TikTokの“元祖”抖音(ドウイン)では有名人の宣伝動画が花盛り。AIの力でステマを防ぎ、スターを生み出す

#中華アプリから覗く経済 第3回目は、中国版(?)TikTokを活かしたマーケティングについて。

若者にあっという間に浸透した。

ショートムービーアプリ「TikTok」は2017年夏に日本版がリリースされると、瞬く間に人気を博した。広告プラットフォームの「TikTok Ads」によると、2019年2月時点で月間アクティブユーザー数950万人を誇るまでに成長した。

15秒を基本の長さとし、ダンスや料理、メイクなど創意工夫を凝らした動画が人気だ。このアプリ開発元は中国のITユニコーン「バイトダンス(字节跳动)」。アプリ名の「TikTok」も海外用で、中国では「抖音(ドウイン)」と呼ばれる。ちなみにこちらの人気は桁違いで、2019年7月時点で一日のユーザー数が3.2億人に達するという

今回は、この「抖音」に込められた工夫を読み解いていきたい。 

ハフポスト日本版では、中国のアプリ事情に詳しい専門家の解説を元に、スマホアプリを通じて中国経済を読み解いていきます。

第3回目は、日本ではTikTokとして知られる「抖音」についてです。

■ファン0人でも成り上がれる

そもそも中国の「抖音」と日本を含めた国際版の「TikTok」は別のものとして運営されている。日本のTikTokアプリを開いても中国のユーザーが抖音に投稿した動画は見られないし、逆もまた然りだ。

共通しているのは、「ただの人」だった人間が、一夜にして大きな影響力を持つ可能性があることだ。これはTwitterやYouTubeでも起きた現象で、中国ではインフルエンサーのことをKOLと呼ぶ。

KOLは「キー・オピニオン・リーダー」の略だ。ネット上(網)で流行った(紅)人という意味から「網紅(ワンホン)」とも言う。

このKOLを生み出すカギが抖音に搭載されたAIにある。中国でアプリ開発に従事した経験を持つクロスシーの又村深・執行役員は「抖音が面白いのは、フォロワーが多いからといって再生数が上がるとは限らないことです」と指摘する。

又村深・執行役員
又村深・執行役員

例えば、筆者が抖音のアプリを起動したとする。その時、トップページに表示されるのは必ずしも自分がフォローした人の動画とは限らない。知らないユーザーのものが「おすすめ」としてAIによってレコメンド(推薦)されるのだ。

「過去の検索履歴、例えば猫の動画をよく見る人には、猫がレコメンドされるなど、プラットフォーム側がかなりコントロールしているんです。ある分析を見ると、10万人フォロワーがいても、投稿直後にその動画に接触できるフォロワーは1万人くらいと、約10パーセントくらいです」 

逆に言えば、始めたばかりでフォロワーが少ない人にも「一発逆転」のチャンスがあるということだ。自分のあげた動画はフォロワーではない人の元に流れる。そこで「流し見」される程度ではコンテンツの海に沈んでいくが、内容次第では一気に脚光をあびる可能性があるという。又村さんは次のように解説する。

「動画が一番最初にレコメンドされ露出した時に、全部再生されたかとか、どれだけ『いいね』やコメントがついたか。いわゆるエンゲージメントが高ければ高いほど、次の第1ステップ・第2ステップに拡散されていく。

第2ステップでやっと自分のフォロワーにもたくさん見せることができるくらいです。このように蛇口を運営がコントロールしているんです。

本当にいいものは、例えフォロワーが1万人しかいなくても、一夜にして100万人増えちゃうとか...実例があるのが抖音の特徴ですね」

■本場のインフルエンサーたち

抖音の世界でスターダムにのし上がった人間は少なくない。

例えば、「李佳琦(リー・ジアチー)」は3000万を超えるフォロワーを誇る男性KOLだ。化粧品やコスメの紹介動画を得意とし、特に口紅を自分の唇に塗って色を紹介する動画が注目を集め「口紅のお兄さん(口紅一哥)」のあだ名でも知られる。

リー・ジアチーさん
リー・ジアチーさん
Getty Images

そのほか、人気の白猫「劉二豆」の気持ちを人間がアテレコして喋る「会説話的劉二豆(お話しできる劉二豆)」など動物系も人気。数千万人を超えるフォロワーを持つ。

これらのスターたちが手がけるのが広告案件だ。中でも「口紅のお兄さん」こと李は、5分間の生中継で1万5000本もの口紅を売りさばいたという“伝説”を持つ。セールストークの腕前を買われた李は、アリババグループの創業者、ジャック・マーと生中継でどちらが多くの口紅を販売できるかという対決企画に招かれたほどだ(当然、マーの惨敗に終わった)。

動画で宣伝した商品を“買わせる”工夫もある。

動画から商品を購入するには、画面を一度タップすれば良いだけ。すぐにECサイト内の商品ページに飛ぶ仕組みになっていて、購買欲が冷める前に売り上げに繋げることができるのだ。

■“ステマ”にご用心

中国ではこうしたKOLによるマーケティングが花盛りだ。この手法は、日本企業も現地市場に入り込むために活用したいところだ。

又村さんは「(チャンスは)ありますが...」と前置きしつつ、注意点を教えてくれた。

「いわゆる“ステルスマーケティング”をやろうとすると、(視聴者への)露出を絞られてしまって全然再生が伸びない。例えば広告っぽい動画をあげると、(運営の)コントロールに引っかかって露出がガクッと下がってしまうんです」

こっそり商品を宣伝したくても、動画自体がほぼ誰にも見られないものにされてしまう。広告は正規のルートで出すしかないのだ。そのためには、開発元のバイトダンスが運営する「シントゥ(星图)」を経由する必要がある。

「シントゥは、広告を出稿したい企業と、受けたいKOLをつなぐプラットフォームです。そこを経由したものでないと広告は認めていない。仮に日本で(同じことを)やった場合、独占禁止法に引っかかる可能性もあるのではと思います」(又村さん)

大スターが生まれ、宣伝動画が流行る抖音。スター誕生の秘訣も、広告としての使い道も、まずは特徴的なAIについて理解を深めるのが先決なのかもしれない。

抖音については、1分動画からも理解を深めてほしい。

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