世界銀行グループは、2日発表した報告書「ビジネス環境の現状2019:改革を支える研修(Doing Business 2019: Training for Reform)」の中で、各国政府がこの1年間で、官僚主義を改め国内の民間セクターの参加を促すために過去最高の314件のビジネス改革を実施したと指摘する。
これらの改革は128カ国・地域で実施されたもので、雇用創出や民間投資の促進を通じて中小企業と起業家に恩恵をもたらしている。今年の改革件数は、これまでの最多記録である2年前の290件を上回った。
報告書は、改革は、特に必要があるとされる低所得や低位中所得国・地域で多く実施されており、その数は172件に上ったと指摘する。サブサハラ・アフリカ地域では、過去最多の40カ国が3年連続で記録更新となる107件の改革を実施した。中東・北アフリカ地域も、43件と過去最多を記録した。
「事業設立」の指標は引き続き改善が最も多く、改革件数は50件に上った。「契約執行」と「電力事情」もそれぞれ49件、26件と、記録的な数の改革が進められた。
世界銀行グループが毎年行う、企業の設立・経営を容易にするビジネス環境を対象とした年間総合ランキングでは、ニュージーランド、シンガポール、デンマークがそれぞれ2年連続で1位、2位、3位を占め、香港特別行政区、韓国、ジョージア、ノルウェー、米国、英国とマケドニア旧ユーゴスラビア共和国が続いた。
今年の上位20カ国・地域に見られる特筆すべきランキングの変動としては、アラブ首長国連邦(UAE)が11位と初めて20位以内にランクインしたほか、マレーシア(15位)とモーリシャスが(20位)が、それぞれ20位以内に返り咲いた。この1年間で、マレーシアは6件、モーリシャスは5件、アラブ首長国連邦は4件の改革を実施している。モーリシャスは、改革の一環として、事業設立の際の男女平等を達成するため、性別に基づく制約を撤廃した。
改革により最も改善が見られた今年の上位10カ国は、アフガニスタン、ジブチ、中国、アゼルバイジャン、インド、トーゴ、ケニア、コートジボワール、トルコ、ルワンダである。ジブチとインドはいずれも6件の改革を実施し、最も改善が見られた上位10カ国に2年連続でランクインした。アフガニスタンとトルコは、年間件数としては過去最多の5件と7件の改革をそれぞれ実施し、最も改善が見られた上位10カ国に初のランク入りとなった。
今回の「ビジネス環境の現状」最新版では、公務員や事業・不動産登記の利用者に提供される研修についてのデータを収集し分析している。ケーススタディとして、対象となる職員に必修研修と年次研修を実施した結果、事業登記と不動産登記の効率化が確認された事例が紹介されている。別のケーススタディは、税関職員と税関仲介業者に対する定期的な研修の結果、通関と書類審査の所要時間が短縮され、国際貿易が容易になったと指摘する。この他、電気技術者の資格認定と裁判官の研修を取り上げた2件のケーススタディが紹介されている。
「ビジネス環境の現状」が2003年に発行されて以来、モニタリング対象190カ国・地域の内、186カ国・地域において3,500件以上のビジネス改革が実施されてきた。
地域別でみると、東アジア・大洋州地域では、総合ランキング上位10カ国・地域にシンガポールと香港特別行政区が入った。加えて、中国は今年、最も改善が見られた上位10カ国・地域にランクインしており、世界ランキングも30位以上上がり46位につけた。地域全体では、この1年間で合計43件の改革が実施され、特に「事業設立」と「電力事情」の分野で大きな改善が見られた。
ヨーロッパ・中央アジア地域でも、今年の上位10カ国・地域に、ジョージア(昨年の9位から6位に上昇)、マケドニア旧ユーゴスラビア共和国(一つ上がって10位)の2カ国が入った。また、アゼルバイジャンとトルコの2カ国が、最も改善が見られた上位10カ国・地域に入った。同地域では改革が加速し、この1年間に昨年の43件(改訂値)を大きく上回る54件の改革が実施された。また、「ビジネス環境の現状」の全対象分野で改革が実施されたが、その内の多くが建設許可と国際貿易の規制緩和に重点を置くものであった。
ラテンアメリカ・カリブ海地域では、過去1年間に合計25件の改革が実施された。中でもブラジルは、4件の改革により改善を最も前進させた。域内の改革の大半は、担保取引における借入人と貸手の法的権利保護、及び事業設立の手続き改善を目的とするものであった。
中東・北アフリカ地域では、過去1年間に改革が大きく加速し、昨年の29件を上回る43件の改革が実施された。今年は、総合ランキング上位20カ国・地域にアラブ首長国連邦が初のランクインで11位に、最も改善が見られた上位10カ国・地域にジブチがそれぞれ入った。ただし、同地域は、14カ国・地域で女性起業家への制約があるなど、ジェンダー関連の分野でなおも後れを取っている。
南アジア地域では、最も改善が見られた上位10カ国・地域に初めて2カ国がランクインした。改革アジェンダに継続的に取り組んできたインドは、この1年間に6件の改革を実施した結果、総合ランキングを23位上げて77位につけ、今や域内で最高位のランキングとなっている。アフガニスタンは5件の改革を実施し、総合ランキングを16位上げて167位となった。地域全体ではこの1年間に合計19件の改革が実施され、その多くが事業設立、金融アクセス、納税と破綻処理制度の向上に重点を置くものであった。
サブサハラ・アフリカ地域は、この1年間に、昨年の83件を上回る107件の改革を実施し、3年連続で記録を更新した。また、今年は域内48カ国の中で、最低でも1件の改革を実施した国の数が、2年前の過去最多である37カ国を上回る40カ国となった。同地域からは、最も改善が見られた上位10カ国に、トーゴ、ケニア、コートジボワール、ルワンダの4カ国がランクインした。域内の改革は多岐にわたるが、その多くが不動産登記と破綻処理制度に関する規制緩和を目指すものであった。