国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)が、重症の子どもを運ぶ高規格ドクターカーを導入するため、クラウドファンディングで支援を募っている。子どもの重症患者が治療できる施設は限られている中、同センターは他の医療施設からの転院搬送も受け入れる「最後の砦」だ。国内有数の小児科病院で国立病院でもある同センターが、ネットで資金調達をするのはなぜなのか。
一刻を争う重い症状の子どもの搬送先として、東京都は4カ所の病院を指定している。その一つが同センターだ。小児集中治療室(PICU)は全国最大規模の20床。東京都以外の関東各県や、羽田空港経由で沖縄などからも患者が運ばれる。他の病院で治療が難しい子どもの「転院搬送」も多く、2016年度には約500人を運んだという。
その転院搬送に使われるのがドクターカーだ。搬送元の病院にセンターの医師や看護師が出向き、人工心肺装置などによる治療をしながら移動。PICUでの集中治療につなげる。センターでは2012年から1台が稼働しており、2016年度には94人の搬送に使われた。
狭い車内、容体急変に対応できず
だが、現在の車には問題がある。車内が狭くて医師が患者の両側に立てず、容体が急変した際に対応できない。一酸化窒素の供給装置や人工心臓の駆動装置など、車内に置けない機器もあり、伴走車が必要な場合もあるという。
同センター救急診療科の植松悟子医長は「現在も安全には万全を期している。だが、車内のスペースが広がれば、さらに安全な態勢で患者を搬送できる」と期待を込める。
今回、購入を検討している高規格ドクターカーは車内の幅が約20センチ広く、医師が両側に立てる。天井も高く、設置可能な機器が増えるという。
タクシーで転院搬送した時代も
同センターは2010年に、独立行政法人に移行。さらに現在は国立研究開発法人として、自立した経営が求められる存在だ。しかし、2013年度から3年連続で赤字を計上している。
また、センターによると、国からの助成金や補助金は光熱費や消耗品などにあてられるが、施設整備が必要な医療機器の購入には使えない。新たなドクターカーを自前で導入できないのは、こうした事情があるからだ。
実は、現在稼働中のドクターカーも、以前に勤務していた医師が寄付したもの。それより前は、タクシーに乗って患者を転院搬送していた時代もある。
同センター手術・集中治療部の鈴木康之部長は「欧米では、医療施設が寄付で建てられることも珍しくない。『子どもたちを救いたい』という多くの人の思いがドクターカーの導入につながればありがたい。ぜひ実現したい」と話す。
クラウドファンディングによる支援は、3月9日まで受け付けている。詳細は、https://a-port.asahi.com/projects/ncchd-doctorcar/。