア語が使われ、学習カリキュラムは現地の公立校と変わらない。ただし、学費は一般的な公立校の50倍で、1万エジプト・ポンド(約6万円)。今後奨学金を増やし、入学への経済的なハードルを下げることを検討しているという。