安倍晋三首相が9月28日召集予定の臨時国会の冒頭で衆院を解散し、10月中に総選挙を実施する方針を決めたと、各社報道で取り沙汰されている。
当の安倍首相は18日時点で、解散について「いちいち答えることは控えたい。(国連総会からの)帰国後に判断したい」と述べるにとどめているが、NHKニュースなどによると、安倍首相は25日に記者会見し、衆院解散に踏み切る理由を説明するものとみられている。
永田町では「解散風」が吹き、与野党とも「総選挙がある」ものとして準備を進めている。立候補予定者の中には、すでに自身の地元で街頭演説を始めている人もいる。
そんな中、自民党の石破茂・前地方創生相は9月21日、自身の派閥「水月会」の会合で、「国民に何のための解散か、何を問うのか、明確にする必要がある」と、安倍首相に対する苦言を呈した。
■石破氏「何のための解散か、国民に説明する責任がある」
石破氏は「まだ総理は何も言っていない」と前置きした上で、以下のように指摘した。
「多くの国民は、この解散の意義ってなんだろうかと、間違いなくそう思っていると認識しなければならない」
「国民に信を問おうとするならば、何のための解散か、国民に得心いただけるように説明する責任がある」
さらに石破氏は、衆院選の党公約についても言及。憲法改正については「我々の大きなテーマであり、自民党の大きな党是である。それを問うとすれば、何を問うのか、党内で意見集約をしなければならない」とクギを刺した。
その上で、「党内で民主主義を確立し、問うべきものを決め、問えないものは問うてはならない。党内民主主義をすっとばして国民に問うことはあってはならないと私は思っている」と語った。
■身内からも「冒頭解散」に苦言、そのワケは...
石破氏以外にも、身内の自民党からは首相側近の山本一太参院議員が「冒頭解散」に慎重論を唱えている。
山本氏は17日のブログで、「総理ご自身の言葉で大義名分を日本国民に十分、理解してもらうための最大限の努力が不可欠だ」と、安倍首相に説明を求めた。
河野洋平・元衆院議長も20日に記者会見し、「権力者側が自分の都合の良いときに、自分の都合で解散するのは果たして良いものか」と冒頭解散に苦言を呈した。
なぜこのような異議が出ているのか。それは、安倍首相が解散をするとみられるタイミングにある。
28日召集予定の臨時国会は、野党が憲法53条に基づき開会を要求したものだ。野党側は今回の臨時国会で、安倍首相やその妻・昭恵氏の関与の有無が焦点となった森友学園と加計学園の問題などを追及する構えだった。
一連の問題は、通常国会でも追求された。安倍首相も、通常国会閉会を受けた6月19日の記者会見で、加計学園問題について「政府への不信を招いた」などと謝罪。
この時、安倍首相は「信なくば立たずであります。何か指摘があればその都度、真摯に説明責任を果たしていく」と語っていた。
冒頭解散には、こうした問題をめぐる野党の追及を避ける狙いがあるという。毎日新聞は「与党内では首相の所信表明直後の解散や、所信表明の省略も検討されている」と報じている。
7月の都議選、自民党には逆風が吹き荒れ、惨敗した。この時、安倍首相は「大変、厳しい都民の審判が下された。わが党への厳しい叱咤と深刻に受け止め、深く反省しなければならない」と敗戦の弁を述べていた。都議選から1週間後、各社の世論調査で内閣支持率は30%台にまで急落した。
安倍首相は支持率回復を図るべく、8月に内閣改造を断行した。ただ、28日に衆議院が「冒頭解散」された場合、「仕事人内閣」と名付けた改造内閣の面々が、国会質疑に応じる機会がなくなる恐れもある。憲法70条の規定により、衆院総選挙後初の国会召集時、内閣は総辞職しなければならないからだ。
■過去の「冒頭解散」と違う点は?
戦後、国会召集日に衆院が解散された例は過去3度あるが、いずれの場合も内閣発足後初の国会ではなく、それ以前の国会で所信表明と質疑に応じている。
28日の臨時国会の冒頭で、衆議院が解散された場合、戦後初めて新内閣が国会論戦を経ることなく解散する事態になるという。山本一太氏は「国民の目には『安倍総理が国会での疑惑追求を逃れるために解散する』みたいに映る」と、17日のブログで苦言を呈している。