自分は「男性でも女性でもない何か」 ある漫画家の「性」の話

「中性として生きようとする人たちの暗闇を照らす灯台でありたい」

「インターセックス」の漫画家

漫画家の新井祥さんは「インターセックス(性分化疾患、DSD)」だ。古くは両性具有、半陰陽などと言われ、性別の判断基準となる染色体や性腺、性器が先天的にどちらかに統一されていない、あるいはあいまいな状態の総称で、数千人に1人の割合で生まれるとされる。体の一部が非典型的であるだけで、ほとんどの当事者の性自認は男性か女性かはっきりしているという。

(なお、「インターセックス」という語を使用しない当事者や家族もいるが、新井さんが自身をそう呼ぶことからここでは使用する)

漫画家の新井祥さん

結婚、そして体に違和感が

新井さんは、自分は男性でもなく女性でもない何か、「中性」だと言う。

女性として生まれ育ち、男性と恋愛し結婚。やがて以前からの違和感が強くなってきた。具体的には、ヒゲが生える、陰核が肥大する。30歳の時に医師の診断を受け、染色体検査で「インターセックス」と診断された。

「兆候は高校生くらいからありました。男性と恋愛していないと口の周りの毛が濃くなったり筋肉量が上がったり女性に性的魅力を感じたりしたのですが、恋愛すると外見が女性的になる。検査で、男性ホルモン数値が通常女性の何倍もあり女性ホルモン数値が少ないと知り、男性と恋愛をしていない時期は女性ホルモンが極端に不足していたのかもしれない、と納得しました」

医師から「男になりたいですか?女になりたいですか?」と聞かれ、新井さんは「男」を選んだ。

「女を選んだら、女性ホルモン注射を定期的に打って心も体も女性的になっていったでしょう。ただ、自分は、30歳からの人生は男性のほうが性格に合ってるような気がしたので男を選びました」

男性ホルモン注射により、声が低くなる、毛深くなるなど身体は更に男性化。乳房も切除した。

「楽になりました。これは要らなかったな、と。ヒゲと胸が同時にあるとすごく不便なんですよ。どちらも決定的な性の記号ですから。世界がきらきらして見えました」

随分さばさばと決断しているように聞こえる。しかし新井さんは言う。

「こう生きよう、というのは一連の治療の後付けで、こう思わざるを得なかった。この人生で、今までとは違うけど楽しく生きてゆく術を探そうと決めたのです。治療の帰り道に」

自らの経験やゲイの青年との生活を漫画に

やがて離婚。元夫とは、今も仕事で助け合う仲間である。

現在はボーイズラブ漫画家のゲイの青年、こう君と同居している。

ボーイズラブ漫画家のこう君と同居

男女の枠を離れ中性として生きる新井さんの、戸籍は今も女性のままだ。

「戸籍の表記は割とどうでもいいです。それより、必要ないのに性別を記載しなきゃいけないものをなくしてほしいです。その点、運転免許証は素晴らしい身分証明書ですね」

新井さんは自らの体験や感じたことを『性別が、ない!』と題したコミックスで描き、当事者からは「救われた」「自殺しないで済んだ」「長い間うす暗い霧の中をさまよってた気持ちが晴れた」「これからは自分に向き合って生きる」という声が寄せられている。

そして間もなく、同名の映画が公開される。新井さんのこれまでの人生やこう君との日常が穏やかに描かれたドキュメンタリーだ。

「姿を見せるのは本当は嫌なんです。でも、この国の大人は何年たっても保守的でらちが明かない。『インターセックスの人はみんな、ちゃんとした男か女かになりたがるものだ』と言った医師もいました。セクシュアルマイノリティの中にすら男女二元論しか理解しない人がいる。自分が存在することで、そういう価値観や先入観をぶち壊したいのです。そして中性として生きようとする人たちの暗闇を照らす灯台でありたい。とはいえ、何か運動を起こそうというわけではないんです。自分は社会の中で普通に暮らして幸せに死んでやるぜ、ということです」

*画像はすべて映画『性別が、ない!』より

FNN PRIMEより転載

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