1――11月の人民元の動き
11月の人民元レート(スポット・オファー、中国外貨取引センター)は米ドルに対して小幅な上昇となった。11月は初旬から日本円やユーロが米ドルに対して上昇したが、人民元の動意は薄く中旬までは1米ドル=6.6元台前半で推移した。
その後、日本円やユーロが一段高になると、23日には人民元も連れ高、一時は同6.5元台に突入する場面もあった。しかし、翌日には同6.6元台に押し戻され、11月末は前月末比0.3%上昇の同6.6160元で取引を終えた(図表-1)。
他方、世界の外為市場の動きを見ると、11月はそれまでの米ドル全面高に修正が入った。主要通貨ではユーロが前月末比2.4%上昇、日本円が同1.5%上昇した。また、新興国通貨でもマレーシア(リンギット)が同3.5%上昇、韓国(ウォン)が同2.9%上昇、タイ(バーツ)が同1.7%上昇するなど米ドルに対し上昇した通貨が多かった。
なお、11月は人民元が米ドルに対して上昇したものの、日本円はそれ以上に上昇したため、日本円に対する人民元レートは100日本円=5.9104元(1元=16.92円)と前月末比1.0%の元安・円高となった(図表-2)。
2――今後の展開
さて、18年3月末に向けての人民元レートは、引き続き米ドルに対してボックス圏でほぼ横ばいの動きと予想、想定レンジも1米ドル=6.55~6.9元(1元=16.3~17.4円)を維持することとした。
今回の予想期間内を考えると、米国では連邦法人税率、海外所得課税、個人所得税などに関する上下両院の調整が進みそうであり、中国では12月に中央経済工作会議、2月に第19期2中全会、3月に全国人民代表大会(国会に相当)が開催される見込みであり18年の経済運営方針が見えてくるだろう。
また、ここもとの米中の経済金融の動きを見ると、中国政府(含む中国人民銀行)は16年秋以降、住宅価格上昇の抑制に乗り出したため、景気指標の一部には陰りが見え始めた。しかし、17年1-9月期の実質成長率が17年目標(6.5%前後)を大幅に上回るなど景気の勢いは想定以上に強く、住宅価格上昇が地方都市に波及し始めたことから、予想期間内に基準金利の引き上げがあると想定している(図表-3)。
他方、米国では景気拡大が持続しており、12月にも追加利上げがあると想定している。米国では利上げが近付いたことで国債(10年)金利がじわじわ上昇している。しかし、中国でも金融引き締め観測(*1)を背景に国債(10年)金利が4%前後まで上昇、米中の長期金利差は縮まっていない(図表-4)。
従って、その前提を覆すような大きな波乱が起きない限り、米ドルに対する人民元レートはボックス圏でほぼ横ばいの値動きが続くと予想している。
なお、想定レンジの上下限を突破するリスク要因としてはユーロドルの急伸が挙げられる。「最近の人民元と今後の展開(2017年10月号)」で指摘したように、ここもとユーロ圏改革のスピードアップに対する期待は後退、ユーロドルは米国主導で動く地合いに回帰している。しかし、欧州の内需好調を背景にユーロドルの下値は堅く、ユーロと人民元の間に生じた乖離は依然高水準だ(図表-5)。
15年8月の人民元ショックで市場が混乱したことを教訓に、中国人民銀行は16年2月以降、人民元レートをバスケット通貨を参照して調整するようになった。そして、その後は米ドルに次いで比重の高いユーロとの連動性を高め、過去1年で計測した人民元とユーロの対ドルレートの相関係数は0.9前後で推移している(図表-6)。
しかし、その連動率は3分の1程度に留まったため、ユーロが急上昇した局面ではユーロと人民元に大きな乖離が発生、ユーロに対する人民元の基準値は1ユーロ=8元近辺まで急落した。その後ユーロ元は若干調整したものの、11月には再び同8元を窺う動きとなった。
また、「最近の人民元と今後の展開(2017年8月号)」で指摘したとおり、現在の人民元を取り巻く環境は人民元ショックが起きた時と、人民元が割高か割安かの水準感は逆であるものの、構造的には似た面がある。
従って、ユーロドルが再び高値トライする展開となれば、人民元レートも上限(1米ドル=6.55元)を試すことになるだろう。ユーロドルの動きには注意が必要である。
(*1) 今回の金融引き締めでは、基準金利の引き上げが予想されているだけに留まらず、シャドーバンキングやネット金融などに対する監督管理の強化も想定されていることから、株価を不安定にさせる要因ともなっている。
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関連レポート
(2017年12月4日「基礎研レター」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
経済研究部 上席研究員