けいざい早わかり:2030年度までの日本経済

2016年から2020年度までの日本経済は、減速懸念が台頭しつつあるうえ、消費税率が10%に引き上げられることで一時的に悪化する可能性があります。

Q1.東京オリンピック開催までの日本経済は、どのようなものでしょうか?

2016年度から東京オリンピックが開催される2020年度までの日本経済は、足元で減速懸念が台頭しつつあるうえ、2017年4月に消費税率が10%に引き上げられることで一時的に悪化する可能性があります。しかし、2020年7月に東京オリンピック開催を控えた需要の盛り上がりやインバウンド需要による押し上げなどの効果により、均してみると底堅く推移すると予想されます。消費税率引き上げによる落ち込みも、8%への引き上げ時に比べると、引き上げ幅が小幅であることや、軽減税率が適用されることもあり、軽微にとどまるでしょう。実質GDP成長率の5年間の平均値は、2011~2015年度の+0.6%に対し、2016~2020年度は+0.7%と、伸び率はやや高まる見込みです(図表1)。

図表1.GDPの主要項目の予測(5年ごと)今後の5年間の成長率の押し上げに貢献すると期待されるのが、第一に個人消費です。最近は節約志向の強まりなどから動きは鈍くなっていますが、労働力人口の減少やミスマッチの継続という構造的な要因もあり、労働需給はタイトな状態が続くと予想されます。企業が過剰雇用を抱えることを警戒して新規雇用を増やすことに慎重な姿勢を崩さないことや、非正規雇用者の割合の上昇が続くことから、1人当たりの賃金の上昇ペースは緩やかとなりそうですが、それでも上昇基調は維持される見込みです。また、賃金が増加することで、消費者のマインドも良好な状態が維持されると考えられます。このため、個人消費は概ね底堅さを維持し、特に東京オリンピックの開催に向けては消費者のマインドが高まりやすく、個人消費が景気を牽引することになりそうです。第二に、企業の設備投資の増加が成長率を押し上げると期待されます。これまでの円安を背景に、海外での生産を国内に切り替える動きが一部で出ていますが、それが本格化することは難しいと思われます。海外の需要は、現地での生産やサービスの提供で取り込んでいくという企業の基本的な姿勢が変化することはなく、対外直接投資が優先される姿勢は維持されるでしょう。しかし、企業の利益は、これまでのリストラによる収益率の上昇や資源価格下落によるコスト削減効果によって、2016年度以降も高水準を維持できる見込みです。手元キャッシュフローが潤沢な状態が続くため、設備投資の余力は十分であり、維持・更新投資や人手不足を補うための効率化投資、情報化投資などを中心に底堅さは維持されると考えられます。また、インバウンド需要の高まりや東京オリンピックの開催を控え、様々なインフラ投資、不動産投資、観光関連投資などが活発化する可能性があります。第三に、輸出が緩やかに持ち直していくと予想されます。生産拠点の海外移転が進んでいることから大きな伸びは期待できませんが、米国の利上げに対する警戒感が後退し、新興国や資源国の景気が持ち直しに転じると見込まれる2017年度以降は、比較的底堅い伸びを維持できるでしょう。また、1ドル=110円程度であれば、価格競争力を取り戻し、輸出数量の増加につながる製品も出てくると考えられます。さらに、外国人旅行客の国内での消費はサービスの輸出に計上されますが、足元でも順調に増加しており、輸出の押し上げに寄与すると期待されます。特に、東京オリンピックが近付くにつれて、増加の勢いが増してくる可能性があります。ただし、景気が底堅さを維持できる一方で、将来へのリスクも蓄積されていくことになりそうです。

Q2.日本経済が成長していく上での課題は何ですか?

日本経済は中長期的にいくつもの課題を抱えていますが、最もやっかいなものが、人口の減少に歯止めがかかっていない点です。人口減少は国の生産能力を縮小させ、活力を削いでしまうリスクをはらんでいます。これまでも多くの対策が講じられてきましたが、今のところ有効な解決策は見出されていません。今後も日本の総人口は減少が続くと予想され、2030年には1億1689万人とピーク時の2008年から1000万人以上も減少する見込みです(図表2)。懸念されるのが、時間がたつにつれて人口減少ペースが加速していくため、経済へのマイナス寄与が次第に大きくなっていく点です。国立社会保障・人口問題研究所の2012年1月時点での予測(中位予測)によれば、今後の人口減少率(年率換算)は、2011~2015年度の-0.23%に対し、2016~2020年度で-0.40%、2021~2025年度で-0.56%、2026~2030年度で-0.68%となっています。このため、人口の減少率を上回って1人当たりGDPを伸ばさなければ、GDPは減っていくことになり、そのハードルも年々高まっていくことになります。短期間のうちに少子化を止める有効な手立てがあるわけではなく、時間とともに日本経済にとって重石となっていくでしょう。それでは、人口が減少すると、具体的にはどのような問題が発生するのでしょうか。ひとつは、労働力が不足し、財やサービスを生産・提供する能力に限界が生じるリスクがある点です。すでに足元で企業の人手不足感は強まっていますが、今後、労働需給のタイト感はさらに強まっていくと予想されます。特に建設業、医療・介護・福祉業、小売・飲食店業といった業種では、すでに人手不足が深刻化しています。また、需要が落ち込むことも懸念されます。一人当たりの消費額が増加しなければ、人口の減少がそのまま個人消費の減少につながり、経済成長率を低下させる要因となります。さらに、人口が減少する中で現在の社会保障制度をどうやって維持するのかという点も重大な問題です。年金、医療制度については徐々に改革が行われていますが、それでも現役世代が高齢者世代の負担を賄っている状況に変わりはありません。少子高齢化が進めば、こうした世代間負担の不均衡の状態が一層悪化することになります。

図表2.日本の人口予測課題の2つめが、財政の悪化の問題です。社会保障の持続性の確保と財政健全化に向けて、2014年4月から消費税率が8%に引き上げられ、2017年4月には消費税率は10%に引き上げられる予定です。このため、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)のGDP比は一時的に改善することが見込まれます。しかし、その後は税収が増加すると同時に、社会保障関連を中心に歳出も増加するため、横ばい圏での推移にとどまり、2020年度の基礎的財政収支の黒字化という政府目標は達成できないでしょう。このため、いずれ目標を修正せざるを得なくなり、消費税率の追加の引き上げの検討や社会保障制度改革の見直しの着手に追い込まれることになると考えられます。今回の中期経済見通しでは、目標の達成が困難であると判明する2018年度頃から、社会保障制度を維持する目的で追加の増税の議論が始まり、消費税率は、2022年度に12%に、2025年度に15%、2028年度には18%に引き上げられると想定しています(軽減税率については8%で据え置かれると想定)。課題の3つめが、企業のグローバル化の裏側で生じる国内産業の衰退の懸念です。企業のグローバル化といえば聞こえはいいのですが、同時に、企業が国内から逃げ出してしまうことによって国内の生産や雇用が失われる、いわゆる空洞化が進むリスクをはらんでいます。これまで企業業績は順調に改善しており、2015年度も過去最高益を更新する可能性がたまっています。それにもかかわらず、企業は設備投資には慎重なままであり、業績が改善して手元のキャッシュフローは潤沢になっても、設備投資の勢いがなかなか強まってきません。企業が積極的な設備投資を見送っている背景には、①人口が減少する中で、企業が先行きの国内での需要増加に自信が持てず、将来的な不稼働設備を抱えることを懸念している、②伸びが見込める海外での需要については、地産地消での対応方針を堅持しており、輸出を再拡大させることまでは考えていない、などがあると考えられます。結果的に、国内企業の製品を生産する能力やサービスを提供する能力が徐々に減少しています(図表3)。労働力人口が減少していく中でいずれ労働力不足が深刻化する懸念があることと合わせて考えると、国の稼ぐ力が大きく落ち込んでしまうリスクがあります。

図表3.企業の資本ストックの推移

Q3.課題を克服し、成長率を高めるためには何が必要ですか?

労働力人口が減少し、将来的に供給能力が限界に突き当たる懸念がある中であっても、経済を拡大させようとするのであれば、一人当たりの生産能力を高めるしか方法がありません。付加価値額(すなわちGDP)は、労働投入量(=労働者数×1人当たり労働時間)×労働生産性で定義されますが、労働者の数が減少し、労働時間の延長にも限界がある以上、より多くの付加価値を獲得しよう(すなわち経済成長率を高めよう)とするのであれば、企業が生産性を高めることが必要となります。供給能力の限界への対応として生産性を向上させることの必要性は、これまでも主張されてきた意見です。しかし、日本の労働生産性はバブル崩壊後に急低下した後、均してみれば、伸び率は低迷したままの状態にあります(図表4)。

図表4.労働生産性の推移生産性を向上させるためには3つの手段があります。ひとつは短時間で多くの数量を生み出すよう生産の効率を高めることであり、もうひとつが1単位当たりの生産量の付加価値を高めることです。前者が主に高性能の設備の投入や情報化投資の拡大といったハード面での投資によって解決すべき問題であるのに対し、後者はより品質の高い製品やサービスへのシフトと、それを可能にするための研究開発投資の拡大や能力の高い人材の育成・確保といったソフト面での投資が必要とされる問題です。そして3つめが、より生産性の高い産業の比率を高め、生産性の低い産業の比率を低下させるという、産業構造を大胆に変化させることによる手段です。それでは、生産性を高めて行くためには、具体的に何が必要でしょうか。第一に、企業は利益が増えてもそれを積極的に使おうとはしておらず、カネ余りの状態が続いていますが、これを有効活用していくことが必要です。すでに指摘したように、企業は将来に対する慎重な姿勢から積極的な設備投資にはなかなか踏み切れないでいます。また、人手不足感が強まっている状況下にあっても、賃金を引き上げてまで雇用を増加させることに消極的なままです。設備投資と同様に、将来的に過剰雇用が発生し、業績を圧迫する懸念が払拭できないからです。企業の期待成長率を引き上げ、手元資金を有効に活用する気にさせることで民間の活力を発揮させるためには、企業の将来の不安要素を排除し、自信を持てるような環境を整えてやる政策が必要です。具体的には、少子高齢化や社会保障問題などの課題を先送りするのではなく、これに積極的に対応していくことです。財政破綻に陥るリスクのある国で、企業が投資に積極的になれるはずはありません。こうした課題に取り組む政府の姿勢は、家計の将来不安を後退させ、消費者マインドの向上にもつながってきます。第二に、海外需要を取り込むと同時に、国内での生産能力に限界がある以上、輸出の付加価値を高めて行くことが求められます。新興国との間での競争が一段と厳しさを増す中で、輸出産業が生き残っていくためには、輸出の中身をより高度化して非価格競争力を高め、付加価値を拡大させていくことが必要です。こうした輸出産業の生き残りのための有効な手段として期待されるのが、貿易の自由化の推進です。TPP(環太平洋パートナーシップ)といった自由貿易協定については、短期的な景気の押し上げ効果は限定されますが、中長期的な視点に立てば、輸出の高度化を促進させるものと期待されます。もっとも、貿易自由化を通じて、日本では輸出品の高付加価値化が進む一方、付加価値の低い輸出品が淘汰される可能性があります。このため、輸出できる製品を作り続けるためにも、思い切った選択と集中を行っていく必要があり、この過程で特定の輸出品からの完全撤退や、輸入品への切り替えが進むものと考えられます。第三に、人手不足による供給制約を回避するためには、限られた労働力を有効に活用していかなければならず、そのために業界内において事業の集約化・合理化が進んでいく必要があります。これは、業務提携・事業統合といった緩い形での連携から、不採算部門の切り離し、対等合併、吸収合併といったものまで、様々な形態で進む見込みです。企業の集約化・合理化が進めば、価格引き下げ競争が減少することで高い利益率が確保され、合併や事業統合などによって人件費や資本コストを節約することでコスト削減を達成することもできます。さらに、各企業が競い合っていた研究開発などの作業が、事業統合などの結果、効果的に行えるようになるでしょう。こうした動きが進めば、いずれ生産性の高い産業に資金や人的資本が集中されることになり、産業構造も大きく変化していくと予想されます。最後に、インバウンド需要の取り込みを続けることが重要です。中でも、2020年の東京オリンピックの開催は、日本の魅力を海外にアピールする絶好の機会です。官民を挙げて開催のチャンスを生かし、その後の需要獲得に向けた努力を続けることが必要であり、それが順調に進むようであれば、企業の将来不安の払拭にも役立つと期待されます。

Q4.東京オリンピック後も景気の拡大は続きますか?

東京オリンピック後の2021~2025年度の日本経済は、人口の減少ペースがさらに高まる中、先送りされた財政再建への取り組みや社会保障制度の改革に真剣に取り組まざるを得ない状況に追い込まれることになり、それらへの対応に伴って成長率も鈍化すると見込まれます。2021~2025年度の実質GDP成長率は、5年間の平均値で+0.3%に大きく鈍化すると予想されます。東京オリンピックの開催は、一時的な景気浮揚効果をもたらしますが、その直後には需要の盛り上がりの反動によって、景気が減速すると予想されます。その後も、財政破たんを回避するために、社会保障制度の見直しや財政再建への取り組みが進められることとなり、消費税率の引き上げによる家計の実質購買力の落ち込みや、人口減少、高齢化進展といった構造調整圧力の高まりが、家計部門を中心に経済成長率の伸びを抑制することになりそうです。家計においては、消費者のマインドの弱さを背景に個人消費の伸びは低迷すると見込まれます。労働需給は労働力人口の減少を背景に東京オリンピック後もタイトな状態が続き、名目賃金は上昇傾向を続けるでしょう。しかし、消費税率の引き上げによって実質所得が目減りするほか、将来不安を反映して増加分の多くが貯蓄にまわってしまう可能性があり、消費性向は高まらないと予想されます。さらに、人口減少ペースが高まること、高齢化の進展とともに消費額の少ない世帯が増加することなどが、個人消費の伸びを抑制する要因となります。企業部門においても、東京オリンピック後、国内需要が先細りしていくとの懸念が根強い一方、労働力不足の深刻化によって供給能力の限界に直面するなど、厳しい対応を迫られる可能性があります。こうした事態に対応するための施策として、業界内での集約化・合理化が進む可能性がありますが、こうした動きは、いずれ企業業績の押し上げにつながり、生産性を高めて行くことになると考えられます。しかし、それまでにはある程度の時間が必要でしょう。設備投資は、企業利益の増加を背景に増加傾向が維持される公算が大きいですが、消費税率引き上げによって国内需要が落ち込むことや、人口減少による需要の先細りへの警戒感から、伸び率は鈍いままでしょう。今回の見通しでは、東京オリンピック後に構造調整圧力が強まり、それに対応するために一時的に経済成長率が鈍るとしています。仮に、消費税率の引き上げが実施されず10%のまま据え置かれれば、一時的な景気の悪化は回避され、成長率もより高い伸びを達成することが可能でしょう。また、企業の淘汰が進まず、業種間での労働力の移動も進まなければ、個人消費が落ち込むこともないでしょう。しかし、問題の先送りを続けていても、いずれ労働力不足を背景に供給制約に直面することは避けられず、経済成長の伸びは頭打ちとなると考えられます。また、企業部門の非効率な部分が温存されてしまい、生産性の向上を妨げることになるでしょう。さらに、こうした厳しい条件下で、企業がリストラ中心の対応に終始すれば、需要の落ち込みが深刻になるばかりです。目先の痛みを回避することで、結局、その後の飛躍の機会を逃してしまい、経済が縮小均衡に向かうことになりかねません。

Q5.日本経済はこのまま先細りしていくのでしょうか?

日本経済が先細りとなってしまうリスクがあるのは確かですが、それを回避することは決して不可能ではありません。今回の中期経済見通しでは、2026~2030年度の日本経済は、人口の減少ペースの加速という逆境の中で、生産性の向上など成長率を高めて行く効果が徐々に現れてくることを背景に、成長率の上昇ペースも再び高まっていくと見込んでいます。それまで景気の重石となってきた構造調整圧力も徐々に緩んでくるため、実質GDP成長率は、2026~2030年度の5年間の平均値で+0.8%に高まると予想しています。労働力人口の減少ペースが高まるものの、少ない労働力でも生産が可能な構造へ転換すれば、供給能力の限界が経済成長を阻害する懸念は小さくなっていくでしょう。それでも労働需給はタイトな状態が続くため、雇用者数の減少が続く中でも1人あたり賃金の伸び率が緩やかに拡大し、家計部門全体での所得は増加が続くと見込まれます。これを受けて、個人消費は堅調に推移すると予想されます。企業部門では、生産性を向上させるための投資が不可欠であるうえ、業績の改善の継続、集約化や合理化の進展を背景に、設備投資の勢いも持ち直してくるでしょう。また、輸出も、輸出品の高付加価値化が進むこともあって、輸出価格の上昇を中心として底堅さを維持すると考えられます。1人当たり実質GDP成長率でみると、この期間は平均+1.4%まで高まると予想されます(図表5)。これは、バブルの余韻の残っていた1991年度~1995年度の+0.9%、世界経済バブルの前半にあたる2001年度~2005年度の+1.1%を上回る高い伸びです。こうした経済成長率が再び高まる姿は、構造調整への取り組み方によっては、実現の時期がさらに速まる可能性もあります。逆に、企業部門において設備投資や研究開発投資が増加し生産性が徐々に高まって行く一方で、財政再建への取り組みが遅れることで、再建のためのコストを膨らませてしまい、民間の活力の向上を阻害するリスクもあるでしょう。このように、必ずしも東京オリンピック終了から5年間で構造調整圧力が解消される訳ではなく、解消のペースも状況によって変わってくることが想定されます。ただし、問題を先送りする、もしくは放置すれば、日本経済が先細りになってしまうリスクは一層高まると考えられます。

図表5.1人当たり実質GDP成長率の予測(5年ごと)日本経済が先細りしないためには、最終的には民間の活力が高まってくることが必要です。経済が縮小すると考えて企業が警戒感を強め、将来の生活不安に備えて家計が守りの姿勢に入ること自体が、確実に経済を縮小させることにつながるからです。そうなると、財政再建の遅れといったひずみが一段と拡大していくことになりかねず、ますます企業や家計のマインドは委縮していくでしょう。しかし、人口が減少しても、それに合わせて需要も減っていくとは限りません。人口の減少ペースを、1人当たりの消費の伸びが上回れば、需要は拡大していくからです。そのためには、人々が望むような製品やサービスが開発され、提供される必要があります。たとえば、より安全な車が開発されたり、より高度な医療が提供されれば、価格が上昇しても人々は望んでそれを購入し利用するでしょう。一方、企業は、より付加価値の高い製品やサービスを提供していくことで、人口減少による数量の減少というマイナスを補っていくことが可能となります。企業の設備投資や研究開発の動きが活発化し、生産性の向上や技術革新が進み、新しい産業が生み出され、さらにそれが家計にも還元され、家計もより豊かな生活(生活面での付加価値の向上)を求めて需要を膨らませるという、「豊かな生活と高い生産性の好循環」が達成されれば、たとえ人口が減る中にあっても経済成長率を高めて行くことは可能です。

Q6.日本の財政が破綻するリスクはないのでしょうか?

政府の財政再建への取り組み姿勢が維持される限りは財政が破綻するリスクは回避できるでしょうが、決して破綻リスクがゼロとは言えず、今後も予断を許さない状況が続くと見込まれます。国と地方の基礎的財政収支のGDP比は、景気回復に伴う税収増などにより改善傾向で推移しており、2014年度は消費税率引き上げもあって-4.1%まで縮小しました。さらに、2017年度の消費税率引き上げを受けて、それまでは改善傾向が続くと見込まれます。しかしその後は、税収が増加する一方、社会保障関連を中心に歳出も増加するため、横ばい圏での推移にとどまり、2020年度の基礎的財政収支の黒字化は達成できないと予想されます(図表6)。このため、いずれ目標を修正せざるを得なくなり、消費税率の追加の引き上げの検討や社会保障制度改革の見直しの着手に追い込まれることになるでしょう。今回の中期経済見通しでは、消費税率は2017年度に10%に引き上げられたうえ、政府目標である「2020年度の基礎的財政収支の黒字化」の達成が困難であると判明する2018年度頃から追加の引き上げの議論が始まり、2022年度に12%、2025年度に15%、2028年度に18%に引き上げられると想定しています(軽減税率については、消費税率が引き上げられると想定している2022年度以降も8%で据え置かれるとしています)。

図表6.国と地方の基礎的財政収支・長期債務残高の予測(対GDP比)こうした取り組みの結果、2030年度には基礎的財政収支はようやくゼロに近付き、財政再建の目途がたってくると予想されます。もっとも、歳出は抑制傾向で推移すると想定しているものの、高齢化の進展とともに社会保障給付費は増加が続くと考えられることから、予測期間内に黒字化させることは難しいでしょう。国と地方の長期債務残高のGDP比は、基礎的財政収支の改善を受けて上昇ペースは緩やかになりますが、それでも2025年度には217%程度まで上昇する見込みです。2026年度以降は、債務残高の増加ペースが名目GDP成長率を下回ってくるため、長期債務残高のGDP比は徐々に低下すると予想されますが、2030年度で213%程度と高い水準が続く見込みです。これまでのように、いくら債務を増やしても経済に何の支障もないのであれば、慌てて財政再建に取り組む必要はないという意見もあるでしょう。しかし、見えないところで、破綻のリスクは着実に増加しているといえます。財政への信任低下が金融市場や経済に及ぼす悪影響については、すでに欧州の財政金融危機において経験した内容ですが、ギリシャなどの欧州財政危機国と比べると、日本の経済規模は圧倒的に大きく、世界経済に及ぼす悪影響は極めて大きくなるリスクがあります。しかも、わが国の財政の状況は、債務残高のGDP比などの客観的な数字の上では、ギリシャ、イタリア、スペインといった欧州の財政危機に直面した国々よりも悪い状態にあるのです。(2016年3月22日「けいざい早わかり | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング」より転載)

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