ロシアのプーチン大統領は2月22日、ウクライナ東部で親ロシア派勢力が自称する「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認し、これらの地域に「平和維持」を目的としてロシア軍を派遣することを指示した。今回のロシアの動きに欧米各国は強く反発して、新たな制裁を科す構えだ。BBCなどが報じている。
しかし、ロシア軍が駐留することになる「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」とは何なのか?これまでの経緯をまとめよう。
■2014年に一方的に独立を宣言。2つの「人民共和国」を合わせて四国ほどの広さ
「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」。これらは、ウクライナ東部でロシアに国境を接するドンバス地域を実行支配する親ロシア勢力が名乗っている国家名だ。2014年4月に独立を宣言するも、国連加盟国が国家として承認するのは今回のロシアが初めて。
ウクライナを構成する州のうち、ドネツク州の一部を実効支配しているのが「ドネツク人民共和国」。同じくルガンスク州の一部を実効支配するのが「ルガンスク人民共和国」だ。この2つの自称国家は共同歩調を取っており、「ノヴォロシア人民共和国連邦」を結成したと主張している。
ドネツク州とルガンスク州は、ドネツ炭田の周辺に広がるウクライナ屈指の重工業地帯を抱える。旧ソ連時代に多くの労働者が移住してきた関係で、ウクライナでも特にロシア系の住民が多くなっている。
ワシントンポストによると、2つの「人民共和国」はそれぞれドネツク州とルガンスク州の全域を自分の領土だと主張しているが、実際に支配している地域は両州の3分の1程度だ。一説では、支配地域は約1万7000平方キロだという。
「ドネツク人民共和国」には230万人、「ルガンスク人民共和国」には150万人が住んでいると推定される。クリミアを除くウクライナ全体(4159万人)の1割程度の計算だ。住民の多くはロシア系で、日常的にロシア語を話しているという。
日本の読者にイメージしやすいように例えると、面積・人口ともに四国(面積:1万8301平方キロ、人口:369万人)と同程度だ。
2014年の「建国」以降、ウクライナ政府との間で続いた戦闘での死者は1万4000人以上。国家分裂と暴力、景気後退が地域にダメージを与えた結果、200万人以上が逃亡したという。
■クリミアのロシア編入の直後に、ウクライナ東部で「独立宣言」
小泉悠さんの『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書)によると、この2つの「共和国」がウクライナの一部を実効支配するようになった経緯は2014年の「マイダン革命」がきっかけだった。
2013年11月当時、ウクライナを率いていたヤヌコーヴィチ大統領は親ロシア派だった。ロシアからの圧力を受けて、EU加盟の前提となる連合協定への署名を拒否した。
これに対してEU入りを目指していた野党勢力などが反発。首都キエフのマイダン広場などで大規模な反政府デモが起き、騒乱状態となった。翌2014年には衝突が激しくなり、ヤヌコーヴィチ大統領は2月21日に首都キエフを脱出。ロシアに亡命した。
この混乱の直後の2月27日、ロシア系住民が多数を占めるクリミア半島で動きがあった。ロシア軍特殊作戦部隊が議会、行政施設、マスコミ・通信施設、空港などを占拠したのだ。3月16日には住民投票が実施、約9割の賛成票でクリミア半島の独立とロシア併合が可決。プーチン大統領はロシア編入を宣言した。ウクライナ政府はこの住民投票は無効だと主張している。
クリミア併合と機を同じくして、やはりロシア系住民が多いウクライナ東部でも独立を求める住民運動が発生。4月7日、ドネツクで政府の建物を占拠した親ロシア派勢力が「ドネツク人民共和国」の建国を宣言。翌5月11日には、ルガンスク州でも親ロシア派勢力が「ルガンスク人民共和国」の独立を宣言した。
この2つの「人民共和国」をウクライナは承認せず、ウクライナ軍との間で激しい戦闘になった。一時期はドネツク州とルガンスク州の大半を勢力下に収めた親ロシア派の武装勢力は、ウクライナ軍に対して劣勢になった。
しかし、ここでプーチン大統領が方針転換。同年8月に約4000人のロシア軍を両地域に投入して、ウクライナ軍を押し返した。ロシアとウクライナなどは、2014年から2015年に2回に渡って「ミンスク合意」を結んだ。
これはウクライナ東部での軍事衝突を停止するとともに、ウクライナ政府が「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」の指導者らとの「協議・合意により」、それぞれに「特別な地位」を与えることを規定するものだった。
ロシアはミンスク合意の履行を求めるも、ウクライナは両「人民共和国」との交渉をしなかった。ウクライナ政府高官は1月、AP通信に対し「ロシアに銃口を突き付けられる中で署名した」ミンスク合意を履行すれば、国家を破壊するだろうと述べていた。
参考資料:
・コトバンク『ドネツ炭田』
・コトバンク『クリミア独立宣言』
・小泉悠『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書)
・ワシントンポスト「ウクライナ・ドンバス地域のドネツクとルハーンシクが、プーチン大統領によって一触即発なのはなぜか?」