参院選(7月21日)の候補者たちに対し、子育て政策に特化したアンケート調査を東京の市民団体が行なっている。
選挙戦では年金や増税の問題が注目される中、子育てに絞って候補者の考えを「可視化」しようとするのはなぜか。代表者に聞いた。
この団体は、子育て中の親が中心になってつくる市民団体「みらい子育て全国ネットワーク(miraco)」。アンケートの結果は、ホームページで公開している。
アンケートでは、2019年10月から始まる幼児教育・保育の「無償化」について予算規模を「拡大すべき」「現状維持」「縮小すべき」のいずれかを問う項目や、保育士不足を解消するための最優先施策を聞く内容などがある。
「子ども・子育て」政策で積極的に取り組みたいことなど、全般的なことを質問する項目もある。
同じ政党に所属する候補者でも、優先すべき政策が個人によって異なるなど、特徴が出ているという。100文字以内の自由記述欄も設けており、回答内容から待機児童や子どもの貧困などの問題にどれだけ情熱があるか、その思いも透けて見える。
miracoは6月下旬からアンケート調査を開始。全国の小選挙区、比例区の立候補者370人のうち、356人にアンケートを依頼し、回答があった107人(7月18日正午時点)の結果を掲載している。
政党別の回答率(同日時点)は、日本共産党75%、立憲民主党52.4%、国民民主党42.9%、社会民主党42.9%、日本維新の会22.7%、自由民主党17.1%、れいわ新選組10%、公明党4.2%。投開票日までアンケートの回収を進め、順次公式サイトで掲載をしていく予定だ。SNSで「#子育て政策聞いてみた」をつけて情報を拡散している。
miraco代表で、女の子3人の母親でもある天野妙さんに、アンケートの活用法を聞いた。
━━ アンケートでこだわった点はどんなところですか。
私たちは、待機児童問題を解決したいという思いで、2017年に子育て中のパパ・ママが集まって「希望するみんなが保育園に入れる社会をめざす会」を立ち上げました。
ただ、待機児童の問題に取り組むだけでは、子育ての環境を良くすることは難しいということから、2018年10月に「みらい子育て全国ネットワーク」に名前を変えて活動してきました。
これまで、2017年の総選挙や、2019年の統一地方選挙などの立候補者に対して、子育て政策を問う同様のアンケートを実施してきましたが、今回の参院選では、男性の育児休業の義務化について、新たに質問を入れました。
男性の育休取得率は6.16%にとどまっていますが、「従業員から手を挙げる現在の制度ではなく、企業から従業員へ働きかける形で、従業員は希望すれば育休を取らない選択もできる『企業に対する義務化』について、賛成か反対か」という質問にしています。
自民党内に、男性の育休義務化を推進する議員連盟ができたのですが、党内にも多様な意見があって、いまは若手議員が中心となって活動しています。
育休の義務化を本当に実現するためには、世論の後押しがないと先に進まないと思っています。義務化を推進している議員を孤立させないためにも、男性の育休義務化に関する項目をアンケートに入れて、それぞれの立候補者の立場がわかるようにしました。
━━ それぞれの回答内容から、どんなことが読み取れますか。
子どもの貧困対策について、最も積極的に取り組みたいと思うことを聞いた質問では、「子どもへの学習支援」を選ぶ人と、「親への就業支援」を選ぶ人に分かれるなど、考えの違いが出ています。
コメント欄を読んでみると、ある候補者は、自分の経験を踏まえて「育児中の転勤を免除する法律を作りたい」と書いているなど、所属する政党とは関係なく、個人の思いが見えてくるところがおもしろいです。
また、自由記述を制限の100文字ぴったりで書いている人がいる一方で、政党によっては判で押したような回答だったり、そもそもアンケートの回答をしてくれなかったりするなど、子育て政策を本当にやりたい人なのかどうかも見えてきます。
━━ 有権者は、このアンケートをどのように利用したらよいですか。
まずは、自分の選挙区の候補者について見て頂くことが一番大事です。
比例区については、気になる政党の候補者を掘り下げて見てください。自分もアンケートに答えてみて、意見があう人が誰なのかを見てみるのが一番いいと思います。
独身の人や、お子さんがいない人がこれをみて判断するのは難しいかもしれませんが、次の世代の子どもたちがどういう時代を迎えていくのかという視点で、是非興味をもってみてもらいたいです。
本来、自分の生活と政治は近いものだと思っています。質問項目で、「乳幼児の防災対策」についても聞いていますが、避難所で授乳室や親子エリアなどをわけてあげたほうがいいなとか、災害時の地域共助の仕組み作りが必要だなとか、自分の過去の経験に照らし合わせて考えてみて欲しいです。
━━ 自分が誰に投票したらいいか、絞り込むことが難しいと考えている有権者もいると思いますが、アドバイスはありますか。
私は、保育士に性犯罪歴のスクリーニングを導入すべきだと考えて活動しています。
イギリスやニュージーランドなどで、この制度の導入が始まっていますが、子どもに対する性犯罪をした人は、再犯率が非常に高いことがわかっています。犯罪者にならない、被害者にならないために必要な制度だと思っていますが、日本では職業選択の自由を阻害するという理由で、全然動いていません。
今回のアンケートでは、「安心して子どもを保育所に預けられるようにするための施策」で積極的に取り組みたいものは何かという質問で、「保育士と児童数の配置基準見直し」「病児・病後児保育の充実」などの選択肢とともに、この「保育士の性犯罪歴のスクリーニング導入」も入れています。
「配置基準の見直し」の優先度が高いことは当然だと思っていますが、私自身は、「スクリーニング」についても気を配って欲しいと思っています。同じように、自分の関心がある政策テーマについて、同じ意見かどうかも、候補者を選択する際の参考になると思います。