同性婚を認めない民法や戸籍法は「婚姻の自由を保障した憲法違反だ」として、全国13組の同性カップルが国を訴えた裁判で、4月、東京地裁での第1回口頭弁論があった。
世論調査では、同性婚に賛成する人が過半数を占める。
一方で強硬に反対するのが右派の人たちだ。
広く社会やビジネスの場で「ダイバーシティ」(多様性)が唱えられるようになって久しいが、彼らが“伝統的な家族観”にこだわり、家族や婚姻について定めた憲法24条を変えてまで、戦前の家族に回帰しようとするのは一体なぜなのか。
そもそも、右派はなぜこんなに組織的で強いのか。どうして活発化したのか。
家族観や憲法改正に対する思いを紐解いた前編に続いて、『右派はなぜ家族に介入したがるのか』(大月書店)などの共著がある、大阪国際大学非常勤講師で哲学者の能川元一さんに聞いた。
ここで言う「右派」とは、 保守系宗教団体が結成した「日本を守る会」と保守系文化人や財界人の団体「日本を守る国民会議」が1997年に合流して成立させた「日本会議」に属する人々、および「日本会議」と同様の政治的思想をもつ人々を指す。
1990年代の変化と、それに対するバックラッシュ
前編では、右派にとって「差別がないことイコール平等ではない」という考え方や、“異なる人々は、異なる扱いを受けるのがあるべき姿だ”と考えているロジックを紐解いた。
そして、歴史的には戦後のGHQによる改革を不本意であったと考えるのが右派である。ただ、注意しなければならないのは、右派が保守したいもの、あるいは彼らが戻りたがっている地点は、戦前だけではないということだ。
「1990年代の変化に対する反動も大きいのです」と、能川さんは日本において右派が活発になったターニングポイントをあげる。
「1990年代には非自民の細川政権が誕生するなど、大きな政治的変動がありました。今からみれば不十分かもしれませんが、その時代に進歩的な変化があった」
「また、男女共同参画基本法が成立したのも、優生保護法が母体保護法に変わったのも、らい予防法や旧土人法が廃止されたのも1990年代です。戦争責任や社会に残る差別への取り組みがある程度は1990年代に行われています」
「LGBTQイシューで言うと、府中青年の家裁判が1991年に提訴され1997年に2審で原告勝訴が確定しました」
1990年代は、第二次世界大戦の反省や謝罪を表明したほか、男女平等や人権をめぐる動きが見られた。この反動で、保守団体「日本会議」のルーツが生まれたというのだ。
「この1997年は日本会議が結成された年でもあります。1990年代の進歩的な動きに対する巻き返しから生まれたのが日本会議です」
「日本会議にはいくつかのルーツがありますが、その1つは1995年に国会の不戦決議(歴史を教訓に平和への決意を新たにする決議)を阻止するために活動した草の根的な右翼のネットワークなのです」
少数の組織的な反対派と戦う力。欧米との違い
このような反動やバックラッシュは欧米でも見られるが、「日本と決定的に違う点がある」と能川さんは指摘する。
「日本はバックラッシュと戦う力が、欧米と比べてあまりにも弱い。社会運動のノウハウが継承されていないためです。これは1980年代以降に政府が行ってきた組合潰しの影響が大きい。ストライキやデモに対してこれほど否定的な態度が蔓延している国は他にありません」
こういった事情は、同性婚の法制化にも影を落とす。
「世論調査を見ても多くの人は同性婚の法制化に賛成しています。問題は、少数ではあるけれども非常に強硬に反対する人たちがいることです」
「その人たちは組織力に長けている。同性婚の法制化が政治議題になれば徹底した反対運動を起こすでしょう。そういうときには漠然と同性婚を許容している人がいくらいても政治的な力にはなりません。少数ながら強い反対運動に対抗出来るだけの強い推進運動を組織出来るかが勝負です」
そのために「運動に広がりを持たせる必要がある」と能川さんは言うが、現状ではなかなか難しいようにも思える。
LGBTQイシューについて、他のマイノリティ、たとえば女性や障がいのある人、在日コリアンたちと連帯していこうという意見はあるが、“一緒にされたくない”と反発する当事者もいるのが事実だ。
右派は一枚岩。差別される側は連帯すべき
しかし、「差別する側はいわば一枚岩であり、対抗するためには差別される側も連帯すべきだ」と能川さんは主張する。
「生活保護受給者に対しても、右派は差別的な態度をとります。“国から生活の面倒を見てもらってる人間が偉そうなことを言うな”というわけです」
「それがLGBTQとどういう関係があるのかと思う人がいるかもしれません。しかし、この論理は、“子どもを生まない同性カップルが同じ権利を主張するな”という主張と同根です」
「根底にあるのは、初めに言った“違う人間が違う扱いを受けるのは当然だ”という考え方であり、それにより右派の様々な差別は自然に結びついて連合をなしています。それに対抗するには右派のロジックの共通性を見極めた上で、同じ敵と戦っているんだと認識して連帯することです」
「別の問題で戦っているように見えても、突き詰めていくと右派のロジックという、いわば“ラスボス”がいることがわかってきます。その認識を共有出来ると状況が変わってくるのではないでしょうか」
能川元一(のがわ・もとかず)
1965年生まれ。大阪国際大学、神戸学院大学大学非常勤講師。哲学専攻。右派言説の研究を行う。共著に『海を渡る「慰安婦」問題』(岩波書店)、『右派はなぜ家族に介入したがるのか』(大月書店)、『まぼろしの「日本的家族」』などがある。