「ストックフォト」は、ウェブや広告、出版物などで使うための写真素材だ。
ネット上の記事や、雑誌のページ、街の看板など、私たちは生活のさまざまな場面でストックフォトの写真を目にする。
しかし、ストックフォトの世界には「人種格差」がある。モデルのほとんどが白人なのだ。
この人種格差をなくしたいという強い思いを抱いて、2人の人物が会社が立ち上げた。
クリエイティブ・エージェンシー「Street Ettiquette」の創業者で写真家のジョシュア・キッシと、起業家のカレン・オコンクウォがタッグを組んで立ち上げたのは、多様性のあるストックフォトをつくる会社「TONL」だ。
キッシは現在28歳。TONLのクリエイティブディレクターを務める。TONLのアイディアをオコンクウォに持ちかけられた時のことを、ハフポストUS版にこう語った。
「ストックフォトを撮らないかと持ちかけてきたのはカレンでした。でも、他の写真家と同じように、私はストックフォトを撮ることにあまり乗り気ではありませんでした」
「ストックフォトは、特徴もないつまらない写真だと思っていましたから」
ストックフォトは、白人モデルが多いだけではなく、誇張した表現の写真や、ウケを狙って明らかに演出した写真が少なくない。キッシがつまらない写真と思うのも無理はないかもしれない。
しかしキッシや、自身がメディアで働いて来た経験から、「多様性のあるストックフォト」の必要性を実感していた。
「私たちはふたりともメディアで働いてきて、メディアでほとんど黒人の画像がないのを目にしてきました」
「しかも、ひとりひとりの黒人が異なる文化的背景を持っているにも関わらず、それを無視して、全ての黒人が同じであるかのように描かれています」
「カレンも私も、祖先は西アフリカ出身です。彼女はナイジェリア、私はガーナです。ナイジェリアとガーナは地理的に近いので、文化は似ていますが、違いもあります。私たちは自らの経験から、他にも正しく伝えられていない文化があると感じています」
アメリカでは2016年、2人の黒人が警官によって立て続けに命を奪われる事件が起きた。
ルイジアナ州に住むアルトン・スターリングさんはコンビニエンスストアの外で、ミネソタ州のフィランド・カスティールさんは運転中の車を止められた後に、警察に射殺された。
この事件の後、「メディアにおける黒人のイメージを変えたい」というキッシとオコンクウォの気持ちは、更に強くなった。キッシはこう話す。
「彼らの悲劇的な死の後、TONLの写真は、他の人も自分と同じ人間だという考えを広めるものでなければいけないと思いました」
「ストック写真は生活必需品ではありませが、私たちは単なるストックフォトのマーケットを超えて、黒人の存在や人間性を広める商品を売りたいと思っています」
TONLのストックフォトのモデルは主に有色人種で、人種や民族的、宗教、性的指向はさまざまだ。TONLを利用する会社のオーナーや起業家は、それぞれのニーズにあわせて写真を自由に検索できる。
しかし今は、白人至上主義者やネオナチなどが声をあげるような、多様性にとって厳しい時代。そんな時代に、TONLが社会を変えることはできるのだろうか?その点に関して、キッシはポジティブに考えている。
「画像が、簡単になくなるようなことはありません。大きな仕組みの中でも、レストランのトイレで撮影した自撮りが力を発揮するのです」
「私はこの8年、ソーシャルメディアを通して画像に対する考えや共感の仕方が変わるのを目にしてきました。私たちはスマホだけでも、1日に何千枚もの写真と接触します。しかし、人々の目に触れるためには、こちらから働きかけなければいけません」
「TONLの写真は、魂と物語のあるものにしたい。私はいつも、ストック写真にはストーリーが必要だと感じています。ストーリーのある写真は、人間に目的や正当性、道筋を伝えます。私たちは、今現実に起きているような真実が歪められた環境を避けたいと思っています」